観劇の感想

「婆娑羅の玄孫」観劇の感想(轟悠へのこれ以上無いはなむけ)

こんばんは、ヴィスタリアです。

東京芸術劇場プレイハウスで「婆娑羅の玄孫」を観劇しました。

ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想で、作品の内容に触れています。

轟悠への渾身のはなむけ 植田歌舞伎「婆娑羅の玄孫」

イシさん(轟悠)の最後の公演で、御年88歳の植田紳爾先生(以下親愛を込めて植爺と表記します)の久々の新作で、もしかしたら最後の作品になるのかもしれないと心して見てきました。

自分は植爺の功績は頭ではわかれども作品のよさにあまりピンときたことがなく、
イシさんの男役の培った芸と丹念に維持され続けている美はすばらしいしすごいと思いながら特別なファンというわけではありません。

それでも「これは絶対に観ないわけにはいかない」とチケットを取り、客席で大きく心を動かされ、想像していなかったほど泣きました。

泣かされたのは主に2つあって、まず植爺の渾身のはなむけでイシさんへの敬意と別れ、残る後進たちの思いがこれでもか!と台詞に託されていることです。

1幕と2幕でほぼ同じ人物たち(一部二役の生徒さんも)の別の物語が展開するのですが、
2幕の最後の別れの場面が正にそうで、中の人に重ねるなという方が無理です。

婆娑羅の玄孫と称される細石蔵之介/轟悠は星組生たちに「イシ先生」と呼ばれ、
小久保彦左/汝鳥伶に「若」と呼ばれ、あらん限りのまっすぐな言葉で別れを惜しまれます。

そして見知らぬ明日へと向かうことを決めたイシ先生は彼らに「世話になった」と頭を下げ、彼らのこの先の未来の明るさを示す言葉で励まし、
もう1人の玄孫――小林一三先生の玄孫である真々/稀惺かずとに声をかけるのですから。

自分は本公演でトップさんやスターさんのの退団公演を観るときはできる限り役と中の人を重ねないようにしていて、
それはあるトップスターがインタビューで「自分の心情で役を演じてしまって後悔している」とお話されていて、
つい重ねたくなるけれど中の人と役は混ぜないで作品はできるかぎり純粋に受け止めたいと思っているからです。

といっても重ねずにいられないことも度々あるのですが……。

植爺がはなむけを込めて膨大な台詞を当て書いているので、今回は偉大なスターの最後の公演と割り切ってイシ先生とイシさんを重ねながら見る他なかったですし、泣かない方が無理でした。

泣かされた2つ目の理由は轟悠という長年スターとしてあり続ける男役の芸と美しさが最後となってしまう惜別の思いを、立ち姿、芝居、見せ方に感じずにいられなかったからです。

これはもう理屈ではなく、見ればわかるし自然と涙せずにいられなかったんです。

イシ先生は何度もお着替えされていていずれも美しく、神田祭は粋でかっこよく、山神は神々しく拝みたいほどで、
最後は青天でかっこよかったです。

父親にされたことに感情をむき出しにするのもお鈴/音波みのりと淡く想いを交わすのも、
そして2幕の最後で笑っているのと泣いているのがないまぜになった様も、美しくてかっこいい男役でした。

過去の観劇では声や歌が辛そうなときもありましたし、うんと下級生の娘役さんが相手役だと学年差が気になることもなかったと言えば嘘になりますが、最近はそういうこともなかったですし、
そういったことよりもイシさんが長い年月をかけて磨き続け培ったもののすばらしさは勝ると感じ、涙が流れるのを止められませんでした。

ところで植爺は渾身のはなむけを書いたのと同時に植田歌舞伎も存分に書いたと感じました。

第一次ヅカファン時代は幼かったこともあってその植田歌舞伎を楽しめずぼんやりしてしまったのですが、
今久しぶりにこうして見ると、最近歌舞伎を見始めたこともあって「これはこれで一つの型として完成されているんだな」と受け止められました。

膨大な台詞、台詞、台詞、そして幕間芝居に次ぐ幕間芝居。
別箱ということもあって今回は見事な幕前芝居でしたが、白けることも間延びすることもなかったのは「これが植爺だ」と味わっていたからかもしれません。

1幕の幕切れもあっさりしているのですが、それもまた歌舞伎に通じるものがあるように感じました。

毎度おなじみの「少しも早く」という台詞はここぞという場面でゆうちゃんさん(汝鳥伶)に託されていました。

やはり幼かったころは無知ゆえに「変な日本語だなあ」と思っていたのですが、最近歌舞伎を見るようになって歌舞伎座で観劇していたときに「少しも早く」がふつうに使われていて驚愕しました。

プログラムには熱い思いのこもった文章が寄せられており、コロナ禍で宝塚歌劇を愛するファン、イシさん、星組生への深い愛情が綴られています。

宝塚は106年の歴史の中で常に退団する生徒たちを感謝の念で見送る伝統がございます。
演じる者も、ご覧くださる皆様も、とにかく劇場全体が一つになって別離と思慕と功績を讃えるという宝塚ならではのものでございます。

その言葉とおり、「婆娑羅の玄孫」は植爺からのこれ以上ないイシさんへの讃歌であったと思います。

「婆娑羅の玄孫」役ごとの感想

イシさんについては書きましたのでその他の役について一言ずつですが触れさせてください。

◆小久保彦左/汝鳥伶
下げ気味にかけた眼鏡もキャラクターもチャーミングで大いに笑わされ、そして細石蔵之介/轟悠とのやり取りには泣かされました。

「NOW ON STAGE」でイシさんの退団に触れて涙ぐまれていたのを思い出すと尚のことです。

そして「NICE WORK IF YOU CAN GET IT」の署長役はまさかのナンバーを拝見できましたが、今回は殺陣を拝見することができうれしい驚きでした。

◆お鈴/音波みのり
本公演では女役、母親役もこなしますが別箱ではヒロインとしても輝けるはるこさんは貴重な上級生娘役だと思います。

こういう娘役さんの活躍はうれしいものです。

芝居よし、日舞よし、イシさんとの神田祭は眼福でした。

お鈴を鮮やかに息づかせ、イシ先生との丁々発止のやりとりは勢いがよく、恋慕の滲ませ具合は胸がきゅんとしました。

イシ先生が遠くへ行くことになって長屋の面々がわあわあ騒いでいる中で彼女だけが違う形でイシ先生のことを思っているのが纏う空気でわかり、切なくなりました。

◆阿部四郎五郎、西川頼母/天華えま
青天のお武家様でかっこよかったです。
1幕、2幕でキャラクターが違うのでそれぞれのよさを見られるのもまたうれしいです。

2幕では大立ち回りの前にたすき掛けをするのですが、まずこの仕草がかっこいい上にたすき掛けで刀を振るう男役さんがこんなにかっこいいなんて…!

ぴーすけは台詞も勿論いいのですが、黙っているときの表情や仕草で役を表現するのが巧いなあと思いました。

◆権六/極美慎
瓦売の江戸っ子中の江戸っ子で、ソロ歌唱もたくさんありました。

その歌唱でまあなんと強い目線がまっすぐ飛んでくることか(後方ですがどセンだったんです)。
オペラで覗くと近くの席、上手に下手にビシビシと視線を放っていてスターさんならではの目の使い方だなあと眩しくなりmした。

神田祭の鳶もかっこよかったです。

◆麗々/小桜ほのか、真々/稀惺かずと
姉弟ともにカタコトの日本語のカタコト具合が絶妙なうまさです。

ほのかちゃんの左右のお団子にチャイナ服がかわいくてかわいくて。
プログラムを開いてスチールの販売がないことを惜しみました。
舞台写真もないなんてもったいない!というくらいかわいかったです。

つんつん(稀惺かずと)は抜擢ですね。
これから本公演や新人公演でも活躍が続くのかなと思います。楽しみです。

◆お蝶/瑠璃花夏
男勝りな女の子の子役なのですが、芝居心があって上手でした。
男の子たちの間でエネルギーを弾けさせている場面も、彼女のこの先の人生が拓けてほしい、活躍してほしいと応援したくなりました。

ダンスが得意だからか、牡丹の精や山神様の後ろで踊る日舞も体の使い方がきれいで目を引かれました。

次はぜひ男の女性の役で活躍されるのを見たいです。

イシさんのカーテンコールはいつもあっさりで、それもまたイシさんらしくて好きです。
今回は「本日のご観劇ありがとうございました」で一礼に拍手が贈られて幕となり、終演となりました。

どこまでも潔く宝塚歌劇団を去っていくイシさんを思いつつ劇場を後にしました。

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