観劇の感想

月組「桜嵐記」なんでこんなに泣けるのか/「Dream Chaser」王道を愛す(観劇の雑感)

こんばんは、ヴィスタリアです。

東京宝塚劇場で初日から間もない月組「桜嵐記/Dream Chaser」を観劇してきました。

ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想未満の雑感で、作品の内容に触れています。

「桜嵐記」なんでこんなに泣けるのか

宝塚大劇場で初日から間もないうちに観劇してから2ヶ月弱での観劇です。

上田久美子先生の「桜嵐記」は初見では嗚咽を堪えるのが大変なくらい泣きました。

楠木正行/珠城りょう後村上天皇/暁千星の間に厳然とある動かせない政情、
そして弁内侍/美園さくらとの儚い春の幸せと
クライマックスの四条畷の戦あたりからじわじわと涙が滲んで舞台が進むにつれてマスクがぐちゃぐちゃになるくらい泣きました。

こんなに泣けるのは作品の前半で楠木三兄弟や弁内侍、赤坂村の人々、雑兵として戦に出向くほかない民たちの人となりや生き様、生業が端的に、効果的に描かれているからでしょう。

こうしたエピソードがあると感情移入しやすくなりますから上田久美子先生はそこを押さえて脚本を書かれたのだと思いました。

なので2度目の観劇ではその前半のエピソードの、本来であれば泣くような場面でもないところから泣けて仕方なかったです。

煮炊きが得意で妻百合/海乃美月を愛する正時/鳳月杏
機転がきいて情に厚くまっすぐなジンベエ/千海華蘭、正行を慕う武士と民たち。

日常を生きている他でもないその役(人物)のことが生き生きと伝わってくるから
「ああ、でも皆死んでしまうだよね。この貴い日常が潰えてしまう」と思うだけで勝手に涙があふれてきました。

創作物にのみならず現実でも戦争、災害、貧困、差別に暴力ということがあふれていて、自分は偶々幸いにも報道でそれらに触れる日々を過ごしていますが、
自分なりにそれらの問題を考えたり心を寄せたいと思うとき、辛い目に遭っている人々をちゃんと想像できているか?と問うことがあります。

戦争や災害などで大勢の方が被害に遭ったときにたとえば被害者の数という数字で捉えるのではなく
1人ひとりの人生や生活を思えるか?ということです。

月組生の熱演を観ながらそんなことを思い出し、
そして泣きながらも「上田久美子先生の狙いがよくわかるな…」とふと思い浮かんだのは
このまま前半から泣いていたら身が持たないし頭も心もパンクしてしまうからブレーキをかけたのかもしれません。

まだ観劇の予定があるので次に観たときはどんなことを思うのか、どこでどう心を動かし涙を流すのか
自分のなかで落とし込めたらまた書きたいと思います。

王道ショー「Dream Chaser」の安定感と名場面

中村暁先生のショーは星組「ESTRELLAS」もそうでしたが、目新しさや新鮮さという面では物足りないのかもしれませんが
安定感がありながら飽きることがないのがいいなあと思います。

初見は宝塚歌劇の王道ショーらしさを楽しめると同時に回数を重ねるとじわじわハマるスルメ系の楽しさもあって自分は好きです。

公演が発表になったときに「……大丈夫かな」と一抹の不安を抱いたり、
観ていて「これは楽しいのかもしれないけれど、美学がないというかただ刺激されているだけかも…」と思うことがありません。

もちろんすべてのラインナップが安定の王道ものばかりでは飽きてしまいますし常に革新していく劇団ですが、
直前まで「Cool Beast!!」でギャオギャオしていたので中村A先生のショーがなんだかとてもしっくりきたんです。

今回もプロローグからフィナーレまですべての場面を楽しく観て宝塚歌劇のよさに浸りました。

大階段のあるプロローグは月のセット、薄井香菜先生のお衣装が素敵で、高揚しつつも勢いだけで見せるのではないのが好きです。

中詰は何とも言えないふしぎな中毒性があって2回目にしてすでにもう大好きです。
たま様(珠城りょう)さくらちゃんもいつもとはちょっと違うヘアスタイルにお衣装がいいですね。

れいこちゃん(月城かなと)率いる男役スターさんたちの「I’ll be back」は目がいくつあっても足りず、若手男役さんの成長が頼もしく、
またれいこちゃんの歌の進化にもはっとします。

「桜嵐記」でもれいこちゃんの芝居がよくて、トップスター就任を前に
いま正に大きく花開くときが来ているのを感じます。

リリカルな歌声に美しいスタイルの映えるさくらちゃんが娘役さんを引き連れる赤いドレスのシーンも
スパニッシュの裾がうんとたっぷりすたドレスをしっかり捌きながら踊るのも眼福です。

そしてヴィスタリアの永遠の贔屓ヤンさん(安寿ミラ)の振付けたミロンガの場面は振付家ANJUの代表作になると思いますし、
宝塚歌劇の美学のみならず新しさもある名場面だと確信しています。

なぜそこまで言うかというと、このタンゴの場面では男役と娘役がそれぞれかっこよく美しくありながら対等だからです。

男役✕娘役、男役✕男役、娘役同士で目まぐるしくパートナーチェンジをする多角的なドラマのあるタンゴのなかで
娘役は寄り添うだけではなく、男役同士はよくある妖しさではなく、それぞれが個人として対等にバチバチと火花を散らし
恋を紡ぎ嗜むように踊っているところに新しさを感じています。

なおかつ男役のかっこよさ、娘役の美しさ、それぞれの匂い立つような色気、宝塚歌劇の粋はちゃんとあるのがヤンさんならではです。

それぞれのカップルが違う振りを踊っていたり下級生もしっかり踊っているのが月組の雰囲気にも合っているように感じます。

御織ゆみ乃先生からの羽山紀代美先生の黒燕尾のフィナーレは「ピガール狂騒曲」に続いて見られることがうれしく、
しかもたま様の総踊り、上級生・スターさんたち1人ひとりと絡むところにソロ、デュエットダンスと長い場面で見ごたえがあり、
「この夢のような時間がずっと続いてほしい。けれど終わってしまうからこその美しさもあるんだな…」と感じています。

「ピガール狂騒曲」でも印象的だった黒燕尾のテールをちょんとやる振付がまたあって、たま様が粋でかっこよくて、
あの瞬間、この瞬間で何度ため息をついたかわかりません。

月組トップスター珠城りょうのご挨拶と美

この日は友の会貸切公演でした。
開演3分ほど前にスタッフさんの「終演後にトップスター珠城りょうの挨拶を予定しております」というアナウンスを
聞いたとき胸がいっぱいになりました。

今公演からようやく貸切公演のご挨拶が復活し、自分が遭遇するのは2019年以来です。

あたりまえのことがあたりまえでなくなって、様々な対策を経てようやく…と思うと胸が熱くなりました。

ご挨拶でも公演中もたま様の、この退団公演で初めて目にする美にはっとする瞬間が何度もありました。

お顔立ちや舞台化粧といった表面の美ではなく(たま様が美しいのはよーく知っていますとも)
内面からあふれて表情に滲んでいるものがこれまで見たことのない美だと思ったんです。

研9でトップスターに就任しいろいろなことがあったと思いますが、いまたま様がしあわせな気持ちで舞台に立てて内面から充実しているのかな…と思うと感無量です。

たま様の客席を思いやるような、コロナ禍の様々なものを癒すようなご挨拶も
「今後とも宝塚歌劇を、なかでも月組を」という定番の締めもうれしいものでした。

たま様のご挨拶はいつもすてきでスカイステージのタカラヅカニュースで見るのを楽しみにしているのですが
初日のご挨拶も然りでした。

珠城)いま世の中は緊急事態宣言が間もなく発令されるということで皆様も不安を抱えていらっしゃると思いますが、もうそんなものね、どんと来いですよ!はい。
そのくらいの気持ちでいきません?皆様。

これはもうどうしようもないことなので、どうせだったら前向きに今という時間を楽しんだ方がよくないですか?
それくらいの気持ちで私がおりますので月組は安泰でございます。
なので皆様、ご観劇に来てくださったら必ず笑顔で元気になって帰っていただけると思います。それは保証しますので。

なんと明るく力強い言葉でしょう。

「WELCOME TO TAKARAZUKA」を観劇したときにたま様からすごくふしぎなものを感じたのを覚えています。

劇場中を包み込むような、「大丈夫ですよ」と大きな安堵をくれるような…それまでもその後も感じたことのない空気は
たま様の限りない慈しみであり愛だったと思っています。

それは勘違いでも錯覚でもなかったのだと「そのくらいの気持ちで私がおりますので月組は安泰です」という言葉に得心しました。

いまの月組を観られるのもあとわずかです。大切に目と心に焼き付けます。

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