観劇の感想

六月大歌舞伎「桜姫東文章」「夕顔棚」芸を見ているのか役の魂を見ているのか

こんばんは、ヴィスタリアです。

今日は宝塚歌劇ではなく歌舞伎のことです。

六月大歌舞伎の一部と二部を観劇してきました。
歌舞伎を見始めたばかりのヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想です。

役者の芸なのか役の魂なのか 六月大歌舞伎一部「夕顔棚」

歌舞伎であんまり巧い方を見ていると芸を見ているのか、役の魂あるいは概念を見ているのかわからなくなることがあります。

魂あるいは概念というのは「こういう人、いるいる」「ああ、人間はこういう状況でこうするなあ」みたいな自分の想像できるものでしょうか。

その想像よりも真に迫ったものを役者さんに見せつけられたときに、
芸の力が為せるものなのにあんまりすごくて芸を見ているのか役の魂、概念を見ているのかの境界があやふやになるんです。

今回は一部の「夕顔棚」の爺/市川左團次婆/尾上菊五郎にそれを感じました。

長年連れ添った老夫婦が田舎の素朴な家の軒先で、夏の夕暮れの湯上がりに涼みながら一杯引っ掛けて楽しい気持ちになり、
聞こえてくる盆踊りの音楽に覚束なくなった踊りを踊って昔を懐かしむ――正にそのものでした。

会話は聞こえてこないのに2人の思い出話や連れ添ったもの同士のいちゃいちゃしている仲のよさも伝わってきました。

2人のよたよたとした、記憶の中にある若き日からは振りや細かいところが抜け落ちている(ように見えるのがすごい)踊りとは対照的に、里の男と女たちはハツラツと元気よく、命いっぱいに踊っています。

里の女の中村米吉さんは先日りかさん(紫吹淳)の事務所所属になったことが発表されました。

どういうご縁なのかわかりませんがうれしい驚きでした。

ちなみに一部の1幕目は「御摂勧進帳(ごひいきかんじんちょう)」で、芋洗い勧進帳とも言われるこの演目を一度見てみたくてチケットを取ったのですが
いざ幕上がると2幕に夢中になっていて、舞台は見るまでわからないなあと感じました。

安宅の関の弁慶/中村芝翫、義経/中村雀右衛門の話ですが、弁慶が関所を守る番兵たちの生首を引っこ抜いて大きな桶で芋洗いのように洗うというストーリーです。

大らかでユーモラスで残酷なこの筋を聞いたら、久しぶりの上演ということもあって「これは見に行こう」と思ったんです。

一体どうやって生首を引っこ抜くのかと思ったのですが、荒唐無稽でめちゃくちゃで、思わず笑ってしまいました。
楽しかったです。

六月大歌舞伎第二部「桜姫東文章」下の巻

二部は片岡仁左衛門さんと坂東玉三郎さんの「桜姫東文章」の下の巻、4月に上の巻が上演されてからの続きです。

分けての上演は新型コロナウィルスのみならず中の人たちの年齢、体力的なものもあるでしょう。
35年ぶりの上演が話題ですが今回が最後になってもふしぎはない…と思いながら観ました。

仁座玉ってどうしもこうもいいんでしょうね…とため息をついてそのまま言葉にならない、言葉なんていらない権助/清玄と桜姫でした。

どこか不気味なほどぼろっちい岩淵庵室で思わぬ再会をして「会いたかった、会いたかった」と権助に必死ですがりつく桜姫の、
暗くなって出かける(それも桜姫を女郎屋へ行かせる算段のために)権助に「早く帰ってきて」とたよりなげに言い募る桜姫のなんとかわいいことか。

そしてそんなかわいい桜姫を片膝をついてだらしない座り方で抱き寄せる権助の悪い顔が総合を崩す色っぽさといったら。

ああ、たまらないなあと思ったら二幕では下町の女郎屋ですっかり仕込まれてドスの効いた、肝のすわった桜姫こと風鈴お姫を「かかあ」と呼びやる権助がいて、
2人が布団を敷いて寝っ転がってぴったりくっついていて、権助は足をぷらぷらさせていて、ああ、もう…仁座玉の世界に溺れそうでした。

仁座玉って並びの美しさ、2人だけが作り出せる世界が感じられることは言わずもがな、
声がすごいのではと数回しか見ていないなりに感じていて、「桜姫東文章」は役替りだから尚のことそのすごさを感じています。

桜姫が権助に「会いたかった」とうんと甘やかに縋る一方、清玄が桜姫に執着し追い縋れば桜姫は全力で逃げようとし、
やんごとない桜姫は女郎屋で風鈴お姫としてすっかり仕込まれてお姫様からかかあになる。

権助/清玄、桜姫/風鈴お姫で声色がこうも違い、それぞれがまた魅力的だと感じました。

2幕の最後、桜姫が権助の正体に気づいて仇を討つ決心を一瞬のうちにして、愛しい男なのにその決断は絶対に覆せないのが玉三郎さんの視線、表情から伝わってきて胸が苦しくなるほどでした。

だから終幕で仁左衛門さんに3つめの役があったことに救われました。

これで大団円なのか…なんだな…と権助と桜姫の絡まり合って交錯する運命に思いを馳せながら拍手をしていました。

余韻の深い観劇でした。

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