観劇の感想

星組「柳生忍法帖」観劇の感想(バランスのよい宝塚歌劇化)

こんばんは、ヴィスタリアです。

東京宝塚劇場で初日から間もない星組「柳生忍法帖/モアー・ダンディズム!」を観劇してきました。

当日は花組・月組100周年のOG公演「Greatest Moment」のライブ配信をどうしても見たくて予期せぬマチソワとなり、
ややキャパオーバーな状態で客席につきました。

もう1回ちゃんと見ないと見落としていたり受け取れていないものもありそうですが、ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想です。

なお作品の内容に触れています。

星組「柳生忍法帖」バランスのよい宝塚歌劇化

公演ラインナップが発表になったときに山田風太郎作品を宝塚歌劇で上演することにざわついておられる方々がいましたが、原作小説を手にとってそれも無理はない…と思いました。

荒唐無稽なファンタジー要素のあるアクション時代小説はエンタメとしておもしろいもののエログロの要素も多分にあって、そこに注目すればすみれコードとの兼ね合いがあるでしょう。

しかし大野先生が語っておられるように(大野拓史が語る)、この物語の本質的なよさは別のところにあると思います。

原作をまだ途中までしか読めていないのですがすみれコードの部分を除けば、ダイナミックに展開していくストーリーはわくわくするおもしろさでキャラクターが多くて本公演向きかもしれないと感じたのです。

大野) 実に健康的な倫理観と、非常に人間的なドラマ、そしてシンプルに格好良い人間像が浮かび上がります。
真正面から大きな物事に挑み達成する登場人物に抱く、爽快感があるのです。
今回も、枝葉を切り落としてしっかりとした幹を使えば、宝塚歌劇の世界にマッチさせることができると思っています。

実際に舞台を見て山田風太郎作品のおもしろさ、展開のよさと活き活きとしたキャラクターたちを宝塚歌劇にうまく昇華させていると思いました。

特にキャラクターに関しては個性のある役が多い上に男役さんのみならず娘役さんがストーリーを動かしていくのが新鮮かつ楽しかったです。

長い原作をつめこんでいるのでややエピソード過多なところはあるような気がしますが、
役の心情・生い立ちなどは短くとも描かれているので演出家の独りよがりさが目につくことはなく、テンポよく進んでいったという印象を受けました。

自分自身はもっとドラマチックにロマンチックに関係が描かれる作品が好みではありますが、「こういう作品もあるしできるのが新作主義の宝塚歌劇のよさでは」と思いました。

またテンポのよさに流されてダイジェストに留まっていないのは役の心情が伝わってくるような台詞の、力のある言葉が輝いていることもあります。

特に終幕近くの十兵衛/礼真琴の「俺だけが弔ってやれる女がいる」や
ゆら/舞空瞳が初めて自分の思うように行動できたときに出た一言などが印象的でした。

ゆら/舞空瞳柳生十兵衛/礼真琴に惚れる展開がやや唐突な気もしましたが、
そこに至るまで舞台上のなこちゃん(舞空瞳)が表情や仕草で溢れそうな気持ちを表現していたのでこれはこれでありなのかなと思いました。

ただ異色のヒロインではありますし彼女が父芦名銅伯/愛月ひかるに強いられてきたことを思うと辛いものもありますが、
原作から削ぎ落とされたものを考えると宝塚歌劇として着地できるところを探し、生々しさが出ないよう最大限綺麗に見せているのかな…と思います。

エピソード過多さについては大野先生のお話されている通りです。

大野) 限られた時間でこの長編小説をスピーディーにお見せするのは難しいことではありますが、舞台芸術ならではの利点を生かせば、場面の設定や感情の流れを理解していただけると思います。

また宝塚の出演者は役の置かれた状況や立場を端的に伝える表現に長けていますから、クライマックスに向かってテンポ良くお見せできると考えています。

この舞台芸術の一つに時代物であることに囚われない自由な発想の衣装が大きな力となっていたように思います。
河底美由紀先生が担当されています。

音楽もキャッチーで耳に残りますし、プロローグからかっこいい柳生十兵衛に芦名銅伯に会津七本鎗がずらりと並んだり娘役さんの立ち回りがあったり、舞台芸術として純粋な楽しさがあってときめきました。

役ごとの感想

目が足りなくて全役については到底書けませんが印象に残った役について書いてまいります。

◆柳生十兵衛/礼真琴
2番手時代や「ロミオとジュリエット」など少年めいた当たり役が思う浮かぶ一方で、大野先生の「阿弖流為」のような骨太な役から「エル・アルコン」のダークヒーローまでなんでもできることちゃん(礼真琴)が隻眼の野性味あるヒーローをうんとかっこよく演じていました。

十兵衛先生、かっこいい……!

ラフに結った髪に眼帯、黒い和装にブーツという時代考証からしたらあり得ないお衣装での立ち回りがかっこよくて、時代考証を飛び越えて宝塚の男役さんはこうでなくちゃ!と思わせてくれます。

また歌、ダンス、立ち回りの巧さがずば抜けていることは言うまでもなく、ことちゃんの歌やナンバーが始まると高揚します。

「♪叫べ 叫べ」と歌うときもただ朗々と声を響かせているのではなく、やや反り気味にした体が大きく見えて肚から野太い声が出ているような、柳生十兵衛が歌っているのが伝わってきて技術的なことのみならず芝居の中の歌として巧いなあと思いました。

十兵衛は武芸に秀で、器が大きくて何物にも縛られなくて、しかし頼まれれば堀一族の女たちの悲願のために尽力し「先生」と呼ばれ慕われる――無双のかっこよさでした。

中の人を重ねてはいけないのでしょうけれど娘役さんたちに「先生」「先生」と慕わしく呼ばれているのを見ると、
きっとお稽古場でキレキレの立ち回りのことなど教えたのでは…と想像してしまいました。

◆ゆら/舞空瞳
お披露目本公演「眩耀の谷」といい今作といい、なこちゃんの愛らしさ、かわいらしさからは想像もつかないような辛い生き方を強いられたヒロインを任されているように思います。

「眩耀の谷」のときより和物のお化粧がずっとずっと上手になってゆらという役の妖しさもありつつかわいらしさもちゃんとあって、また声がきれいになり歌も格段の進化をされていると思いました。

体の前で帯をリボンのように大きく結んでいるお衣装がとってもかわいいのと同時に
蜘蛛に捕らわれている蝶のようにも見えて、蜘蛛の巣を模したセットがの場面で特に印象的でした。

十兵衛への思いが台詞だけを追っているとやや唐突に見えるかもしれませんが、そこに至るまでの表情や仕草でゆらの心情をなこちゃんが丁寧に表現してくれているので
あまり唐突に感じませんでした。

丁寧な表現といい歌唱の進化といい大作「ロミオとジュリエット」でなこちゃんならではのジュリエットを演じ歌ったことが大きかったのでは…と思いました。

◆芦名銅伯/愛月ひかる
この公演でご卒業される愛ちゃん(愛月ひかる)にふさわしい悪役の、異質な役の集大成のような役でした。

「神々の土地」ラスプーチンの奇怪さ、「不滅の棘」エロールの悲哀と永遠、「ロミオとジュリエット」の”死”の妖艶さなどがあるからこそこの芦名銅伯の異様さ、大きな存在感を存分に見せてくれたのではないでしょうか。

金髪の長髪に白塗りのお化粧に和装という出で立ちもインパクトがあって、また愛ちゃんの長身に映えます。

お着替えもたくさんあったり黒髪のお姿も見られてうれしい中で髑髏の描かれた着物が特に印象的でした。

◆漆戸虹七郎/瀬央ゆりあ
先日発表された「ザ・ジェントル・ライアー」の先行画像、ポスターも大変な美しさですが和装の悪役のせおっち(瀬央ゆりあ)も大変な美しさでした。

黒地に金色の大輪の花が鮮やかなお衣装がお似合いで、さらに真っ赤ではない、赤みのある口紅が色気があって、虹七郎が舞台にいるとオペラグラスでおいかけがちでした。

中の人を重ねてはいけないと思いつつ同期のことちゃん(礼真琴)と一対一で剣を交える場面には気持ちが盛り上がらずにいられませんでした。

またゆら/舞空瞳の2人芝居のシーンはやりとりされる思わせぶりな内容にどきどきしてしまいました。

◆鷲ノ巣廉助/綺城ひか理
長身のあかさん(綺城ひか理)の悪役、しかもお髭!
眼福でした。

淡い色のお着物に椿の花が散っているのがとても素敵でした。

◆平賀孫兵衛/天華えま
悪事を平然と行う会津七本鎗の一人ですが、ぴーすけ(天華えま)は喋る前から、ただそこにいるだけで、表情、目つきからして頭がおかしいのがわかる(褒めてます)のが最高でした。

ダンスが巧いのでナンバーでのキレキレの、そして決めの美しさが際立ちます。

◆沢庵和尚/天寿光希
こういうお役をやらせたら天下一品のみっきぃさん(天寿光希)を味わいながら見ました。

掴みどころがなくて飄々としていて、でも情があって、台詞回しにその人物らしい節があるのがちょうどよくて巧いなあと思います。

この掴みどころのなさが妖しい底知れなさになると「鎌足」の船史恵尺になるんだよな…と思い出しました。

◆柳生宗矩/朝水りょう
十兵衛/礼真琴の父親役なのですが、めちゃくちゃかっっっっこいいー!と叫びたいくらいかっこいいKABUちゃん(朝水りょう)でした。

ビシッとした立ち姿は武士らしく剣術指南役を任されるのも納得、堂々たる威厳は大名としても父親としても渋くてシビれました。

◆お圭/音波みのり
十兵衛先生と花婿と花嫁になりすます婚礼の扮装は華やかで美しく、並びもよくて「アルジェの男」を思い出し、
トップスターに寄り添って美しく可憐な上級生娘役のはるこさん(音波みのり)のすばらしさを改めて感じました。

◆天秀尼/有沙瞳
出番が少ないのが物足りないと言ったら嘘になりますが、それはショー「モアー・ダンディズム!」の活躍で帳消しかなと思います。

少ない出番の中で状況説明的な台詞を言う声が美しいのと口跡が明瞭でなんと聞きやすく伝わってくることか。
みほちゃん(有沙瞳)の役柄に合わせた美しい声が大好きです。

◆多聞坊/天飛華音
本公演だと「霧深きエルベのほとり」ヨーニー、「眩耀の谷」テイジのような少年らしい役が続きますが、十兵衛/礼真琴の周りをちょろちょろしていたりして目立ちます。

役どころだけでなくカノンくん(天飛華)のオーラが目立つというのもあります。

「マノン」のレスコーのずるさと崩れた男のかっこよさも印象的だったので本公演で違うタイプのお役を見るのを楽しみにしています。
もちろん今回の新人公演主演も。

◆天丸/瑠璃花夏
原作では大型犬の天丸・千丸・風丸ですが舞台では少年として描かれています。

今回新人公演で初ヒロインを演じるちなちゃん(瑠璃花夏)が本公演でも見せ場のある役でうれしかったです。

心の伝わってくる演技に揺さぶられてうるっとしてしまいました。
また声が美しくてダンサーだけれど芝居、歌も巧い娘役さんだなあとあらためて思いました。

以上、「柳生忍法帖」初見の感想でした。
ショー「モアー・ダンディズム!」の感想は別記事で書きます!

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