観劇の感想

月組「ブエノスアイレスの風」観劇の感想(正塚先生が教えてくれたこと。暁千星がかっこいい)

こんばんは、ヴィスタリアです。

日本青年館で月組「ブエノスアイレスの風」を観劇しました。

ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に感想で、作品の内容に触れています。

「ブエノスアイレスの風」正塚先生が教えてくれたこと

正塚先生の新作が上演される機会は少なくなっているのかなと思いますが、ここ最近「追憶のバルセロナ」「バロンの末裔」が再演され、
そして今回「ブエノスアイレスの風」が3度目の上演となりました。

正塚先生が描く男(役)ってほんとうにかっこいいですよね。

そして正塚先生の作品はハッピーエンドと死に別れの悲劇以外の結末があることを、
男女が互いに好意あるいは好意めいたものを持っていてもそれが即ち恋愛になりその先に結婚があるわけではないことを教えてくれたように思います。

また恋愛にのみ重きを置かずともすばらしい宝塚歌劇の作品は実現可能だし楽しめるということも、正塚先生の作品が教えてくれました。

男同士の友情がかけがえのないものであるのもポイントです。

「ブエノスアイレスの風」は別箱でトップコンビが主演することがないからか、そうした正塚作品の魅力が堪能できる最高峰の作品ではないでしょうか。

同時に演じるのは難しいのではないかと思うこともあります。

特に1幕は交錯する登場人物たちが出会い、あるいは再会するなかで日常が静かに流れていって、主役のニコラスでさえサブタイトルにある通り「光と影の狭間」で静かに揺らぎ戸惑いながら佇んでおり、ドラマチックで激的な展開があるわけでもありません。

タンゴと名曲が彩る作品ですが歌唱があるのもニコラスフローラだけです。

その分台詞のある役は台詞から人物を鮮やかに浮き彫りにしないと成立しないと思いますし、
一方で仄暗いセット、照明の中でセリフもなくタンゴを踊る男女が紡ぎ立ち上らせるものの比重もたしかにあって、抑制の効いた表現が欠かせない面もあります。

月組生はそれに見事に応えこの作品世界を丹念に作り上げており、真ん中から端まで、台詞のある役から台詞のない役まで芝居がうまくて役が息づいているリアルさがあり、目がいくつあっても足りませんでした。

プログラムのスチールからして役に没入しているのがわかる!という生徒さんが何人もいます。

主演のありちゃん(暁千星)が初日のご挨拶で何度も「このカンパニーでよかった」とお話されていましたが、客席からも正塚先生のすばらしい作品を月組のこのメンバーで見られて本当によかったと感動しました。

第一次ヅカファン時代に見て、ヅカファンに復帰してから再演を見た月組の作品に「雨に唄えば」「ダル/レークの恋」、そして今回の「ブエノスアイレスの風」があります。

昔の記憶は美化されるものですが月組の再演はその美化さえも超える、ものすごく質の高い芝居を見せてくれるのだとあらためて思いました。

役ごとの感想

◆ニコラス・デ・ロサス/暁千星
初日の感想でもちらりと書きましたが、とにもかくにもありちゃん(暁千星)がかっっっこいい!

男くさくて、過去に囚われ孤独に苛まれながらこれからどう生きていけばいいのか、進むべき道を探しているニコラス/暁千星がかっこよすぎてどうにかなりそうでした(←落ち着け)。

研11で男(役)の中の男(役)であるニコラスに出会い、最高にかっこいいありちゃんが見られて、
この公演を最後に星組へ組替えするというのもすばらしいはなむけではないでしょうか。

お衣装も黒い革のジャケット、ストライプのスーツにハット、ロングコート、濃青のスーツ、開襟シャツ…どれもこれも長身に映えます。

椅子にどかっと座ったときやポケットに手を入れて佇む仕草も男くさい色気があって、骨太な感じがあって本当にかっこよかったです。

ダンス、タンゴのすばらしさは言わずもがな、歌も心情をのせた深みのある低い声がよく響き、芝居も巧いだけでなく口跡が一層鮮やかになったように思います。

正塚先生の作品は台詞が膨大ですがすべて聞き取れました(知っている作品だからということではなく)。

ニコラスはラブシーンもありませんし女性に触れるときは庇護者か保護者、タンゴのパートナーとしてのみ存在しています。

フィナーレでも他の男役さん、娘役さんが組んでいる中で一人で歌い踊り、娘役さんとの絡みもさらりとしたもので、こんなに硬派な役も珍しいでしょう。

その硬派さ、孤独さがかっこいいのも正塚作品の一つの魅力でしょうし、それをしっかりと魅せてくれたありちゃんでした。

◆イサベラ/天紫珠李
男役だったじゅりちゃん(天紫珠李)が娘役に転向したきかっけはとしさん(宇月颯)のミュージックパフォーマンス「MOON SKIP」でヤンさん(安寿ミラ)が振り付けたタンゴだったそうです。

そのヤンさん振付のタンゴの名場面「Dream Chaser」のミロンガ、「今夜、ロマンス劇場で」の雨霧、狭霧/礼華はるのタンゴ、そして今作とタンゴが続いていますね。

ありちゃんとのタンゴ、キレキレで素敵でした。

不運で、どこか幸せと縁遠く寂しげなところのあるイサベラはときに強く出ることがありますが、そうでもしないとやってこれなかったのでしょうし、
出会ったニコラス/暁千星が優しいのか壁があるのかわからないのが可哀想に思えました。

可哀想だと思いを寄せることができるということはヒロインとして魅力的だったことの証左でしょう。

◆リカルド/風間柚乃リリアナ/花妃舞音
タカラヅカニュースで後ろ髪を長めに伸ばしたおだちん(風間柚乃)のヘアスタイルが新鮮だったのですが、これが大正解でリカルドにぴったりでした。

着崩したスーツの腕まくりや紫という色のチョイスによくハマっていました。

そしてリカルドは登場した瞬間から立ち方、感情を殺したような表情、纏う空気から仕草から役が生きるようにぴたりと風間柚乃という男役に馴染んでいて
おだちんの巧さ、すごさに舌を巻きました。

ニコラスが光と影の狭間で彷徨っているとしたら、リカルドは影しか見えていなくて影にすがり、光から自らを遠ざけている悲哀もありました。

そのリカルドの妹リリアナまのんちゃん(花妃舞音)、「今夜、ロマンス劇場で」新人公演ヒロインに続いての大きな役ですが、しっかりと演じていて頼もしかったです。

拗ねたり妬いたりしているときの豊かな表情がなんと活き活きとかわいらしいことか。

リカルド/風間柚乃とのテンポのよいやり取りも自然で間がよくて、笑いを誘われました。

この兄妹は相棒のようにしてずっと2人で生きてきてあらゆることを乗り越えてきたのも伝わってきて、マルセーロ/彩海せらが勘違いするのも納得でした。

フィナーレで兄妹を演じた2人が組んで踊るのもよかったです。

◆ビセンテ/礼華はるエバ/羽音みか
この作品で一番怖くて、そして一番関わりたくないのがビセンテではないでしょうか。

淡々と演じるぱるくん(礼華はる)のその静けさと執拗さと、エバへの執着とも言える愛になんだかひっかかる人物として存在していました。

エバみかこちゃん(羽音みか)と並ぶと長身の美しいカップルで、フィナーレのタンゴも見応えがありました。

金髪のロングヘアのみかこちゃん、教師の清楚なお衣装でも等身が高くてスタイルがいいのがわかります。美しい!

◆マルセーロ/彩海せら
この公演が月組デビューとなったあみちゃん(彩海せら)、ようこそ月組へ!

芝居心のあるあみちゃん、きっと月組のお芝居と相性がいいのではと思っていたのですが、予想以上でした。

母親との間にすれ違いがある青年という意味で雪組「CITY HUNTER」を思い出しましたが、マルセーロはもっとどうしようもないチンピラ、酷いヤツです。

その酷さ、下衆さ、どうしようもなさがたまらなく巧かったです。

他の男役さんはスーツが多い中でチンピラのマルセーロは革ジャンにパンツだったのですが、ご挨拶のときの立つ姿勢がものすごく美しかったのも印象的でした。

◆ロレンソ/凛城きらバーテン/彩路ゆりか
正塚先生の作品には必ず味のある、笑いを取る役がいて愛さずにいられないのですが、この作品ではりんきらさん(凛城きら)のタンゴ酒場の経営者ロレンソとバーテンのみわくん(彩路ゆりか)です。

専科生として初めて月組出演となったりんきらさんの巧さは押してほしいツボをたまらなく押してほしい強さで刺激されるような絶妙さでしたし、ダブルのスーツに眼鏡がかっこいいのなんのって。

中年男性らしくゆったりめのスーツの着こなしなのですが、それがまたかっこよく、眼鏡もちょっと古めのデザインがこれしかないというほどお似合いでした。

バーテンみわくんはちょっと抜けたところのある憎めない青年の大らかさがとてもよくて、自然と笑わずにいられませんでした。
声が自然なのもよかったです。

◆フローラ/晴音アキ
スチールからして役に没頭している、成りきり具合がすごいと思ったお一人がはーちゃん(晴音アキ)です。

酸いも甘いも知っている愁い(そして疲労困憊具合も)がじんわりと滲んでいます。

この作品はフローラの歌で始まり、そしてフローラの歌で終わりますが、初演がすばらしい歌い手のシビさん(矢代鴻)でした。

この歌がまたよくて、ただ歌唱力があるというだけでは歌えないものですし作品が成立しない重要なものだと思うのですがはーちゃんの演じるフローラが、歌が、本当にすばらしかったです。

幕開きも涙腺が緩みましたが、フローラとどうしようもない息子マルセーロ/彩海せらのドラマを経た上で聞く終幕の歌には涙を流さずにいられませんでした。

ドレス姿も美しかったです。

◆武器商人/蓮つかさ署長/朝霧真
スチールからして役に没頭している、成りきり具合がすごいと思った筆頭がれんこんくん(蓮つかさ)武器商人です。

不吉で凶悪なニオイがする、裏の世界のヤバい男になりきっています。

「今夜、ロマンス劇場で」の狸吉の思い切った舞台化粧もお上手でしたが、すごいですねえ。

初日は下手からの観劇で武器商人のお顔はまったく見えなかったのですが(涙)、凄みのある声が余計に印象的でした。

2回目は上手からの観劇で美しいお顔の冷徹さ、修羅場をくぐり抜けてきたであろう悪者の表情もよく見えました。

また武器商人としての出番は2幕からで、1幕や他の場面では店の男としてタンゴを踊っているのですが、これがとてもかっこいいんです。

特にゆーゆ(結愛かれん)と組んで踊っているときの雰囲気が蕩けそうなほど甘やかでうっとり…ついつい目で追いがちでした。

ゆーゆはなぜリカルドに関わる女性3人のいずれかに配されなかったのか疑問でしたが、艶やかで美しいタンゴがたくさん見られたのはよかったです。

署長ギリくん(朝霧真)も署長としての出番は2幕からでやはり店の男としてタンゴを踊っているのですが、ものすごくかっこいい!

どんなふうに店の女たちに声をかけてエスコートしているのか気になって気になって、捌け際まで見がちでした。

署長は年上の権力のある男性の落ち着き具合があって、ダブルのスーツがこんなに似合う男役もいないとあらためて思いました。

◆メルセデス/夏月都
タンゴ酒場の情に厚い女性ですが、喋っているときはもとより他の役の話を聞いていたりガヤが巧いな…と感じさせてくれるのはさすがです。

そしてイサベラの母役のすごさといったら。

出番としては一瞬ですが、表情も仕草も震えるように脚をゆすっているのも、何もかもが「こういう人、いるのわかる」というリアルさで天晴でした。

日本青年館を出ると5月の爽やかな風が吹き抜けていて、主題歌と重ねながら帰路につきました。

このすばらしい舞台をがどうか千秋楽まで無事に公演ができますように。

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