こんばんは、ヴィスタリアです。
スカイステージで今月初放映された宙組全国ツアー「追憶のバルセロナ」を見た独断と偏見と偏愛に満ちた感想です。
なお作品の内容に触れております。
正塚作品はもっと再演されていい~宙組「追憶のバルセロナ」を見て~
「追憶のバルセロナ」は正塚先生のオリジナル作品の再演です。
初演は2002年雪組、ぶんちゃん(絵麻緒ゆう)と紺野まひるさんのトップコンビの退団公演でした。
当時は第一次ヅカファン時代を送っていましたがこの作品は見ておらず、今回の宙組全国ツアーの映像が初見になります。
当時もいまも好きな演出家は?と聞かれたら柴田先生と正塚先生のお名前をまず挙げるくらい柴田作品も正塚作品も愛してやみません。
正塚先生の作品はどこか洒落ていて心が温かくなるものが流れていて、ときに切なかったりほろ苦かったりする余韻があります。
またそれまでに見た宝塚歌劇の芝居にはない新しさを感じていました。
それはハッピーエンドと死に別れの悲劇以外の結末があるということ、
男女が互いに好意を持っていてもすなわち恋愛になりその先に結婚があるわけもないということ。
そして恋愛にのみ重点を置かずとも素晴らしい宝塚歌劇作品は実現可能だし楽しめること。
これらが正塚作品から受け取っていた新しさです。
いまあらためて正塚先生の作品を見ると男同士の友情や男の生き様にかなりのウェイトがおかれていて、
娘役をもう少し掘り下げて書いてほしいと思わなくもないのですが、好きなものは好きです。
主要人物から脇役までセリフが多くて、芝居の間がものすごく重要で、
愛すべき登場人物たちが息づいていて、ところどころに正塚節とでも言うべきクスリと笑えたりとぼけた味わいのあるセリフがあって、
曲がよくてーーとりわけ高橋城先生とのタッグは最高で。
暗転せずに場面をつないでいく1時間30分は絶え間なく流れる音楽のようにクライマックスと後味の良い幕切れへと導いてくれます。
そういった正塚先生あるあるが散りばめられた「追憶のバルセロナ」も楽しく見ました。
どうして17年もの間再演がなかったのかがふしぎなくらいいいオリジナル作品だと思いました。
登場人物が多くてストーリーもドラマチックで後味もいいですし、音楽・ナンバーも宝塚歌劇らしさがあります。
カーニバルは正塚作品に限らず宝塚歌劇のお約束ですが、幕開きのカーニバルの華やかさ、曲に心が踊るだけでなく、
1年後のカーニバルがストーリーの大きなポイントになるのも捻りが効いています。
戦争に翻弄されて思わぬ運命をたどることになったフランシスコ/真風涼帆とアントニオ/芹香斗亜が違う生き方を選ぶことになるのには特に心を動かされました。
2人の間で揺れるセシリア/華妃まいあがどう心変わりをしていったのか、もう少し時間とセリフなり歌を割いて見せてほしかったとは思います。
イザベラ/星風まどかとWヒロインと言っていいのでは?と思うくらいセシリアは重要な役で、初演は白羽ゆりさんが演じています。
正塚先生の作品は「メランコリック・ジゴロ」が頻繁に再演されているイメージがありますが、もっと他の作品に再演という光があたってもいいような気がします。
「ブエノスアイレスの風」など久しぶりに見たいですし、「LAST DANCE」もいい作品だと思います。
キャストごとの感想
◆フランシスコ・ アウストリア/真風涼帆
記憶を失う軍人という役どころは、時代も記憶を失う経緯もまったく異なるものの「FLYING SAPA」オバクと共通しているのが興味深い偶然でした。
青い豪華な衣裳のカーニバル、軍服の戦闘シーン、「黒い旋風」とゆりかちゃんのかっこいいお姿がたくさん見られてファンの方はうれしいでしょうね。
ロマたちと行動を共にし酒場でフランス兵たちを前に狼狽する姿と一転してイサベルから剣を奪って勇猛に戦う姿のギャップ、
そして記憶を取り戻してから自らの使命を定めて行動していくギャップがたまりませんでした。
登場したときのノーブルな貴族の子息の面影はもうどこにもありません。
父を、愛する人を失っても自分を見失うことなく律することができるフランシスコがイサベルと対峙していると自分の感情を顕にしてしまう瞬間も味わい深いギャップでした。
フランシスコ自身をとりまくすべてが変わってしまうなかで、自分を投げ打つようにまっすぐに思いを寄せてくれたイサベルが救いであり支えになったのですね。
◆イサベル/星風まどか
なんていじらしくてかわいいんだろうと、応援したくなるものがありました。
思ったことがすぐ顔にも声音にも出る素直さ、ころころ変わる表情、そしてどこまでもまっすぐな言葉も魅力的でした。
あまりにもまっすぐな「あんたのこと助けたの私なんだからね」という啖呵は本当にかわいくてどうしようかと思いました。
「オーシャンズ11」テスもこのイサベルもニンではない役でも自分のものとして消化して高水準のものを見せてくれる安定感がまどかちゃんにはあります。
その上歌もダンスも実力がありトップ娘役たる娘役さんだなと見る度に思います。
吊り気味に細く描いた眉などヘアメイク、勝ち気そう表情などよく研究していると思います。
◆アントニオ・ ヒメネス/芹香斗亜
フランスとの戦争に出征し戦闘に敗れてから生きること を信条に行動するアントニオは一見柔らかく優しそうに見えて、強さを秘めた男です。
苦悩し揺れる思い、「国とは人ではないのか」という訴える彼の信念がとてもかっこよかったですし、
生きることは正塚作品の大きなテーマの一つですからそれを託されてるとも言えます。
「FLYING SAPA」の感想で発声・喋り方が変わったとはっきり感じた男役さんが2人いたをことを書きました。
ゆりかちゃんとすっしぃさんです。
もう1人いたことにキキちゃんのアントニオを見て気づきました。
キキちゃん、「FLYING SAPA」で滑舌が格段によくなっているではないですか!
キキちゃんはどんな役に染まる透明感、変幻自在さが大きな魅力だと思っているのですが、今回もその魅力を感じました。
どんな役でもご自身の境目がないというか、似合わない、あるいはイメージと違うと思うことがないのです。
◆セシリア/華妃まいあ
冒頭のオレンジ色のドレス姿でフランシスコ/真風涼帆に繋いだ手を引かれながら登場する美しく幸せいっぱいの姿に感動さえしました。
またゆりかちゃんと並んでもキキちゃんと並んでも大人びた華やかな美貌が輝いていました。
出征するフランシスコとの別れを惜しむ場面では「ええ」というセリフが繰り返されるのですが、強く寄せる信頼と変わることのないと信じている愛を感じさせました。
それがなぜアントニオを頼ることになったのか、そうするしかなかった状況は察せられるものの、
揺れる気持や選択が伝わるような見せ場がほしかった…というのは望みすぎでしょうか。
そうでないとアントニオの危機にあたりフランシスコに助けを求める場面で、変わり身主義の身勝手さが見えてしまうような気がします。
ここで恋愛に重きを置き娘役を光らせるのが柴田先生で、男同士の友情に重きを置くのが正塚先生なのかな…とも思いました。
◆ロベルト/桜木みなと
幕開き、スポットライトのなかにいたのがセンターで踊るずんちゃんでした。
このシーンは1年後のカーニバルでリフレインされますが、昏い炎が燃えるような目、そして酒場で言葉もなく突然フランス兵を刺す、つとめて冷静そうに見えながら沸点が低いところが強く印象に残りました。
フランシスコに問われてイサベルへの恋心を言葉では否定しますけれど、本当のところはどうなんでしょう。
思いを寄せてくるアンジェリカに「もう離れない」と言われて「顔も見たくない」とキレでおきながら、追い抜きざまにトランクを持ってあげりして、天の邪鬼で素直になれない性分なのでは?
◆フェイホオ/和希そら
フランシスコの従者は出番の多寡で言えば正直なところ役不足な気がしないでもないですが、立ち居、仕草などがらしくて巧いなあと思いました。
1年後のカーニバルを眩しそうに見る目、体の前で手を組んで立つ感じ、そして「1人より2人、2人より3人です」のセリフなども間のとり方が抜群です。
◆イアーゴー/寿つかさ
初演はマヤさん(未沙のえる)が演じていて、すっしぃさんは「オーシャンズ11」に続いてマヤさんの役の再演になりました。
一癖も二癖もある難しい、そして演じ甲斐のある役です。
初演のマヤさんを見てみたいと思いました。
変わり身が早くて利害で動く姑息さがありますが、中の人(すっしぃさん)の温かみやお人柄が滲んでいて、すっしぃさんはすっしぃさんのイアーゴーを作ったのだなあと思いました。
◆ アンジェリカ/遥羽らら
適材適所とはこのこと、踊るべき人が踊っています。
きつめのカールのロングヘアにヘアバンド、柄や色の鮮やかな衣裳もよく似合っていました。
そしてイサベル同様、恋が叶うことを応援したくなるいじらしさがあります。
最後のシーンはもう…もう……かわいすぎて言葉になりません。
思いを寄せるロベルトについ言ってしまった言葉のやりとりや「肌もきれいになる」に、彼との間に何があったのかが察せられて、明言しない正塚先生の脚本が好きです。
◆ミゲル/留依蒔世とロザリンド/天彩峰里
適材適所はここにもあって、歌うべきお2人が歌っています。
ミゲルはカーニバルで踊っているときから強い目力でギラギラしているのがすごかった…射抜かれそうです。
親方というまとめ役もぴったりだと思いました。
すべての騒動が終わった後、区切りをつけるようにミゲルが、そしてロザリンドが歌うのは洗い流すような効果を感じました。
◆レオポルド・ アウストリア/美月悠
カーニバルから夜会へと場面が転換するとき一人で舞台に立っているのですが、纏う雰囲気の威厳と気高さ、重厚さで一気に空気が変わったように感じました。
スペイン貴族、伯爵としての矜持と高貴さがあり最後のシーンの表情は胸に迫るものがありました。
華妃まいあちゃんの卒業を心から惜しむ
華妃まいあちゃんのことを認識し、なんてすばらしい娘役さんだろうと心惹かれたのは約2年前、「不滅の棘」のスカイステージ放映ファーストランを見たときでした。
当時はスカステ難民だったのですが実家に帰省していて見ることができたのです。
以来宙組を観劇するたびに注目し、新人公演ヒロインを悲願し、「群盗」のもう1人のヒロインとも言うべきリーベ役には感嘆しました。
99期は好きな生徒さんがいたり、期待されながら別箱での卒業が続いたり、新人公演主演を最後のチャンスで掴む姿に思いれずにいられず、応援しています。
まいあちゃんもその1人でした。
まいあちゃんは大人っぽい美貌に舞台映えする華やかさとスタイルのよい長身、芝居心もありダンスも歌もたしかな実力を兼ね備えた娘役さんで、
なぜ別箱はもとより新人公演のヒロインさえ経験がなかったのか不思議です。
「オーシャンズ11」のスリージュエルズのサファイアもバーン!と押し出しのある華やかさとパンチの効いた歌声が大好きでロックオン気味に見ていました。
この全国ツアー「追憶のバルセロナ/NICE GUY-Sの法則-」でご卒業されることもあってか両作品で娘役2番手といっていい活躍で、ショーではエトワールも努めています。
しかしはなむけだからでなく、通常の公演でこのくらいの役や場面が与えられるにふさわしい娘役さんだったと思うのです。
収録が千秋楽だったので終演後の挨拶ですっしぃ組長から紹介されると会場中から大きな大きな拍手が寄せられて鳴り止まないほどでした。
多くの観客が、ファンが、まいあちゃんのすばらしさを知っており早すぎる卒業を惜しんでいることの証でしょう。
ご卒業後も芸事の道に進まれるのかしら…と(勝手に)期待していたのですが、ときどき更新されるInstagramからはその様子がないまま新型肺炎の流行が始まってしまいました。
いつか外の世界で舞台に立たれることがあればぜひ見たいですし、たとえその機会がなかったとしても華妃まいあというすばらしい娘役がいたことを忘れませんし、愛し続けます。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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