こんばんは、ヴィスタリアです。
宙組「壮麗帝」をライブ配信で見た独断と偏見と偏愛に満ちた感想です。
なお作品の内容に触れています。
「壮麗帝」樫畑先生が描いた新鮮な三角関係
コロナ禍の公演中止後の再開は小柳奈穂子先生(花組「はいからさんが通る)、謝珠栄先生(星組「眩耀の谷」)、上田久美子先生(宙組「FLYING SAPA」)、そして「壮麗帝」の樫畑亜依子先生と奇しくも女性の演出家が揃いました。
樫畑亜依子先生の作品を見るのはこれが初めてですが、「壮麗帝」はぜひ劇場で観劇したい良作だと思いました。
そう思った理由を3つ挙げてみます↓
1.何十年にも及ぶ歴史的背景のある物語を約2時間半の上演時間に収める工夫があった
2.ダイジェストで終わらず、ドラマチックなストーリ―が展開された
3.主要人物3人の関係が新鮮
まず何十年にも及ぶ歴史的背景のある物語を約2時間半の上演時間に収める工夫が随所にありました。
ストーリーテラーのマトラークチュ/悠真倫の語りが大きな貢献をしていますし、
照明の切り替え、キャストの演技などで一気に10年の歳月を流させたり情勢の変化をわかりやすく伝えてくれました。
たとえば2幕のハフサ/凛城きらがハレムに君臨する強さから一転して悲哀を滲ませていますが、表現の深さといい、唇の色がなかったり胸を手で押さえていたり「あれ?」と思ったら一瞬の暗転から次のシーンでは亡くなっていて、
時間の経過をものすごく手短に表現していると思ったシーンの一つです。
これだけ長い時間の物語を描こうとするとダイジェストに終わってしまって
人物の心情、関係性やストーリーなどが浅くなり見ている者が置いてけぼりにされる危うさがありますが、
エピソードの取捨選択あるいはアレンジによりダイジェストで終わることなくドラマチックなストーリーが展開されました。
オスマン帝国とサファヴィー朝の戦いにアフメト/鷹翔千空の恨みによる反乱を絡めることでスト―リーは一層大きなうねりを生み出しました。
(史実ではアフメトはエジプトで処刑されているようなのでサファヴィー朝とは結んではいません。参照:wikipedia
「夢の雫、黄金の鳥」でもそのように描かれています。
このあたりは樫畑先生のアレンジなのかなと思いました。)
またそれぞれの役にもきちんとドラマがありました。
マヒデヴラン/秋音光、エレナ/花宮沙羅のハレムの女性たち生き様、
ハフサ/凛城きらやハティージェ/天彩峰里のオスマン帝国の皇族としての矜持、
奴隷の身からデヴシルメにより登用され大宰相にまで上りつめたイブラヒム/和希そらへ向けられた嫉妬。
もっと見たいエピソードや時間の早送りが惜しまれるものもありましたが、本来なら一本物の尺がいるくらいの内容が凝縮されて描かれていたと思います。
そしてドラマの最たるものが主要人物3人(スレイマン、ヒュッレム、イブラヒム)の関係性であり、この三人の関係が新鮮であったことが作品の大きな魅力になっています。
スレイマン/桜木みなととヒュッレム(アレクサンドラ)/遥羽ららの愛と目指した施政、
スレイマン/桜木みなととイブラヒム/和希そらの関係性の変化とわかりあえなかったもの、
ヒュッレム/遥羽ららとイブラヒム/和希そらのスレイマンを間に挟んでの”権力”闘争。
宝塚歌劇でトリデンテの三角関係(あるいは多角関係)はよくありますけれど
大体は1人の女性を巡って男役が争うか、主演男役が2人の女性の間で懊悩するかでしょう。
それが政治、権力が絡んで主演男役を挟んで男役と娘役が対峙するのですから。
イブラヒムがスレイマンから「ヒュッレム(幸福な者)」という新たな名を授かったアレクサンドラのことを最後までヒュッレムと呼ぶことはなかったのにはシビレました。
イブラヒムもまたスレイマンからその名を貰っていることが描かれていたのでなおさらです。
この新たな三角関係はこの題材を選んだ樫畑先生の慧眼あってこそ生まれたものであり、ヒュッレムという奴隷から寵姫へと身を立てる才覚のあったヒロインだから成立するものでしょう。
ただ見る人によってはヒュッレムをスレイマンを愛で縛って思いのままに操り内政に干渉する女性と捉えるかもしれないとも思いました。
自分は関連作品(篠原千絵先生の「夢の雫、黄金の鳥籠」)を読んだことでヒュッレムは自ら学ぶ意欲と能力、先見性と広い視野と実行力のある女性というイメージを持っていたのでそうは捉えませんでした。
フィナーレを削ればこのヒュッレムという女性の生き様であったりストーリーを一層丁寧に掘り下げる時間が確保できたでしょうけれど、
この作品はフィナーレがあった方が断然いいと思いますし、なによりとてもすばらしいフィナーレでした。
もう1回、いえもう何度でも見たいです。
男役の黒燕尾にそらくんのキレキレのダンス、ずんららのすばらしいデュエットダンスに見惚れました。
リフト、ちょっとびっくりするくらい回り続けていて度肝を抜かれましたし、のっているららちゃんの体重が消えたのもすごかったです。
花組「マスカレード・ホテル」であきらさん(瀬戸かずや)とひらめちゃん(朝月希和)のすばらしいデュエットダンスと長いリフトにのときもひらめちゃんの体重が消えたのを目にしたのを思い出しました。
キャストごとの感想
樫畑先生にぜひともお礼を言いたいのがほとんど全ての役名がセリフに入っていたことです。
ライブ配信やライブビューイングは役名の表示は出ませんし、別箱は本公演では気づけない下級生との出会いの機会でもあるので役名がわかるとプログラムや配役表で確認ができるので助かります。
(まだまだ勉強不足で生徒さんのお顔とお名前を完全に一致させることができないのです。)
今回はキャストの一覧を見ながらライブ配信を見ていました。
◆スレイマン/桜木みなと
「オーシャンズ11」のキーパーソンテリー・ベネディクト役の好演が光るずんちゃんですが、
ベネディクトを経験した後の加速度的な成長を賞賛せずにいられません。
タカラヅカスペシャルの「王家に捧ぐ歌」、「El Japon イスパニアのサムライ/アクアヴィーテ!!」でずんちゃんを見る度に「またかっこよくなってるしうまくなってる!オーラもすごくなってる」と思っていましたが、
今回の主演スレイマン役は男役として一層大きな存在となったのを感じました。
皇帝というスケールの大きな役を堂々と演じており、特に目に込められた力がすごくてイブラヒム/和希そらとの魂と魂がぶつかり合うような争いのシーンは圧倒されました。
一方でヒュッレム/遥羽ららとの甘いラブシーンはものすごくかっこよくて溶けるかと思いました。
この本編でもフィナーレのデュエットダンスでもずんちゃんはキスシーンで大変にすばらしい技を見せてくれて思わず言葉にならない悲鳴がもれてしまいました。
ライブ配信だからこそ広げた手の見せ方や筋の出し方にこだわっているのもよくわかり、特にデュエットダンスはあまり見ないアングルで大注目してしまいました。
これ、劇場で目撃されたファンの方は大丈夫だったんでしょうか。
◆ヒュッレム/ 遥羽らら
奴隷として売られた少女が数奇な運命をたどってスレイマン帝のハレムで妾(そばめ)となりやがて寵姫となっていく変化の表現がとてもうまく、かつ自然だったのが印象的でした。
年齢と立場が変化していくなかでも自身の思いをまっすぐ貫こうとする強さを持っている女性であることは
登場シーンの「あなたといたい」とスレイマンにぶつかっていくところから変わりません。
ららちゃんの演技にはそういうヒュッレム(アレクサンドラ)の芯、軸がしっかりとありました。
スレイマンの前ではでない彼女の芯の強さがイブラヒム/和希そらとの対峙で出てくるのは新しい三角関係の象徴のようで好きでしたし、
「陛下も私もあなたの道具ではない」という凛としたセリフ、自らイブラヒムと2人で話したいと言い出したときの心を写した瞳は忘れられません。
また雨音のするシーンでのすべてを手放したような、洗い流されたような表情がすごかったです。
これから起こることを予感させるものがありました。
たくさんの美しい衣裳を美しく着こなし、またかわいくて愛らしくて娘役力の高さを感じました。
芝居・歌・ダンスの実力だけでなくこうした芸も磨かれて輝いているのだなと思いました。
2幕で巻いたロングヘアの後ろ姿が映ったときに赤系と金髪の2色のカツラであることに気がつきました。
奇しくも赤系の髪の毛✕淡い水色系の衣裳の組合せが「FALYING SAPA」のミレナ/星風まどかと共通していて、
もちろん色味も微妙に違いますし雰囲気がまったく違うのですがおもしろい偶然でした。
◆イブラヒム/和希そら
そらくんが歌も踊りも芝居もなんでもできることは知っていましたが想像以上の大活躍で、複雑な役を存分に演じた2番手でした。
歌・ダンス・立ち回りとすばらしいものを見せてくれましたが、そうした高い技術の鮮やかさと同時に耐えていたり沈黙しているシーンで訴えてくるものが迫ってきました。
奴隷から大宰相にまで上りつめていくのは栄光も味わいもすれば辛い思いもたくさんしたでしょうけれど、そらくんの演技はその辛い思いが痛いほど伝わってきました。
耐えて自身を律しながら宰相たちの蔑むような言葉を聞いていたり、ヒュッレムに「2人だけで話がしたい」と言われた場面での肩の緊張のさせ方、腕の強張らせ方からイブラヒムの気持がわかるんです。
このときヒュッレム(イブラヒムにとってはアレクサンドラ)の言葉を静かに聞いているようでありながら実際は怒り心頭であることが言葉を発する前からビリビリ伝わってきました。
巧いですねえ。
崇拝あるいは心酔しているであろうスレイマンから何度強く諌められてもサファヴィー朝との密約を諦めなかったイブラヒムの信念は「アレクサンドラと結ばれたから内政ばかり。以前はもっと勢いがあって外を見ていた」という叫びにむきだしのままさらけ出されます。
スレイマンに言い募る「なぜ一気に諸外国を落とさなかった」等々の言葉に夢を見ていたのが、そしてその夢をイブラヒムは裏切られたと感じているーーと思いました。
後戻りできないところまで行ったイブラヒムとスレイマンは刃を交えることとなりますが、なんとしても自分は罰を受けなければならないという気迫のすさまじさに圧倒され、また悲しさに心を揺さぶられました。
圧巻のシーンはずんちゃんのスレイマンとそらくんのイブラヒムだったからこそ生まれたと思いました。
もう1度見たいです。
◆ハティージェ/天彩峰里
登場したころの素直でかわいい少女時代もよかったですし、大人になってからはイブラヒムへの愛が内側から自然とにじむような柔らかさがありました。
そしてなんといっても夫となったイブラヒムと兄スレイマンの関係が変わってしまった後の場面が圧巻でした。
皇女としての立場をわきまえており自負と高貴さを持った女性であることが伝わってきました。
歌も慟哭も忘れられません。
ヒロインをつとめた「群盗」も今作も悲しい役が続いたので次の別箱公演はじゅりちゃんが幸せになるところを見たいと思いました。
◆アフメト/鷹翔千空
悪役のこってぃを初めて見ました。
細面の美貌にギラついた目、そしてお髭が最高でした。
野心と狡さ、嫉妬と焦燥がよく出ていて、自然とスレイマン(桜木みなと)とイブラヒム/和希そらよりも年上に見えました。
1幕終わりのソロも聞きごたえがありました。
◆ハフサ/凛城きら
「神々の土地」アレクサンドラとはまた違う高貴な女性の役ですが、りんきらさんの美貌が際立ちますね。
カーテンコールですっと立っているときも美しさに目が吸い寄せられました。
ハレムに君臨する皇帝の母としての重々しさ、迫力が第一声からありましたし、2幕のソロの悲哀に深みがあって胸を打たれました。
この場面でぐっと雰囲気が変わったと画面越しでも感じたのでぜひ劇場で体感したかったです。
◆マヒデヴラン/秋音光
あきもさんの女装が美しいことは「アクアヴィーテ!!」で知っていましたが、美しいですねえ。
黒髪に真っ赤な口紅、そして濃い色の衣裳がとてもお似合いでした。
タカラヅカニュースでずんららに「怖い」と言われて「私は楽しいです」と仰せでしたけれど納得です。
こういう強かで凍りつくようなおそろしさがあって、そして悲しみもある女性は演じ甲斐があるでしょう。
◆タスマースブ/真白悠希
堂々とした存在感と芝居にどなたかしら…と思ったらましろっち(真白悠希)、104期生なんですね。
学年を見て驚くほど役としての貫録、存在感がありました。
この先が楽しみですし注目したいです。
いまのところ「壮麗帝」の東上公演の予定はないままになっていますが、いつか劇場で見られる日がきてほしいです。
短い公演期間で終わらせるにはあまりにももったいない作品でありチームでした。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
ランキングに参加しています。
ポチッとしていただたらうれしいです。
↓ ↓ ↓ ↓ ↓