こんばんは、ヴィスタリアです。
花組全国ツアー「哀しみのコルドバ/Cool Beast!!」を神奈川県民ホールでようやく観劇することができました。
ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想で、作品の内容に触れています。
柴田先生の名作「哀しみのコルドバ」を際立たせる新たな光 樫畑亜依子先生の新演出
「ようやく観劇することができました」というのはこの花組全国ツアーそのもののに限らず、
今回5回目の上演となる柴田侑宏先生の名作「哀しみのコルドバ」をようやくこの目で、劇場で見ることができたのです。
映像では2回目の上演である1995年花組版をビデオテープが擦り切れるくらい見ました。
永遠の贔屓ヤンさん(安寿ミラ)の退団公演なので自分は退団後からのファンではありますが思い入れがありますし、
自分が初めて見た柴田先生の作品という意味でも強烈な印象を受けました。
「エル・アモール」をはじめ数々の名曲と柴田先生のドラマチックでロマンチックな台詞に彩られた美しさを光とするなら、
エリオとエバを巡る運命の残酷ないたずらのような、人間の愚かさや無様さといった現実という影が表裏一体となっているこの作品は柴田作品のなかでもたぶん一番好きです。
(たぶんというのは全作品を見られていないから)
エリオとエバが実は――という結ばれない理由は、歌舞伎を見始めるようになると目にするネタで(たとえば「三人吉三」)柴田先生は当然ご存知でしたでしょうし、
手垢にまみれたネタではなく遥か昔から人間が背負っている業のようなものに思えて「哀しみのコルドバ」の悲劇性をより深く味わえるようになりました。
2009年花組、2015年雪組は中村暁先生が演出でしたが今回初めて樫畑亜依子先生が演出を担当されました。
樫畑先生は台詞や歌詞などいくつか手を入れられたようでいまの時代にそぐわせ理解しやすくなっていましたし、
ロメロの台詞やナンバーが増えたことでエバに恋い焦がれる男でありエリオの恋敵という面を一層強く打ち出したのがもっとも大きな変更点ではないでしょうか。
劇中のエリオとエバの心情的なデュエットダンスでロメロが歌いますが(「男と女」)、これまでの歌詞は
花盗人の汚名はきるな エリオ エリオ
とエリオを諌めようとするものでしたが、今回は
私の花を手折ることはさせぬ エリオ
よりエバへの思いが強いものになっていました。
新演出として樫畑先生はとてもよい形で光をあて、柴田先生の名作を一層鮮やかに輝かせたのだと思います。
また今回稲生英介先生が装置を担当されていますが、これまでよりも洗練されていて転換もよかった印象を受けました。
5段ほどの階段が奥に据えられていることで奥行きを感じたり、コルドバのエリオの家の前なども遠景とセットの組み合わせで立体感がちゃんとありました。
またこれは装置ではなくヤンさんの振付ですが、全国ツアーは舞台機構が限られていますが、
プロローグで上手の前っ面にエリオ、斜め奥にロメロ、そして下手側にエバとダンサーたちが固まったところでは盆はないのに盆が回っているように見える振付、ステージングでとてもよかったです。
名曲「エル・アモール」、エリオとエバの心情を表すデュエットダンスの振付もすばらしかったのは言うまでもありません。
「エル・アモール」ではエリオが婚約者アンフェリータとのときは時計回りに回り、かつて愛したエバとのときは反時計回りに回る象徴的な振付にもシビれました。
柚香光のエリオを待っていた
プロローグの暗い闇の中、スポットライトが当たってただ一人立つれいちゃん(柚香光)が浮かび上がったときから胸がいっぱいになってしまいました。
孤高の中にいて死の予感を纏っているのが痛いほど伝わってきて、なんと冷めた孤独の中で生きているんだろう――正にそこにエリオがいると思ったのです。
そして2009年花組、2015年雪組に続いてヤンさんの振付なので、れいちゃんのエリオを通してヤンさんのエリオを見ていると思ったら涙があふれてしまいました。
れいちゃんマタドールのお衣装がとてもお似合いでダンスもすばらしくてとてもかっこよかったです。
プロローグの時点で「ああ、柚香光のエリオを待っていたんだ…」という予感ははっきりとあったのですが、ドラマが始まると確信に変わりました。
エリオがエバ/星風まどかとの思いもよらない再会から既に会ってはいけないのに会ってしまった悲劇と破滅の予感を纏っていたからです。
またビセント/聖乃あすかの道ならぬ恋を諌めるのも、婚約者アンフェリータ/音くり寿との結婚にもどこか冷めた感じがあるのに、エバとの恋が再燃してしまう運命が必然として伝わってきました。
故郷コルドバですべてのことを知ってしまった後の「終わったなあ…」は、激しく燃えたエバとの恋が潰えた虚しさが漂っていて、
この先の選択もわかるようで(再演なので知っているのですが、知らなくてもエリオが考えていることがわかるようで)胸が痛くなりました。
そんなれいちゃんのエリオは台詞がとてもナチュラルで、非常に抑えた演技であったことも印象的でした。
柴田先生のドラマチックの台詞の数々をこんなにも静的に表現することができるというのを初めて知って衝撃を受けました。
(それがまた県民ホールのあまりよくない控えめな音響とあいまって耳からもコルドバの世界へと深く集中させてくれました。)
ビセントを諌めるときの「それを俺に言わせるのか…」などほとんど独り言のように響いて、危険と隣合わせの闘牛場を出て日常でもどこか冷めているようなエリオにぴったりで舌を巻きました。
またエバの涙をぬぐい幸せを語るときは囁くような抑えた台詞が甘やかで優しくて、エバの心は蕩けてしまうだろうな…と思いました。
主役のエリオがナチュラルで抑えた演技だからか、エバやロメロ、アンフェリータたちもそれぞれ大袈裟なところがどこにもなく、
とても自然に役を生きていてリアルで美しい台詞がまっすぐ届くのを客席で感じました。
れいちゃんの花組で「哀しみのコルドバ」を観ることができて本当によかったです。
役ごとの感想 エバ/星風まどか、ロメロ/永久輝せあ
◆エバ・シルベストル/星風まどか
この全国ツアーはれいちゃんとまどかちゃんのプレお披露目公演でもありまどかちゃんの花組トップ娘役お披露目の公演でもあります。
まどかちゃん、ようこそ花組へ!
宙組のときよりもぐっと大人っぽく見えて、れいちゃんのお隣だとそう見えるのかしら?と思ったらショー「Cool Beast!!」ではかわいくてかわいくて、
これまでより大人っぽく見えたのはエバを生きているからだと納得しました。
若くして未亡人となったエバはロメロに夜会を任されるくらいの度量と経験はあるのでしょうし、エリオと再会した場面ではからかったり釘をさしたりしてみせますが、
内心はエリオへ向かっているのが伝わってきて、そんなまどかちゃんのエバがかわいいと同時にかわいそうで心を寄せたくなりました。
エリオと再会するまでの8年間の苦労が滲んでいることもまた、エバをかわいそうだと感じたのことの一つです。
こでまで映像で何人ものエバを見てきましたが大人っぽいと同時にかわいそうでもあると感じたのは初めてでした。
祭りでロメロと踊るようにしながらもエリオとアンフェリータを見つめる表情は苦しげで、「かわいいお嬢さんによろしくね」とエリオに告げるときの声も寂しさが滲んでいて、エバはもう余裕などなくなっているんですよね。
コルドバまでエリオを追ってきての言い募り「私、恥ずかしいわ…」はエバのエリオへの思いが止められないこと、そして本当に恥じているのも伝わってきて、まどかちゃんのエバ、好きだなあと思いました。
◆リカルド・ロメロ/永久輝せあ
花組公演を観に行く度にひとこちゃんの巧さと美しさに衝撃を受けているのですがリカルド・ロメロもすばらしかったです。
立ち居方からしてエリオやエバよりかなり年上で地位も高い人物なのがちゃんとわかるんです。
すごい…。
ひとこちゃんはたとえお髭をつけていなかったとしてもロメロとして存在してくれたでしょう。
登場する夜会のお衣装は新調でしょうか。
グレイの燕尾服に刺繍や飾りが入っていて豪奢でお似合いでした。
そしてまたロメロはふだんは冷静で取り乱すことなど決してないはずなのにエバに恋い焦がれてエリオに嫉妬していることも痛いほど伝わってきました。
祭りの場面では婚約中のエリオとどこか幼さ、無邪気さのあるアンフェリータが踊っている対角の奥でロメロがエバに執着するようにしているのが見え、ロメロは情念が燃えるような恋をしているのだな…と思いました。
ビセント/聖乃あすかとセバスチャン伯爵/一之瀬航季の決闘で妻を奪われたセバスチャン伯爵の介添人を申し出るのも、なにか思うところがあっての行動なのでしょう。
樫畑先生がロメロの台詞を増やして「その身に情熱を宿すファムファタール…」とエバに囁くのもよかったですし、ロメロの恋心が伝わってきました。
ひとこちゃんの華やかな見目麗しさはもちろん、安定感のある歌唱もすばらしくて目も耳も幸せでした。
他の役、ショー「Cool Beast!!」の感想は別記事で書きますね。
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