観劇の感想

コンビ芸のようなもの(2月歌舞伎「於染久松色読販/神田祭」仁左衛門・玉三郎)

こんばんは、ヴィスタリアです。

寝ても覚めても宝塚歌劇に夢中なのですが、今日は宝塚歌劇の話ではなく歌舞伎の話です。

半年ほど前から歌舞伎を少しずつ見始めてビギナーなりに楽しんでおり、見れば書きたい性分なので書きます。

仁左衛門・玉三郎を見なくてはならないと決意するまで

二月歌舞伎の第二部を観てきました。

コロナ禍以降幕間なしの4部構成だった歌舞伎座は15-20分の幕間ありの3部構成になっていました。

芝居→幕間→踊りという流れに慣れ親しんだ宝塚に近いものを感じて(宝塚が参考にしているのでしょうけれど)高まります。

第二部は片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんの「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」と「神田祭」です。

仁左玉の舞台は初見ですが、ちょうど1年ほど前、玉様贔屓の母から「シネマ歌舞伎でいいのをやっているから」と誘われて
廓文章吉田屋」を見に行きました。

歌舞伎のことをなにも知らなかったので寝てしまわないかわかるか不安だったのですが、
舞台のおもしろさはもちろんのこと、仁左衛門さんのロングインタビューが興味深くて飽きることなく楽しめました。

インタビューで仁左衛門さんが玉三郎さんについて長年組んでいるからこそできるものがあるというようなことをお話されていたのが印象的でした。
(記憶に頼って書いています。)

同じ演目を同じ役者が組んで長年にわたって演じ続けることがどれだけ特別で貴いものであるかが心に残ったのです。

この辺りは自分がヅカファンでトップコンビやコンビに特別なものを感じるのと繋がっているのかもしれません。

宝塚においてコンビを正式に組めるのはトップスターとトップ娘役でありそれが稀有であるように
歌舞伎において何十年にも渡って特定の演目を特定の相手と演じることは稀有なことであるように受け止めたのです。

シネマ歌舞伎の試写会の記事にコウちゃん(汐風幸。現:片岡サチ)が登場されています。

まだ私が幼い頃に楽屋で玉三郎のお兄さんと父と母が3人で話しているのをぼんやり見ながら、
“そうか、母は父の奥さんだけれども、舞台では玉三郎お兄さんはパパの奥さんなんだな”って思った不思議な感覚が甦りました。

それから、まだ私が宝塚時代のとき、『吉田屋』を踊らせていただいたことがあるんです。
そのとき父が「まさか娘が踊るとはなぁ」と感慨深そうに言ったんです。
そのときはあまり深く考えませんでしたが、このシネマ歌舞伎を拝見して、
父が初めて伊左衛門役を演じたときの気持ちやエピソードを知って、
あのときの父の一言には深い想いが込められていたのだなとあらためて知りました。

コウちゃんは第一次ヅカファン時代にバリバリの現役スターさんだったので懐かしい気持ちになりました。
「銀ちゃんの恋」のヤス、絶品だったなあ。

話を歌舞伎に戻しまして、スクリーンで見た仁左衛門さんと玉三郎さんの麗しい美男美女っぷり、
並びの相性の良さと美しさ、息の合ったやりとり、恋人同士の喧嘩からの仲直りに
「これはいつか生の舞台で見てみたいなあ」とぼんやり思ったのでした。

それから約1年の間に自分が歌舞伎に興味を持つようになり演目や役者さんのことを少しずつ知るにつけ
あのロングインタビューで語られたことの貴重さがいよいよ沁みて
仁左玉は何としても見なくてはならないと思うようになり
その機会が巡ったきたというわけです。

母からも歌舞伎と宝塚を愛する方からも「二月歌舞伎はぜひ」とオススメいただいてその決意は一層強いものとなりました。

もちろん玉様監修の月組「WELCOME TO TAKARAZUKA」があまりにもすばらしくて
玉様ご自身の舞台もぜひ観たいと思ったのも大いに影響しています。

「於染久松色読販(おそめひさまつうきなのよみうり)」「神田祭」の感想

「於染久松色読販」のあらすじはこちらのブログがわかりやすかったです。

悪婆の土手のお六を演じる玉三郎さんと
色悪の鬼門の喜兵衛を演じる仁左衛門さんが夫婦なのですが、
それぞれが役として魅力的で最高にかっこよくて目が離せないのは言うまでもありません。

悪婆(あくば)とはゆすりたかりといった悪事を働くとびきり勇ましい女性で、
色悪とは悪の華を咲かせて見る者を刺激し魅了する男性のことで、ときに色白の二枚目で色事の味を見せながらも内心は残忍で冷酷だったりします。

こういう現象を目にして言葉の意味を突きつけられるということってありますが、
正にそういう観劇体験でした。

お六も喜兵衛もほんの短い間、舞台に1人になる場面があったのですが、
放つ雰囲気が異様なほど研ぎ澄まされていて
客席の緊張感が否が応にも高まるのをビリビリと感じました。

莨(たばこ)屋を営むお六は手が空いたときに縫い物も請け負い夫婦2人で宵を越すのがやっとの生活感がありありで(それもすごく味わい深い)、
でも肝の座った女性で、やるときはやる、強請るときの啖呵の切り方の迫力、凄味といったら。

いなせでも粋でもない、気風がいいでもない、
ときに悪いことや狡いこともしてみせるかっこいい女がいてそれを悪婆という――のを目の当たりにしました。

かっこいいってこういうことだと圧倒されました。

そしてちょっとした一言、仕草、纏う雰囲気に夫喜兵衛にべた惚れなのがだだ漏れで、この漏れ具合もたまりません。

甲斐甲斐しく世話を焼いたり何気なく合わせたりしているんですけれど、そういう目に見えるものだけではなく
醸す空気、流れているものが惚れきっているのがわかるんです。

色悪の喜兵衛のかっこよさもまた二枚目ともいなせとも違うもので、
ちょっと悪いからこそのかっこよさでした。

大悪党ではないのですが罪になることをしても悪びれない鷹揚さ、器の大きさがなんとも魅力的です。

そのためにギラりと光る刀を手にしたり口にくわえてたり、罰当たりにも死人の籠を大胆にひっくり返してみたり、
この辺りのかっこよさ、美しさは様式美を感じます。

そしてお六が自分に惚れていることは承知の上で
自分の「かかあ」として愛を注いでかわいく思っていることはこれまたダダ漏れです。

お六も喜兵衛もそれぞれかっこよくて互いへの思いは前提としてダダ漏れでなのですが、
仁左衛門さんと玉三郎さんの息の合い方、わかり合い通じあっているのが何とも言い難い特別なものであることが初見のビギナーの自分にもありありとわかりました。

仁左衛門さんと玉三郎さんの特別な、他の人たちと別の世界にいるような空気がすごかったです。

このすごさをどう言葉にすればいいのかわからないままでいるのですが、
息が合っているとか阿吽の呼吸をも超えて、言葉を当てはめるとしたら比翼連理とはこういうことだと感じました。

でもそれは正確な形容ではなくて、
どんな言葉でも形容しきれない、あらゆる言葉を超えた、生の舞台だからこそ感じることのできたすごさでした。

すごすぎて言葉にできないということを体験できてよかったです。

神田祭」は芸者と鳶頭の粋で華やかな踊りで華やぎました。

3階席で見ていたのでオペラグラスで覗き込みたい気持ちよりもオペラグラスで切り取ってしまうことのもったいなさを感じ、
わりと全体を見て放たれる雰囲気を浴びることにしました。

最後に花道に立った仁左衛門さんと玉三郎さんが手を握って3階席を見て大きな拍手がわき、
2階席を見てまたまた拍手がおき、1階席を見遣って拍手喝采を受けて捌けていくのは
完全にトップコンビのデュエットダンスとパレードのご挨拶でしたね(←ヅカファン的に)。

このコンビを祝福せずにいられない感じと舞台からわかっていてくれて応えてくれる感じと
それぞれのお客さまに視線を配ったりしてサービスする感じ、よく知っている…と思ってしまいました。

仁左衛門さんと玉三郎さんの息のあった踊りにときめきが止まらないのもまたトップコンビのデュエットダンスに近いものを感じました。

片岡仁左衛門一世一代の「女殺油地獄」のすさまじさ

この観劇の数日前にEテレで放映された仁左衛門さんの”一世一代”の「女殺油地獄」を見ました。

異様なタイトルだけは聞いたことはあったものの、ビギナーなので副音声の解説に助けてもらいながら見ました。

歌舞伎座のイヤホンガイドといい副音声といい「ん?いまのはどういうこと?」「何言っているのか全然わからない」と置いてけぼりになることがないので助かります。

ストーリー、主人公の与兵衛に母おさわ、義父徳兵衛に近所の内儀お吉とそれぞれのキャラクターも魅力的でおもしろかったです。

そして仁左衛門さんの与兵衛がすごかった!

どうしようもない放蕩息子で遊び人で、自分勝手で暴力は振るうし嘘もつく。

でもそういう男って魅力的でもあるんだよなあと思わされてしまう男っぷりなんです。

着物も着崩して、寝っ転がって足をぷらぷらさせて親の説教もなんのその、乱れた髪を洒落者らしくちょいちょい直す仕草もたまらなく魅力的です。

そのチャラチャラした与兵衛が借金に追い詰められて身をやつしてしょぼくれた変わりようもまた目が離せません。

そして近所の内儀お吉に色仕掛けをしようとするところの表情もうんと悪くて色気があって…すごかったです。

さらにお吉に断られてからの殺しを決意する表情は人が人でなくなる瞬間を目の当たりにしてる凄絶さがありました。

タイトルの通りクライマックスの油地獄のシーンは緊張感と三味線の生み出す不穏さに息をつめて見入りました。

三味線がこんなにも不吉に鳴ることを初めて知ったように思います。

与兵衛はすっかり人が変わってしまって人間でなくなっているし、息絶えるお吉も事切れるとはこういうことかという凄まじさでした。

あまりの凄惨さと迫力に興奮冷めやらず、この夜は中々寝付けなかった上にものすごい悪夢を見ました。

今日は土手のお六と鬼門の喜兵衛、そして神田祭の余韻で華やかで幸せな夢が見られそうです。

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