観劇の感想

雪組「ヴェネチアの紋章/ル・ポァゾン」適材適所の活躍と、初演と再演の違い

こんばんは、ヴィスタリアです。

雪組全国ツアー「ヴェネチアの紋章/ル・ポァゾン」の感想です。

ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちたもので、作品の内容に触れています。

特に「ヴェネチアの紋章」の初演との違いに触れてネタバレしています。

雪組「ヴェネチアの紋章/ル・ポァゾン」適材適所の活躍

これは星組「ロックオペラ モーツァルト」を観たときにも感じたことですが
歌のうまい人に歌を、ダンスがうまい人にはダンスを、という方針に徹していると感じました。

「ロックオペラ モーツァルト」は池袋のブリリアホールの杮落とし公演、今回は全国ツアーと初めて宝塚歌劇を見る人が多いからこその選択でしょうか。

ブリリアホールの方がミュージカルということで歌について一層徹底していたと思います。

「ヴェネチアの紋章」「ル・ポァゾン」いずれも再演ですからこれまでの上演時と比べたくなる気持ちもありつつ
適材適所で生徒さんが活躍できるこういう公演があってもいいと思います。

「ヴェネチアの紋章」の幕開きからありすちゃん(有栖妃華)がグリーンホールの天井を突き抜けんばかりの美声を響かせ、またエトワールもつとめていました。

ともかちゃん(希良々うみ)もお芝居、ショーともにソロがありましたし、
あやちゃん(夢白あや)も「ル・ポァゾン」の愛の歓び(亜麻色の髪の乙女の場面)でソロを堂々と歌っていました。

そして「ル・ポァゾン」の男役さんの印象的なソロ(吟遊詩人とパラダイスの歌手)はしゅわっち(諏訪さき)が歌っていました。

99期のしゅわっちの活躍がうれしく涙しそうでしたし歌もよかったです。

眞ノ宮るいくんあみちゃん(彩海せら)
いちかっち(一禾あお)めぐみくん(聖海由侑)
のりかちゃん(紀城ゆりや)の若手男役5人が歌い継ぐナンバー(若さ、スパークリング!)もあり、
新生雪組での活躍と成長が一層楽しみです。

いちかっちは「ヴェネチアの紋章」でもカシムという印象に残る役を演じ、
「ル・ポァゾン」では鮮やかな水色の衣装でパン・フルートの少年を生き生きと踊っていました。

この公演の2番手はあやなちゃん(綾凰華)が堂々とつとめ、
「ヴェネチアの紋章」ではストーリーテラーとして膨大な台詞を喋りソロで歌い、さきちゃん(彩風咲奈)の親友役として堂々と渡り合っていました。

「ル・ポァゾン」でも愛の葛藤(白と黒のマタドールの場面)でさきちゃんと対峙して踊り合い、
ダンスの巧さにとどまらず、気迫と世界観に引き込まれました。

今回初めて観た彩綾ですが、優美さと耽美さが際立って、コスチュームものやロマンチックレビューの世界にハマるんだなあと感じました。

この古き良き宝塚を見せてくれた雪組がお披露目本公演で対極の遥か彼方にある「CITY HUNTER」をどう見せてくれるのかも楽しみです。

2021年に入ってから月組「ダル・レークの恋」のありちゃん(暁千星)
今回のあやなちゃん
そして先日発表になった花組「銀ちゃんの恋」の飛龍つかさくん
98期の別箱での活躍が続きます。

男役10年、飛躍のときですね。

「ヴェネチアの紋章」初演と再演の違い

ここから「ヴェネチアの紋章」の初演(1991年花組)と今回の再演の違いについて触れ、
またネタバレもしています。

愛媛、愛知公演、ライブ配信を見るまで知りたくないという方はご注意いただけたら幸いです。

初演はダイジェスト版の映像でしか知らないのですが、なつめさん(大浦みずき)キャルさん(ひびき美都)の退団公演で
永遠の贔屓ヤンさん(安寿ミラ)の唯一の2番手スターとしての公演で思い入れがあります。

初演は幕開きから明るい色の洪水で、祝祭のようで、軽やかでどこか牧歌的でもある♪ヴェネチア、ヴェネチア♪というメロディーが印象的ですが、
再演は物語の重たさ、アルヴィーゼとリヴィアの運命を象徴するかのような昏く重々しい水の色のセットとメロディに変わっていてまるで違う作品でした。

初演は明るい光を当てることで陰を際立たせ、再演は陰を陰として美しく描くことを全面に押し出したという印象を受けました。

この陰、水の昏さがセットの色調によく出ていて、また全国ツアーで展開が限られる中でとてもよいセットだったと思います。

転換に幕前芝居は必要ですが、それも謝先生の手腕と雪組生の演技で飽きたり冷めたりすることもなかったです。

青い影というダンサーたちの存在も世界観を深くしていました。

(ちなみに見た目の違いはセットの色調以外にもあって、貴族の青年たちは初演は全鬘で長髪なのですが、再演で長髪なのはアルヴィーゼだけでした。)

そして初演と再演の最大の違いは結末近くで描かれるアルヴィーゼとリヴィアに愛娘がいたというエピソードです。

プログラムで謝珠栄先生がこう書いておいでです。

……当時貴族の男は平民の女と結婚できるが、貴族の女は平民と結婚できないという暗黙の制度がああったからなのです。

今回柴田先生の脚本には描出されなかった二人の間にできた愛娘の存在を明かすことにしたのは、”二人の愛の未来は存続した”という事実が、観客の皆様の胸をなでおろすことになるだろうと思ったからです。

この娘の存在がマルコに明かされ未来を託されたことで、マルコとオリンピアの関係が恋愛ではあるが結婚がないことも強調され、物語が一層深く味わい深いものになると思いました。

オリンピアは「ローマからやってきた色っぽい商売をしている女性」という触れ込みですから
名門貴族の御曹司マルコとは愛し合っていながらも割り切った関係でしょう。

初演ではアルヴィーゼとリヴィアと悲しい別れをしたマルコが一人ヴェネチアに帰ってくると、海の祭りが盛大に催されていて人々が賑やかに、楽しそうに踊っています。

その賑やかな祭りの列の中、おさげのメイド ヴェロニカが「カシムが死んじゃった」とわあわあ泣いて舞台を横切り、
次のトップ娘役森奈みはるちゃんが抜群の芝居心をこの短い台詞で見せています。

このみはるちゃんヤンさんが眺めていて、次のトップコンビがこの作品で初めて同じ板の上にいてほんの一瞬交錯するのも好きです。

そしてオリンピアからの手紙を受け取って呆然とするマルコは祭りの人々の中に
アルヴィーゼそっくりの男と彼が「アドリアーナ」と呼びかけるリヴィアそっくりの女性が幸せそうに手を取り合って踊り、去っていくのを見つめていました。

アドリア海はリヴィアが身を投じた海です。

この構図もまた、トップコンビが卒業していくのを次のトップスターが見送っていくのにも重なって好きです。

柴田先生の悲劇は悲劇の真っ只中で幕になることが多いですが、「ヴェネチアの紋章」はアルヴィーゼとリヴィアの生まれ変わりを暗示し、救いを見出したエンディングになっています。

それが再演ではアルヴィーゼとリヴィアに娘がいたという未来を想起させるの描き方に変わっていたのは大きな衝撃でした。

衝撃を受けつつ、セリフに「敬虔なキリスト教徒ではありませんか」とありますからアルヴィーゼとリヴィアの転生よりも再演の方が合っているのかしら…と考えたり、マルコのその後に思いを馳せたりしました。

再演は白い衣装で美しく踊るアルヴィーゼとリヴィアのデュエットダンスが短いながらもあって、
天国で2人はようやく幸せと安寧を手に入れたんだ…と客席で救われました。

初演と再演で形は違いますが、この幸せな2人が姿がなかったらあんまりにも悲しくて立ち直れません。
宝塚歌劇のこういう終わり方、好きです。

2回目の観劇では作品も表現も深まっている分アルヴィーゼがあんまりかわいそうで目がうるみっぱなしでしたから尚のことです。

初演と再演でまるで違う印象を抱きましたが、トップコンビの退団公演であったりお披露目公演であったり、時代も事情も違うなかでそれぞれのよさを感じた観劇でした。

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