こんばんは、ヴィスタリアです。
今回もまた宝塚歌劇ではなく歌舞伎の話です。
シネマ歌舞伎「鰯賣戀曳網(いわしうりこいのひきあみ)」を見てきました。
いつもは宝塚歌劇ばかり見ていて歌舞伎を見始めたばかりのヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想です。
「鰯賣戀曳網」三島由紀夫のハッピーなラブストーリーを歌舞伎で
「鰯賣戀曳網」は三島由紀夫の書いた歌舞伎です。
三島が戯曲の名作を数多く書いていることは知っていましたが、
歌舞伎も書いていたことを恥ずかしながら初めて知りました。
本編の始まる前に坂東玉三郎さんのインタビューがあり、三島由紀夫との出会いや思い出などを楽しそうにお話しされるなかで
「『近代能楽集』の「斑女」など、幸せになりにくいものが多いなかでこの作品だけは違う」
という一言が強く印象に残りました。
(インタビューでは中村勘三郎さんとの思い出、現在の中村屋さんへの思いも語られていて胸打たれました)
なんせ色合いのかわいらしいチラシ、ポスターの煽り文句が「おとぎ話のような、最高にハッピーな恋愛譚」です。
これはビギナーにもわかりやすい話であろうと踏んで予習は予告編を見るくらいにして映画館へ行きました。
台詞もストーリーの展開もわかりやすく、すんなりと見ることができました。
あらすじはwikipediaが簡潔でわかりやすいですが、読まずに見てもわかると思います。
(歌舞伎座でときにセリフの意味がわからないことがあったり、イヤホンガイドがないと不安な自分でもそう感じました)
とても、とてもおもしろくて、たくさん笑って、幸せな気持ちに満たされました。
笑わされたのは主に猿源氏の勘三郎さんですが、まさか映画館で身を捩ってマスクの下で声をこらえきれないほど笑うとは予想だにしていませんでした。
大名、やんごとなき方々しかお座敷にあげない傾城蛍火になんとかして会うために関東侍のふりをしてお座敷にあがるのですが、
一目見てぽーっとなってしまって禿をつきとばしたり、
蛍火のつぐ酒をくいくい飲み干したりといった仕草、表情、居住まいはもちろん台詞も大いに笑いました。
猿源氏の衣装がまたかわいくて、
パステルピンクの着物✕ミントグリーンの袴✕ラベンダーの足袋なんですよ。
この衣裳は宝塚歌劇よりかわいいんじゃないでしょうか。
そして着こなす勘三郎さんの猿源氏がまあかわいい。
表情、居ずまい、セリフ、緻密かつ大きな芸の力がもたらす笑いってすごいなあと思いました
博労(ばくろう)の松本幸四郎さん、
なむあみだぶつの親父さんの坂東彌十郎さん、
謎の庭男の片岡亀蔵さんにも大いに笑い、楽しい気持ちにしてくれました。
そして蛍火の玉三郎さんはなんと美しく、どこかのんびりおっとりしたかわいいところと高貴な者として肚の決まったところはびしっと決まっていて魅力的なことか。
今でもお美しいですが本編前のインタビューで流れた若かりし日の舞台姿はこの世のものとは思えないほどの美で息をのみました。
先日歌舞伎座で見た「桜姫東文章」でも思いましたが声がすばらしくて、
蛍火が「あいあーい」と答える廓特有の高い声などいったいどうなっているんだろうと思います。
同じ遊女でも高級遊女の傾城蛍火と、江戸のしみったれた(吉原などの高級歓楽街ではない)女郎屋に売られた桜姫(風鈴お姫)では声もまるで違っていて、
後者の迫力と生活感のある声もすごいなあと思います。
「鰯賣戀曳網」はお姫様が鰯売りの声に惚れて城を出て廓に売られて傾城となり、猿源氏とめぐり合って夫婦となり2人して鰯売りになるというハッピーエンドのラブストーリーで、
「桜姫東文章」のアナザーストーリーのようでもあります。
「桜姫東文章」のお姫様は惚れた男に遊郭に売られて連れ合いになり、迎える大団円はラブストーリーの面からは切なく辛くもありますから
花道で猿源氏に鰯売りの声色を教わり、2人して観音様にお礼の手をあわせて拝むのに本当に幸せいっぱいになりました。
歌舞伎座で「桜姫東文章」が、向かいの東劇で「鰯賣戀曳網」で上演されているというのもいいですね。
運命に翻弄されるように導かれていく桜姫と対照的に、
蛍火が恋をして自らの高貴な身分をなげうち人生を決めていっているのも興味深かったです。
三島が意図していたがどうかはわかりませんが
蛍火は新しいお姫様像でもあったのでは…などと考えたりしました。
梅雨の鬱陶しさを晴らしてくれる楽しいシネマ歌舞伎でした。
おすすめです。
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