観劇の感想

月組「チェ・ゲバラ」キャストごとの感想

こんにちは、ヴィスタリアです。

月組「チェ・ゲバラ」のキャストごとの感想です。
いつもの通りヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた個人的な感想であり、またネタバレにあたる部分もあるかと思います。

エルネスト・ゲバラ/轟悠

イシ様(轟悠)の舞台を見るのは昨夏の雪組東京宝塚劇場「凱旋門」以来です。

イシ様、ものすごくかっこよかったですしうまかったです。
昨夏の雪組「凱旋門」のときは歌が苦しそうでハラハラする場面もあったのですが今回はずっと声が出ていてほっとしました。

「凱旋門」でイシ様が演じたラヴィックも今作のエルネスト・ゲバラも医者ですが、エルネストは医者から革命家へと転じていきます。

登場シーンではきちんとした身なりの医者ですがそれは本当に短い間で、ポスターの「ゲバラと言えば」のあのスタイルが大半で、先行画像が出たときは髭があまりにも似合うのと美しいのとで感嘆しましたが舞台はそれ以上でした。

ヘアスタイル、髭の具合、小物など少しずつ変化していきますが、ポスターにもなったベレー帽に髭を蓄えたお姿がワイルドで一番かっこよかったと思います。

なによりイシ様はやはり真ん中の人で、劇場を支配するもの、オーラの厚みのようなものが確とあると唸らずにいられませんでした。

特に国連の演説の場面は始まるところで一瞬沈黙が置かれるのですが、その空気の張り詰めた凄みにはっとしました。

キューバ革命が成功するまでの熱量はもとより、特に2幕以降のフィデル・カストロ/風間柚乃との別離やボリビアでの戦いと落胆、最後の場面の冷静さなどの表現の深さが印象に残りました。

アレイダ/天紫珠李との恋愛がぎこちなく純で不器用でありながら、キスシーンなどの見せ方はさりげなくて何気なさそうなのにものすごくかっこいいのですから参ってしまいます。

フィデル・カストロ/風間柚乃

休演となったれいこちゃん(月城かなと)の代役を「夢現無双」に続いて務めたおだちん(風間柚乃)ですが、芝居も歌もずば抜けてレベルが高く、この舞台のMVPはおだちんを置いていないと思います。

おだちんはすごい逸材だとあらためて思いました。

フィデル・カストロとして29学年上のエルネスト・ゲバラ/轟悠と堂々と渡り合い、対等な熱い友情を表現するのはもちろんのこと、革命を率いるリーダーとして、また革命成功後はイシ様のゲバラより上の立場に立ち、それがなんら遜色ないのです。

バレエ漫画の名作 山岸凉子の「アラベスク」で主人公の新進バレリーナ ノンナが恩師で花形プリマのコルパコワ先生とダブルヒロインを踊る舞台があります。
ノンナは若さからくる技術の正確さ、コルパコワ先生は持てる叙情性で対比し対抗し踊るというシーンがあるのですが、このことを連想しました。

おだちんとイシ様がそれぞれ持てるもので対峙し、渡り合い、友情と決別と共にした信念をものすごい熱量で伝えてくる、そんな舞台を作り上げていました。

革命後のキューバでかつてゲリラを共に戦い抜いた仲間たちがカストロにゲバラとの決別を迫るシーンがあるのですが、突っぱねてみせる器の大きさも堂々たるものでしたし、
国を率いることになってからの理想と現実との間で揺れるリーダー像も見事に表現されていました。

カストロの黒髪と髭の暑苦しさがおだちんの男くさい、骨太な雰囲気によく似合っており、舞台にいると存在感に厚みがあると感じました。

また歌もすばらしくて音程のたしかさ、声量など技術的なことはもちろん心情の伝わってくる歌でした。

スーツで登場するのは最初だけで途中から軍服になり、それもシャツの裾を出しっぱなしのモサっとした着方をしています。
「夢現無双」の宍戸梅軒、新人公演の宮本武蔵、そして今回のカストロとむさ苦しい外見の役が続いていますが、スーツをすっきりと着こなして最高にかっこつけるおだちんも見てみたいと思いました。

以前「おだちんでこんな役が見たい」と想像したことがありました。

風間柚乃くんでこの役が見たい!3選こんにちは、ヴィスタリアです。 今日は月組「夢現無双」の新人公演ですね。 幸運にも観劇できることになり興奮しています。 ...

そのなかで挙げた「ノバ・ボサ・ノバ」「風と共に去りぬ」はイシ様が演じた作品で、もしかして雰囲気など似ているのかしら?とふと思ったりしたのですが、こうして舞台で対峙するのを見るとおだちんは骨太な、どっしりとした男くささが魅力だと感じました。

まだ研6でこれだけの舞台を見せるとは、ノンナではありませんがおだちんはとどまるところを知らぬ未完の大器なのかもしれない…とも思いました。

アレイダ・マルチ/天紫珠李

東上初ヒロインのじゅりちゃん(天紫珠李)、おめでとうございます。

アレイダは勇気があって死をもおそれずにゲリラ戦を戦うカストロとゲバラたちに軍資金を届けたり、革命後は実務能力の高さを発揮してゲバラの秘書をつとめる聡明な女性です。

この勇気と聡明さ、そしてさっぱりとした気性を伺わせるヒロインをじゅりちゃんはしっかりと演じていました。

レイナ/晴音アキがかつてアメリカの要人たちをもてなしていたホテル・ナシオナルの踊り子と聞いたときに一瞬見せる潔癖さとそれを振り払うように示してみせた優しさに、アレイダの自身を律することのできる聡明さを感じました。

キュロットスカートにジャケットで闊歩するかっこよさは元男役ならではかもしれません。

目をひいたのは演技、歌だけではなく、舞台化粧が一気に垢抜けて美しくなったことも挙げなくてはなりません。
プログラムのお写真も舞台も今までで一番じゅりちゃんの美しさを引き出していると思いました。

フルヘンシオ・バティスタ/光月るう

るうさんが悪の権化のようなキューバ大統領バティスタを演じています。

まずプログラムからして反則でしょうと言いたいくらいのかっこよさで、軍服に葉巻のるうさんがめちゃくちゃ悪くてめちゃくちゃかっこいいです。

人のよさ、優しさを一切封印した非道な悪役、しかも軍服で、存在感がありました。

存在感といえば幕開きの2019年のハバナの場面では現地の男の一人として出ているのですが、るうさんの眼光の鋭さ、存在感が只者ではなく、放つ空気に圧がありました。

エル・パトホ/千海華蘭

冒頭近くで客席いじりがあり、からんちゃん(千海華蘭)はまだ固い客席をさらりといじっていました。

からんちゃんの演じるエル・パトホはグァテマラ出身。
ちょっぴり鈍くてゲリラ戦の訓練ではぱっとしなくて、でも人情に厚くて憎めなくて、ふわふわしているように見えてしっかりと芯と熱い志がある、そんな男です。

この作品の縦軸はゲバラの生き様とカストロとの友情、貫いた信念にあり、横軸は人々の人生にあると、作品についての感想の記事で書きました。

その人生に触れるようなセリフに心を動かされ、泣くようなドラマティックな場面ではないのに涙することが度々あったのですが、メキシコからキューバを目指すゲバラたちを逃す場面でのエル・パトホのセリフにも心を揺さぶられました。

短いセリフのなかにエル・パトホの生き様を伝えるからんちゃんのたしかな演技あってこそだと思いました。

パトホ役以外で民衆を演じているときなど、踊りの美しさや存在感も光っていました。

レイナ/晴音アキとルイス/礼華はる

なぜレイナ/晴音アキルイス/礼華はるを一緒に書くかというと、この2人のドラマが非常によく、この作品の太い横軸になっていると感じたからです。

作品をぐいぐいと前に進める力になっていると同時に、1幕の幕切れのゲバラたちの革命成功との対比ーー慟哭と悲劇がすばらしかったです。

はるのちゃん(晴音アキ)はホテル・ナシオナルでの踊り子姿も妖艶さをわずかに滲ませた健康的な色気があり、その後のキューバ市民としてのシャツにロングスカート姿も美しさがありました。

美しさと悲哀があり、歌もよくていい役で、はるのちゃんの実力を見せてくれました(「夢現無双」が役不足で物足りなかったので)。

そしてぱるくん(礼華はる)は要所要所で見せ場があり複雑に心情の変化するルイスを好演していました。

178cmの長身に軍服が映え、バティスタ/光月るうの部下でありながらだんだんとレイナや地下活動をする市民たちに傾倒していくのが伝わってきました。

またソロでの歌もよく、これから活躍の場が広がるのが楽しみな若手男役さんだと思いました。

その他のキャスト

一言ずつですが触れさせてください。

◆ミゲル/蓮つかさ
髭でむさ苦しい、濃い面々の活動家のなかに一人美しい青年がいました。まぶしいほどの美しさです。

エルネスト・ゲバラ/轟悠に心を開かない尖った雰囲気がヒリヒリと伝わってきました。

また妹のレイラ/晴音アキにはメロメロのお兄ちゃんで、兄妹の歌うたデュエットも聞きごたえがありました。

◆マイヤー・ランスキー/朝霧真
この舞台の2大悪くてかっこいいはバティスタ/光月るうとニューヨークの大物マフィアランスキー/朝霧真で、ギリくん(朝霧真)はさらに下衆さもあってたまらなかったです。

るうさんと同じくプログラムの写真からしていいんです。小道具としての葉巻の威力を思い知りました。

また2幕ではボリビアの活動に身を投じ軍隊に捕らえられたエルネスト・ゲバラ/轟悠に銃を向けるマリオ・テラン役も演じており、こちらの熱演も見事でした。

◆ハーバード・マシューズ/佳城葵
やすくん(佳城葵)は声がいいし滑舌もいいし、独特の存在感があって月組を見るとき楽しみにしている生徒さんのお一人です。

ニューヨークタイムズの記者としてストーリーテラー的にキューバ危機や歴史的背景をわかりやすく伝えると同時に、役として生きており説明的になりすぎておらず上手でした。
記者の使命感が燃えているのも伝わってきました。

◆エリセオ/きよら羽龍
ギレルモ/輝月ゆうまの弟役で最初に舞台に出てきたとき驚きました。

少年の溌溂としたみずみずしさがあり、悲劇的なシーンもありますが、べったりと情を込めすぎずやりすぎていなかったのが好印象でした。

またカーテンコールでほんのちょっと踊るとき全身から楽しさがほとばしっていたのが眩しかったです。

カミーロ/蒼真せれんの髭もじゃと熱量、芸達者なギレルモ/輝月ゆうま、優しさをにじませたローラ/叶羽時といった方たちも光っていました。

すばらしい熱演を見せてくれた出演者全員に心からの拍手を贈ります。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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