おはようございます。ヴィスタリアです。
花組「マスカレード・ホテル」の青年館初日を観劇してのキャストごとの感想です。
ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想で、内容に触れています。
ちなみに原作の小説は読んだ上で観劇しましたが映画は未見です。
新田浩介/瀬戸かずや
あきらさん(瀬戸かずや)の満を持しての初東上主演が本当にうれしいです。
あきらさんが真ん中に立っていることに胸が熱くなりました。
あきらさん、最高にかっこよかったです。
芝居、歌、ダンスのいずれも磨き抜かれた実力があること、新田という男性をかっこよく演じていることはもちろん、
舞台での佇まい、在り方に男役の美学、気品のようなものを凛と纏っているのです。
男役10年を言われますが15年くらいして熟成される、男役の技術的なものとその男役さんの個性が絶妙に混ざって錬成された美学を見ると貴くて拝みたい気持ちになります。
新田警部補の私服スタイル、ホテルの制服(着崩したのとキッチリ着たのと)、それにスーツと花男の着こなしがたくさん見られるのも眼福でした。
かといってキメキメではなくて、新田という役に合わせてあくまでもさりげないかっこよさなんです。
これまで生きてきたなかで散々かっこいいと言われてきたし、今回の任務でも「他の刑事を見てみろ。ホテルマンって面か」と本宮警部補/羽立光来に言われるわけで、
自分でもかっこいいのはわかっているけれどそれを重要なことだとは思っていないーーそんな男らしさのあるあきらさんの新田でした。
事件解決に向かうにつれて微妙に変化していく山岸尚美/朝月希和との関係性の見せ方が丁寧で(ほんとうに微妙な変化なんです)、
解決後の変化の付け方はさすがのかっこよさでした。
フィナーレのデュエットダンスでは流れるような動きが揃っていて2人の間に流れる空気に酔いました。
ダイナミックなリフトもすごかったです。
あきらさんも細~いですが、のっているひらめちゃんが体重を感じさせないんです。
乗せる方も乗る方も上手なんだろうなあと思いました。
白いお衣裳で真ん中に立つあきらさんも素敵でしたし、
1幕の最後のマスカレードも見せ場だと思います。
山岸尚美/朝月希和
雪組から花組に戻ってこられたひらめちゃん(朝月希和)。
ひらめちゃん、おかえりなさい!
憧れて入ったホテルコルテシアのフロントクラークという仕事に強い誇りとプライドを持っている仕事のできる女性です。
いわゆる娘役のお慕いする役どころではないのですが、ひらめちゃんは「こういう女性である前に1人の働く人間であるヒロインも成立するんだなあ」と思わせてくれました。
仕事への矜持ゆえに新田/瀬戸かずやに強い口調で迫りますが、清潔でプライドがあるから嫌な感じがしないんです。
山岸尚美の一本通っている筋が伝わってくるからでしょう。
また心根が優しくお客様ーー人間を信頼していることが「この街は」のデュエットで表現されていました。
このデュエットが山岸と、警察という仕事に誇りを持っているがゆえに人を疑う新田/瀬戸かずやとのいい対比になっていました。
(プログラムの谷正純先生によると今作の音楽はべて若手作曲家植田浩徳先生によるものだそうです。)
ホテルの紫とオレンジの制服姿の着こなし、仕草も美しかったです。
そして本編最後やフィナーレのドレス姿になると華奢さにはっとしました。
プログラムの背表紙ですてきなドレス姿を披露されているのですが、これ以上お痩せになってはいけませんよ…とちょっと心配になるくらいほっそりされています。
最後の場面で制服を脱いだ山岸尚美が見せた女性らしさ、かわいらしさにひらめちゃんの娘役力を見ました。
能勢金治郎/飛龍つかさ
能勢は原作では中年の刑事で新田警部補より年上の設定ですが、舞台では年下の役になりキャラクターも大きく変わっていました。
新田のホテルでの相棒が山岸尚美/朝月希和なら警察での相棒がこの新田ですからキーパーソンの一人ですが、
つかさくんがどのように演じるのかとても楽しみにしていました。
キャラクターの改変にはなるほどと思いました。
事件の説明にホワイトボードを使っていたのはセットの予算の関係もあるのかしら?と脳裏をかすめたのですが、
この小道具のチョイスがつかさくんの作り上げた能勢のキャラクターにぴったり。
登場するだけで笑いを巻き起こしていたつかさくん、名演でした。
チェックのスーツやド派手なジャケット、ショッキングピンクのパンツを着こなすつかさくんの成り切り具合が最高でした。
最後の場面では原作で能勢がいい味を出していてそれは中年ならではのものだったのですが、
つかさくんの能勢はこの能勢ならではのいい味を出していました。
エリートである新田に憧憬を抱きときに”暴走”する変わり者の一面と組織のなかで働く駒としての一面の両方が表現されていました。
歌も安定していて上手ですし、事件の説明をする怒涛のセリフ回しも聞き取りやすくて伝わってくるのもさすがです。
この舞台で2番手どころで活躍されていましたが今回の思い切った役でブレイクスルーされたのではないでしょうか。
今後の活躍が楽しみです。
片桐瑤子/音くり寿
プロローグでくりすちゃんが出てきたとき、かわいさと可憐さに目を奪われ、
劇場いっぱいに響く美しい歌声に心を奪われました。
フィナーレの影ソロもすばらしくていつまででも聞いていたかったです。
本編で役として最初に登場されたときは、歩き方や喋り方をとてもよく工夫されているのがわかりました。
巧いですねえ。
くりすちゃんが登場すると、独特の存在感があって、
「この人はいったい何をするんだろうか」という不穏さが滲んでいて劇場の空気が引き締まってくりすちゃんに向かって集中するのを感じました。
2幕に登場されたときの背筋が凍るような笑い声、鬼気迫る演技は怪演といっていいでしょう。
どんな役でも任せられる上に娘役さんの見せ方の美しさもあり、歌もダンスもよくてすばらしい娘役さんだと思います。
杉下ベルキャプテン/帆純まひろ
ベルボーイとして潜入することになった関根巡査/紅羽真希を指導し、
片桐瑤子/音くり寿を客室に案内するベルキャプテンの杉下です。
杉下がどのような人物なのかが窺えるようなセリフはないものの、仕事に誠実で実直でホスピタリティあふれる親切なベルボーイであることがホッティ(帆純まひろ)の演技、舞台での居方から伝わってきます。
トラブルがあるとフロントに立つ山岸尚美/朝月希和にさりげなく目配せをしたり、
白状をついた片桐瑤子/音くり寿を案内するときの丁寧さなどに
プロフェッショナルだなと思いました。
タカラジェンヌさんも姿勢が美しいですが、姿勢の保ち方、手の位置や指の伸ばし方がいつもの男役のものではなくホテルマンの制服にふさわしいものに工夫されていました。
栗原健治/高翔みず希
プログラムのスチールからして栗原役になりきっているさおた組長、さすがです。
能勢のようなキャラクターの大きな改変ではありませんが、原作と大きく雰囲気が変わっていました。
さおた組長の役づくりにコミカルな要素があってクスリと笑ってしまう上に、
あきらさんとの間が絶妙で客席が沸いていました。
能勢にも言えることですが、このコミカルな要素を取り入れたことは谷正純先生の手腕が光っていた点だと思います。
特に栗原に笑いの要素が一切ない原作通りのものだとしたら、あまりにも哀れで惨めで重たくなりすぎるのではないでしょうか。
その他印象に残ったキャストたち
一言ずつですが触れさせてください。
◆藤木総支配人/汝鳥伶
ゆうちゃんさんの慈愛のある声と懐の深いホテルの総支配人の役がぴったりでした。
本編の中でダンスナンバーの真ん中に立たれていて珍しいものを拝見しました。
◆本宮警部補/羽立光来
新田/瀬戸かずやの先輩刑事ですが、上手ですねえ。
びっくさん(羽立光来)は「ハンナのお花屋さん」「A Fairy Tale」など色濃くキャラの立った役の印象が強いのですが、
今回の普通の人物である本宮警部補のセリフの一つひとつがさりげなく上手ですばらしかったです。
惜しむらくはびっくさんの歌のソロがなかったことです。
これは稲垣捜査一課長/和海しょうにも言えることで、バリバリ歌えるお2人が警察関係者にいたのですから、
ソロ歌唱のある警察ナンバーがあってほしかったです。
(なかったですよね?)
警察関係者は稲垣捜査一課長/和海しょうが、
ホテルは久我フロントマネージャー/冴月瑠那が手堅い演技で舞台を引き締めていました。
娘役さんでは、ホテルのブライダル係仁科理恵/糸月雪羽が華やかなかわいらしさで、
山岸尚美/朝月希和と2人のシーンがあって目立っていました。
ウェイトレスの愛蘭みこちゃんもかわいかったです。
警察の巡査3人(馬淵巡査/真鳳つぐみ、比嘉巡査/若草萌香、野宮巡査/夏葉ことり)がビシッとしていて
ホテルとは違うトレーニングをされた働く女性を感じさせてくれました。
今回こうしてキャストごとの感想を書いていて少し残念に思ったのはミステリの宝塚化は成功しているが、役と役の間に起きるドラマが少ないことです。
作品もおもしろくて見せ場も望むなんて贅沢かもしれませんが、
事件の説明に時間を割くためか見せ場のある役が少なかったように思います。
フィナーレでパレード(的な一人ひとりのお辞儀)さえなかったくらいですから、上演時間から見ても脚本としてもこれ以上セリフを削れなかったのかなと推察します。
とはいえ実力者の揃った充実した作品であることは間違いありません
事件の説明のセリフにさえ役の魂を感じた花組生のすばらしい舞台です。
このホテルにはあと何回かチェックインしますのでまた気がついたことがあれば記事にしたいです。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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