観劇の感想

星組「ANOTHER WORLD」感想 紅さんあってのスマッシュヒット

星組「ANOTHER WORLD 」を観てきました。
とてもおもしろかったです。
何度笑ったかわからないくらい笑い、そして最後はほろりとし、心が洗われました。
 
この作品をご覧になられた方の感想をSNSで見ていると「すごくおもしろいみたいだけれど、内輪ウケだったりしないのかしら。冥土歌劇団のネタとかあるようだし」と斜に構えていたヴィスタリアですが、見る前の自分に猛省を促したいです。
 

谷先生のアイデアと紅さんのコメディセンス

「ANOTHER WORLD」は落語シリーズを手がけてきた谷先生のアイデア勝ちで、その谷先生が温めてきたアイデアに合致するコメディエンヌべにーさん(紅ゆずる)というトップスターを得てのスマッシュヒットだと思いました。
 
ヴィスタリアの独断と偏見に満ちた感想はこちらです。
  1. 落語を聞いておいてよかった。元ネタと宝塚のアレンジで2倍楽しい。
  2. べにあー(紅ゆずる・綺咲愛里)の純愛と、べにーさんのまっすぐさに心を洗われた。
  3. べにーさんのコメディセンスあってこそ。他の人はできないし、やらなくていい。
  4. ちょっと聞いているのが大変だった。セリフも歌も。
  5. 各キャストについて(やや辛口)
独断、偏見にとどまらず偏愛もあり、ヴィスタリアの愛は今回はびんちゃん(華形ひかる)とことちゃん(礼真琴)がかっさらっていきました。
特定の生徒さんに苦言を呈している部分もありますので(特に歌について)、それでもよいという方はお付き合いいただければと存じます。
 

1.落語を聞いておいてよかった。元ネタと宝塚のアレンジで2倍楽しい。

ヴィスタリアは「地獄八景亡者戯」「死ぬなら今」の2つを聞いてから舞台を観ましたが、聞いてから観劇してよかったと思いました。
 
話の大筋(康次郎が冥土に行ってから閻魔大王の裁きを受けるまでの間で、お澄とのエピソードを除いた部分)はの元ネタは、落語「地獄八景亡者戯」「死ぬなら今」に見ることができます。
 
小説の映画化のようにイメージが壊れるものではなく、知っていることで2倍楽しめたとヴィスタリアは思いました。
落語で練られているだけあって笑えるネタですが、「メイドカフェ」という現代風のアレンジ(まさかトップスターが「ラブ注入」するとは驚きました。)、冥土歌劇団など宝塚ならではのアレンジを味わえました。
 
(「少しも早く」というセリフがあったように聞こえました。ヴィスタリアの聞き間違いかもしれませんが、「ル・サンク」を買おうか悩みます。)
 
パンフレットによる落語「崇徳院」がトップコンビのエピソードの元ネタになっているようなので、2回目の観劇までに聞けたらいいのですが…。
 
 

2.べにあー(紅ゆずる・綺咲愛里)の純愛と、べにーさんのまっすぐさに心を洗われた。

冥土の皆さんが「美人座」の康次郎とお澄の純愛に熱狂したように、ヴィスタリアも2人の恋物語をときめきと共に見守りました。
 
出会いの場面を黒子が出てきて人形浄瑠璃風(?とでもいうのでしょうか)にやるのがよかったです。
宝塚の舞台であまり見たことがなく(ヴィスタリアが知らないだけかもしれません)アイデアがよいと思いましたし、この2人の純愛は虚構の世界にしかないものだと感じました。
 
そしてべにーさんのまっすぐな心を訴える演技がよかったです。
恋わずらいで死んでしまうくらいですから一途でまっすぐなキャラクターですが、それが随所で感じられました。
 
馴染みの喜六が悪く言われると怒るのもそうですし、閻魔大王の裁きを「御霊と御霊のふれあい」といって一蓮托生だと訴えるところもそうです。
なんといっても締めくくりのセリフです。
感動しましたし、目のあたりがなんだか熱くなってしまいました。
 
ヴィスタリアが観劇をしたのは平日のお昼の公演で、客席の反応が薄く、どうも宝塚をあまり見たことのないお客様が多かったようなのですが、ヴィスタリアの周囲で客席の空気が変わるのがわかりました。
大きな大きな拍手が送られていました。
 
 

3.べにーさんのコメディセンスあってこそ。他の人はできないし、やらなくていい。

この作品の芯は、出ずっぱりの康次郎の笑いのセンスと純愛・まっすぐさを訴求できる演技にあるとヴィスタリアは思います。
後者は他のスターさんでもできると思いますが、前者はどうでしょうか。
 
もし他のスターさんが同じようにやろうとしてもこれほど自然に笑いをとることはできないのではないでしょうか。
そもそも大阪弁をこれだけ自在に操れるかどうかというハードルもあります。
 
べにーさんの康次郎がばんばん笑いを取りますが、見ているうちにべにーさんの地なのか演技なのか、ヴィスタリアはわからなくなりました。
 
べにーさんは「演技」というより「キャラクター」そのもので、息をするように笑いをとっていると思いました。
再演することなく、べにーさんの作品として大切にしてほしいとヴィスタリアは思いました。
 
 

4.ちょっと聞いているのが大変だった。セリフも歌も。

幕開きのうちはよかったのですが、三途の川のめいどかふぇあたりから登場人物が増えてくると、セリフを聞くのに疲れると感じることがありました。
 
ワーッと一気に話すセリフが多いのか音響の調子が悪いのか、この「ワーッ」という勢いやキンとした声に耳が疲れるというか、ついていくのが大変だと感じました。
 
阿漕や初音など娘役さんの高い声が特にそう感じたのですが、そういう演技の演出なのか音響の問題なのか、元からそういう声質なのか…。
 
そして歌は、べにあーをはじめ、もう少しがんばっていただきたいです。
天女(白妙なつ)の歌声は一際美しかったですし、コーラスもよかったと思うのですが、通しの役で安心して歌を聞ける生徒さんが少ないように感じました。
(ヴィスタリアはまだ映像を見ていないのですが、べにあーはミュージカル「スカーレット・ピンパーネル」をどのように歌ったのでしょう。)
 
 

5.各キャストについて(やや辛口)

各キャストについて一言ずつまいります。
やや辛口の部分がありますので特定の生徒さんのファンの方はお気を悪くされるかもしれません。
 

康次郎/紅ゆずる

おもしろい舞台で、コメディエンヌの本領発揮でした。上で触れた通り、演技もよかったと思います。
 
ただほんの少しだけ、気になったことがあります。
それはこの作品でべにーさんは新境地をひらいたのかどうか、ということですが、この楽しい舞台の前では杞憂でしょうか。
 
それにしても幕開き近くで康次郎や死装束で歌う「うっきうき〜わっくわく〜♪」のところがかわいくて、ヴィスタリアは妙にツボにはまりました。
 
 

お澄/綺咲愛里

何を着てもかわいらしいお顔の娘役さんだと思いました。
後半の「かわいい顔して意外と…」な本性を表してからは別として、前半は各キャラクターの見せ場やセリフのなかで埋もれがちなような気がいたしました。
 
康次郎と会って手をブルブルさせるところはべにーさんに比べると練り方がもう一歩のように思いますが、これは比べるのが酷でしょうか。
 
 

徳三郎/礼真琴

江戸っ子の粋な遊び人の、キレのいい口跡鮮やかなセリフが舞台の清涼剤になっていると思いました。
べにーさんがキャラクターで笑いをとっているなら徳三郎は演技の間で笑いをとっていると思いました。
 
美しくて華があって、歌も安心して聞けてことちゃん(礼真琴)がいると、ヴィスタリアはついことちゃんばかり見てしまいます。
多くの女の人を泣かせたのも納得の美男子だと思いました。
 
 

喜六/七海ひろき

舞台が楽しくて仕方ないのが全身から滲み出ていると思いました。
「コロッ」という声音やぴょこぴょこ飛ぶところがかわいらしくて、きれいなお顔とのギャップを堪能しました。
 
 

初音/有沙瞳

振付動画でとてもかわいくて、注目していました。
早口のセリフが多く、そういう演出なのかもしれませんが一本調子に聞こえて、もう少し変化があった方が聞きやすいと思いました。
 
 

艶冶/音波みのり

よい役ですね。そして美しいです。
 
語られる昔の恋物語に引き込まれて、出番が終わってしまったのを惜しく思いました。
そんなに急いで幕を引かなくても…と思わせる力があったと思いました。
 
 

貧乏神/華形ひかる

大勢が喋る場面にびんちゃんがいると場面のテンポがぐっとよくなり、この舞台をまわしているのは実はびんちゃんなのではないかとヴィスタリアは思いました。
 
声といい、びくびくして隠れる演技といいかわいらしくて、すっかりびんちゃんが好きになってしまいました。
 
 

閻魔大王/汝鳥怜

さすがの存在感とメイク!でした。
 
 

赤鬼/瀬央ゆりあ

すごいメイク!でした。
 康次郎との場面のやり取りは難しそうですが、一生懸命さが伝わってきました。
これからがますます楽しみな男役さんです。
 
 
最後にもう一言。
演出としてはオーソドックスかなと思いました。
幕前の芝居で繋ぎながらセットが入れ替わっていきます。
このセットとライト、それに衣裳がキラッキラかつ色の洪水で、ところどころ悪趣味なくらい派手にも思えるのですが、悪趣味になる手前でちゃんと留めているところが宝塚らしいとヴィスタリアは思いました。
 
ヴィスタリアは実は、日本物のチョンパ!の幕開きを初めて劇場で見たので感動しました。
そしてそのチョンパ!から日本物の歌と踊りがあったと思ったら、あの世の蓮をイメージしたドレスの娘役さんたちが踊るという、この振れ幅もまた宝塚らしいと思いました。
 
長くなりましたので、ショーについては次に書きたいと思っております。
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