観劇の感想

月組「桜嵐記」役ごとの感想(ヒーローの珠城りょう/開花した美園さくら。名脇役たちの怪演)

こんばんは、ヴィスタリアです。

宝塚大劇場で月組「桜嵐記/Dream Chaser」を観劇してきました。

ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた役ごとの感想で、役のプロフィール、作品の内容に触れています。
史実に関してはネタバレしているものもあります。

気づいていないところ、見落としているところなどあると思いますがファーストインプレッション的な感想として書きました。

楠木正行/珠城りょう、弁内侍/美園さくら

正行まさつらを演じるたま様(珠城りょう)、とってもかっこよかったです。
そして堂々たる主役でありリーダーでありトップスターでした。

民を思い、貧しさゆえに戦に駆り出された敵兵を助ける心の広さと優しさ、
北朝との和睦を願いながらも叶わず戦うことを選びスケールの大きなものをただ一人見据えている――

こんなたま様が見たかったというようなあて書きは
「月雲の皇子」という代表作を贈った上田久美子先生ならではだと思いました。

優しくてかっこよくて言葉もまっすぐで、そりゃあ弁内侍だって惚れるし弟たちだって慕うし
民たちは恩に報いたいと思うでしょう。

そんなヒーローらしいヒーローをたま様が説得力を持って演じていてかっこいいです。

ツボだったのはなんといっても弁内侍/美園さくらの足のまめを手当してあげるシーン。
2人の距離がぐっと縮まります。

しかも河内弁を喋ってみてほしいとせがむ弁内侍に嫌がりつつ、大いに照れつつ一言だけぼそっと……たまりません。

ここは弁内侍が「そうなのですか?」とうれしそうにしているのもキュートでした。

なぜ戦うのかに正行が出した答えが自分にはわからなかったのですが
全部わからなくてもいいかなあと思うようなスケールの広がりを感じました。

また中の人を重ねてはいけないのでしょうけれど、トップスターだけしかわからないものがあるという孤高も感じました。

雪組「炎のボレロ」でデビューされた薄井香菜先生の衣装がどれも素敵でゴージャスかつ凝っていてたま様の長身にお似合いでした。

出陣前に弁内侍と思いを交わす場面での爽やかな白✕水色✕青のお衣装も
戦のシーンも…どのお衣装も好きです。

ラストシーンの出陣ではつらぬきという、獣の毛がふさふさした靴をお履きになっています。
注目してみてください。

弁内侍/美園さくらはかなり辛い過去があるがゆえに
復讐を誓い敵兵を助ける正行を非難する意思の強さをさくらちゃんがていねいに表現していたと思います。

この絶望や拒絶があるから、正行に心を開き惹かれてからの柔らかさが際立ち、
固く閉ざしていた花の蕾が一気に花開くようなイメージをいだきました。

その恋をしてから、いえ初めて恋を知ってからの弁内侍がかわいいのと切ないのとでたまりませんでした。

後村上天皇/暁千星が正行と弁内侍に結婚をすすめたときに「異論はないだろう」と問われて
弁内侍がはにかみ喜びを隠せないままに「は……」と短く答えるです。

「はい」とさえ言えないこの声が漏れるような「は……」がたまらないかわいさでした。

四條畷の戦いに赴く前の正行と吉野の桜を見るシーンの「花がこんなに綺麗なことをこれまで知らなかった」という台詞もそうです。

弁内侍は意思の強さのままに愛したらまっすぐで、初めて人を愛したことを言葉に託したんだと受け止めました。

楠木正儀/月城かなと

楠木三兄弟の末っ子正儀まさのりですが、
まっすぐでおおらかで無邪気なのが眩しくて末っ子だなあ…と頬がゆるみました。
(自分が三人姉妹の長女なので末っ子の自由さが羨ましい)

れいこちゃん(月城かなと)が役をのびのびと、生き生きと演じているからそう思うんでしょう。

河内弁まるだしで、綺麗な顔をゆがめるほど表情豊かで、いじられキャラで、
れいこちゃんの月組にきてからの本公演での三枚目キャラは更新となりました。
もちろん三枚目だけでなくかっこいい場面、泣ける場面もあります。

正統派の美貌のれいこちゃんが三枚目を演じていじられているのがギャップもあって魅力的な気がしますが
次の本公演はトップスターお披露目ですから三枚目キャラはこれが卒業でしょう。

れいこちゃんは公演のたびに歌唱の技術にも表現にも磨きがかかっているように思います。すばらしかったです。

楠木三兄弟のなかで唯一生き残り、晩年をるうさん(光月)が演じ、
まだ弁内侍の晩年をなつこさん(夏月都)が演じているのは
退団していく組子を見送り、思い出しているようでつい中の人を重ねてしまいました。

この時代に疎くてまったく予習をしないで観劇したのですが、幕開きにるうさんがとてもわかりやすい解説をしてくれるのですんなり入りこめました。

自分が観たときはまだ拍手が入っていたのですがこの日のソワレで「主役が登場するまで拍手は不要」とるうさんの案内があったそうです。

楠木正時/鳳月杏、百合/海乃美月

I AM FROM AUSTRIA」に続いてちなつさん(鳳月杏)うみちゃん(海乃美月)が夫婦役ですが、
まず最初にこの2人で泣き、その後ずーっと泣いていた気がします。

正時/鳳月杏百合/海乃美月の愛と幸せに満ちたいい場面があるからこそ
その後の戦に翻弄され正時が、そして百合が選ばざるをえなかった答えにに泣かされました。

ちなつさんの日本物のかっこよさは折り紙付きで、
プロローグから爽やかさの中に大人な色気が濃くしたたっていてどきどきでした。

前作「WELCOME TO TAKARAZUKA」のシャベ化粧、若衆とはがらりと変わって、
正行の長弟楠木正時は武人の、そして男役のかっこよさがぎゅっと詰まった役でした。

百合に悲しい決断を告げる覚悟も戦もかっこよかった…
そしてちなつさんの緻密な演技か哀しみを深く誘いました。

一方で正時は戦よりも料理が得意なようでジビエ料理もなんのその。
こだわりの料理をする場面はギャップに和みました。

百合/海乃美月はたおやかで美しく、役名の通り自然の中に咲く花のようでした。

纏う空気、台詞、夫を見つめる目に花が色づくような愛と、そして慕情が滲んでいるのがよかったです。

うみちゃんは「ピガール狂騒曲」が役不足でまったくもって物足りなかったので
きちんと見せ場があってよかったです。

高師直/紫門ゆりや、足利尊氏/風間柚乃

この作品を最後に専科への組替えがに発表になっているゆりちゃん(紫門ゆりや)の月組生最後の役にものすっっっごい役がきました。

なにがすごいってロイヤルなゆりちゃん高師直こうのもろなおこれ以上ないほど下衆で好色で俗っぽい役なんです。

冒頭の湯浴みのシーンからドラマが始まるので度肝を抜かれました。

月組のお姉さまたち(仲子/白雪さち花名子/晴音アキ)だけでなく
若くてかわいい娘役ちゃんたち(白河りり/きよら羽龍/詩ちづる/一乃凛)がお仕えしているのはいいのかしら…と心配になるほどでした(←どこ目線?)。

言われてもゆりちゃんだとわからないくらい、顔つきも目つきも声さえも変わっていて、こういうのを怪演というのでしょう。

目元が酒焼けなのか赤っぽい感じも、目が濁っている感じも、百合/海乃美月をじーっと目でなぶるような視線もすごかった…。

これまで中の人のノーブルさ、ロイヤルさがしっくりくる役が多かったので専科へ組替えされてからどのような活躍をされるのかうまく想像できないでいたのですが、
師直を見れば紫門ゆりやという男役はなんだって演じられると深く納得しました。

弟の高師泰/蓮つかさも芯が太い武士らしさが迫力がありました。

この兄弟が仕えているのが足利尊氏/風間柚乃です。

おだちんの学年がわからなくなるくらいの沈着冷静さ、器の大きさを感じました。

怪演で異様な存在感を放っている高師直の主君として制圧していること、尊氏自身もどこか底知れないものがちゃんと伝わってくるんです。すごい!

後醍醐天皇/一樹千尋、後村上天皇/暁千星

ゆりちゃんだけでなくもう1人の怪演はヒロさん(一樹千尋)です。

後醍醐天皇の怨念が亡霊となって南朝の後村上天皇/暁千星を、
北畠親房/佳城葵を、楠木正成/輝月ゆうまを、日野俊基/朝霧真を衝き動かすのですが、
怨念がすごすぎて震えるほど恐ろしかったです。

歌手としてもすばらしく声のいいヒロさんがうんと声を響かせて繰り返すフレーズは
凄絶なほどです。

何度も何度も繰り返されるのが不気味であり、月組生の熱演も合わさってすごい場面になりました。

世継ぎの後村上天皇/暁千星は優しく柔らかく、京言葉で、
殺伐たる戦、公家たちの我が身かわいさのなかで1人清らかで違う世界に身をおいているようでした。

綺麗ごと、夢なのかもしれませんが、彼は彼で夢を追わずには生きられなかった人なのかな…と思いました。

正行/珠城りょうと2人のシーンがあったり、最後の呼びかける台詞であったり、要所要所で役の大きさを感じました。

ありちゃん(暁千星)は「ピガール狂騒曲」でカンカンはすばらしかったですが
役どころとしては役不足なのを残念に感じる気持ちもあったのでうれしいです。

その他の役たち

一言ずつですが触れさせてください。

◆饗庭氏直/結愛かれん
あえばうじなお、と読むんですねφ(.. )
かわいいかわいいかれんちゃんが男役!で驚きましたが、すごくよかったです。

青系の装束が美しく、心の底まで冷え切った様子も伝わってきました。
そして色っぽいですね。舞台化粧もお上手で赤い口紅の艶やかさ、妖しさといったら。

戦の場面では血の猿楽として真紅のお衣装で踊るのですが
どこまでも美しくて冷徹な死の天使でこちらもすごくよかったです。

もっともっと活躍してほしい娘役さんです。

◆楠木正成/輝月ゆうま
巧くてなんでもできるのは知っているつもりでしたが、あらためて巧いですねえ。

月組を観劇するときに楽しみなお1人でしたから専科への組替えは寂しいですが、
この学年での専科入りは名誉なことですしきっと引く手数多なことでしょう。

四條畷の戦いが展開するシーンで回想として幼い三兄弟とともに登場するシーンがあり、
ここのまゆぽん(輝月ゆうま)がすばらしくて泣きに泣きました。

◆ジンベエ/千海華蘭
こちらも巧い、そして愛すべき存在で物語世界へとぐいぐい引っ張っていってくれました。

弁内侍/美園さくらの登場シーンにから最後のシーンまでほぼ行動をともにしていて、
ジンベエの巧さが弁内侍のキャラクターが一層魅力的なものになっていると思いました。

晩年も沁みます。

◆北畠親房/佳城葵
3人目の怪演…と言ったらいいすぎでしょうか。でも名演であることは間違いありません。
口跡の鮮やかなせりふにものすごい圧があって役の存在感が光ります。

後醍醐天皇/一樹千尋の怨念もすさまじいものがありますが、やすくん(佳城葵)が現世でこれだけの執念を燃やしているのもすごいです。

月組生はあっちもこっちも芝居がうまくて、細かくて濃くて目が足りませんでした。
東京で観劇したらまた書きます!

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