こんばんは、ヴィスタリアです。
宝塚歌劇のラブシーンは美と品の極致
宝塚歌劇のラブシーンってすごいと常々思っています。
暗示しているものを匂わせ想起させながら限りない美と品があってまるで芸術品のようです。
艶っぽくときに官能的な振付。
肌を露出した衣装
ピンク~紫色がかった照明に浮かび上がるセット。
しかしそれらがいやらしく見えたり、エロいという単純な言葉で形容してふさわしいことはありません。
また芝居においてはそこに至るまでのセリフ、言葉の美しさも欠かせない重要な要素であり、これが考え抜かれているからこそ
宝塚歌劇のラブシーンはすべてが完成された美の極致と言えるのではないでしょうか。
長い歴史のなかで数々の名シーンが生まれてきたことと思いますが
独断と偏見と偏愛でベスト5を選んでみました。
宝塚歌劇のラブシーン5選~芝居編~
それではまいります。独断と偏見と偏愛で選んだ5作品です。
1.月組「アンナ・カレーニナ」
美弥るりか・海乃美月
2.星組「鎌足」
華形ひかる・有沙瞳
3.月組「グランド・ホテル」
珠城りょう・愛希れいか
4.月組「ダル・レークの恋」
瀬奈じゅん・彩乃かなみ
5.雪組「春雷」
彩凪翔・大胡せしる
観劇できたのは「アンナ・カレーニナ」「鎌足」だけであとは映像を視聴しました。
「ダル・レークの恋」はやはり映像ですが1997年星組のマリコさん(麻路さき)とゆりちゃん(星奈優里)もすばらしかったと記憶しています。
公演直後なので見たのは10代半ばだったと思うのですがものすごーーーくドキドキしたのを覚えています。
以下、各シーンのツボを書いていきますが作品の内容とセリフに触れています。
月組「アンナ・カレーニナ」
「幸せな家族はどれもみな同じようにみえるが、不幸な家族にはそれぞれの不幸の形がある。」という書き出しから始まるトルストイ「アンナ・カレーニナ」は不倫の話で、
アンナ/海乃美月とアレクセイ・ヴィロンスキー伯爵/美弥るりかの関係も不倫と言ってしまえば身も蓋もないですね。
ですが、それでも美しいものは美しい。
醜いものも美しく描くのが宝塚歌劇ーーこれは宝塚GRAPHで柴田先生の作品について語るたま様(珠城りょう)の「醜い感情をも美しく描く」というコメントからです。
政府高官カレーニンの夫人アンナに夢中になってしまったアレクセイは軍隊の地位も投げうってアンナを追いかけ、
アンナもまたアレクセイに惹かれていく自分を抑えることができず、夫ともわかりあえないことに耐えられなくなります。
アレクセイが待つ別邸に訪れたアンナは白いナイトウェアのようなワンピースの姿で、結い上げていた髪をおろします。
寝台に腰かけ熱い眼差しをそそぐアレクセイはベージュの柔らかなシャツとボトムスで、
それまでの重厚な軍服、豪奢なドレスとの対比が際立ちます。
2人の恋の理解者であるベッツィ/美穂圭子の歌声に包まれ、寝台を照らす照明は紫がかっていて、
アンナの背後からアレクセイが手を取って重なり合って口づける一連の流れは一瞬一瞬を永久に保存したい美しさです。
この場面に至るまでにアンナと夫カレーニンの心の隔たり、アレクセイの貴族社会、軍人の掟に抗う苦しさの場面があるので
短いラブシーンが浮世の夢、魂の救済、避けがたい運命のように描かれていると感じました。
星組「鎌足」
「あかねさす紫の花」でおなじみの中臣鎌足を主役に据えた生田先生の作品です。
舒明天皇が身罷られた後、遺言により即位したのは皇極帝/有沙瞳でした。
大臣になったばかりの蘇我入鹿/華形ひかるはひと目で帝の美しさに心を奪われる一方で
苦しみが帝の美しさを曇らせていることに気づくものの、
まだ若く力のないゆえにどうすることもできません。
ある夜、琴を爪弾く皇極帝に挨拶に訪れた入鹿との間に他に代えがたい心の交わりが生じます。
恋慕であると同時に人としての軽んじられ傷つき、かつ誰にも明かすことのできない苦しみをいたわり合う交わりでした。
皇極帝が思わずもらした苦しみの理由と、自身を抑えきれなくなった入鹿のやりとりが
芝居巧者のみつるさん(華形ひかる)とみほちゃん(有沙瞳)の間で交わされるんです。
巧いだけに迸るものと緊張感がすごくて、劇場の客席で身動きできないくらい、息を詰めて舞台を見ていたのを覚えています。
皇極帝の薄い白色の着物を蘇我入鹿が奪ったり、衣ごと強く束縛するように抱きしめて、
照明がピンク色に変わる振りは抑えられていますがなんと美しくそして雄弁なことか。
傀儡となっていた皇極帝に人間としての感情が蘇り、入鹿に縋り眠りに落ちながら漏らす言葉が「なんてあたたかい…」
みほちゃんの込めた万感の思いもすばらしく、目元を涙で濡らしているみつるさんの抱擁とこの後の変貌は凄まじいものがあります。
それは2幕の皇極帝の変貌にも言えることです。
月組「グランド・ホテル」
もしかしたら自分が一番好きなミュージカルは「グランド・ホテル」かもしれないと思うくらい好きな作品です。
といっても宝塚版は観劇したことがなく、月組再演の少し前に梅芸版(トム・サザーランド演出)を観劇しただけなのですが。
このときは永遠の贔屓ヤンさん(安寿ミラ)がグルシンスカヤを演じていて、
これがもう最高にすばらしくて再演を待望しています。
(ちなみにヤンさんご自身はどのバージョンのグランド・ホテルがお好きかと問われた際に「もちろん宝塚ですね」と即答されています。)
そして言葉によるラブシーンがもっとも美しいのも「グランド・ホテル」ではないかと思うことがあります。
借金で首が回らないフェリックス・フォン・ガイゲルン男爵/珠城りょうは運転手/宇月颯にそそのかされて
引退興行中のバレリーナエリザベータ・グルシンスカヤ/愛希れいかの客室に忍び込んで宝石を盗もうとします。
下手を打ってグルシンスカヤに見つかり、言い逃れのやりとりから2人の間に恋が芽生え、一気に燃え上がって…というシーンです。
まずデュエット曲「Love Can’t Happen」がすばらしいんですよね。
そして宝塚歌劇では非常に珍しい、ヒロインのほうが年上(それもうんと)という関係性の2人ですが、
それを存分に生かしたセリフがたまりません。
(グルシンスカヤ)明かりが強すぎるわ。消してちょうだい。
……あなた、何を見ているの。
(男爵) あなたの人生を。それはすべてあなたの顔に表れている。
あなたの目を瞠るような人生、あなたの勇気、あなたの力、犠牲、経験、あなたの美しさ。
これは女性が言われたい言葉かもしれません(少なくともヴィスタリアは言われてみたいです。言われる価値があるかどうかはまた別のこととして…)。
男爵が激しく口づけ、音楽の高まりに合わせてグルシンスカヤがバレエのようなポーズを決めて暗転しますが、
暗がりのなかで男爵がトゥシューズのリボンをほどくの見えた……と生観劇された某ブロガーさんが教えてくださいました。
(心優しい記事を書かれる方で、ある日突然ブログの更新が止まったままなのですが今頃どうしていらっしゃるかな…と思っています)
さらにこの後のやりとりもいいんですよね。
(男爵)女の子の1人や2人なら知っているけれど、女性となると1人も知らなかった。
男爵は真実を告げ、グルシンスカヤも彼女自身の本当の思いと情熱を告白します。
今回久しぶりに月組再演の映像を見直しましたが、ちゃぴちゃん(愛希れいか)が
きちんと年上の女性に見えるようメイクを随分工夫されていて、首筋~腕の筋肉がバレリーナを想起させて、
トップスターとしてスタートをきったばかりのたま様(珠城りょう)も若い男爵によく合っていて、
このときの月組にぴたりと合った奇跡の再演であったと強く思いました。
月組「ダル・レークの恋」
ダル湖の湖畔から始まる騎兵大尉ラッチマンとマハ・ラジアの一族の姫カマラの一夜は、まずそこに至るまでのストーリーが盛り上がる上に
言葉のやりとりの味わい深さに引き込まれます。
思い合っているのに家の名誉のためにラッチマンを振ることを命じられたカマラと彼女の本心を暴こうとするラッチマンのセリフは沁みます。
(ラッチマン)恋をしている限り男はただの男で、女はただの女です。
(カマラ)世の中には愛しても仕方のないことがあるんです。
そしてラッチマンはカマラの一家の目の前から姿を消すことを約束し、ある条件を提示します。
(ラッチマン)私はカマラ様を愛しています。ーーと言えば、取引条件に何をお望みかおわかりでしょう。
私の要求はあなたの生命です。今宵一夜、あなたの生命をいただきたいのです。
(カマラ)あなたは人を殺したことはありますか?
(ラッチマン)さあね。女の魂を奪ったことはあります。
ああ、こうしてセリフを文字に起こしていても脳みそが沸騰しそうです(しかもこの先もっといいセリフがあるんです)。
そしてこれをうみれいこ(月城かなと・海乃美月)で見られるかと思うと沸いた脳みそが爆発しそうです。
ラブシーンは美しい寝台のセットとカマラのサリーの長い布の使い方が印象的で、
羽山先生の振付のデュエットダンスは息をのむような美しさと直視できないくらいの艶っぽさです。
カマラがラッチマンに抗いながらも強く惹かれ愛に身を焦がしているのも
ラッチマンが本性を隠さずに彼女の魂を奪っているのもよくわかります。
ずっとターバンの中に髪を収めたラッチマンが艷やかな長い黒髪をおろしているのもたまりません。
雪組「春雷」
ゲーテの「若きウェルテルの悩み」が劇中劇として描かれている作品です。
ウェルテル/彩凪翔が滞在先で出会ったロッテ/大湖せしるとの恋が燃え上がり、
しかしロッテには親が決めた婚約者アルベルト/鳳翔大がいて…というストーリーです。
金髪の長い髪を束ねた凪様と茶色の髪を美しくカールさせたせしるさんが絵のような美男美女で、
原作がしっかりしていることもあって再演があってもおかしくないくらい話もまとまっていて……。
それはもはや叶わぬことになってしまいました(涙)。
タイトルの「春雷」はまさにウェルテルとロッテのラブシーンに関わるものでもあります。
祭りの夜、春雷が轟く中で雨宿りをしている折(まずこのシチュエーションの非日常✕非日常の運命感がすばらしい)、
ウェルテルは「恋してしまったんです、あなたに」とまっすぐに自分の思いを告げて口づけて……なのですが、
口づけた後暗転せず、わりと長い間舞台で展開するのがすごいです。
そういう意味でここまでに挙げた4作品とは趣が異なるラブシーンで、
ウェルテルの言葉もまっすぐすぎるくらいまっすぐで、
でも忘れられないシーンです。
ロッテの首筋、腕の内側から手首、掌と口づけで辿っていく凪様の色香といったら…。
世間知らずで恋愛経験もそんなになくて、まっすぐに愛することしかできず
「君のためなら僕は花盗人の誹りを受けてもかまわない」と情熱的に告げるウェルテルと
このシーンの色気のギャップがすごくて忘れられません。
一番最初に紹介した「アンナ・カレーニナ」でもアンナはゲーテを愛読しています。
またアレクセイと「ゲーテが愛した国イタリアへいこう」と愛の逃避行をするシーンがあったのも興味深いつながりです。
ショーにもラブシーンはある
芝居だけでなくショーにもそういうシーンはありますね。
ショーだと男役と娘役に限らず男役同士で踊っていてもラブシーンのような、
美しく特別な結びつきを感じることがあります。
たとえば「クルンテープ」のたまるり(珠城りょう・美弥るりか)のデュエットで最後に互いを刺し違えてしまうような。
ショーのベスト5も選んでみたいと思いつつ、今回芝居作品を見直して受容器官がぱつぱつになってしまったので
あらためて別の機会に書きたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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