こんばんは、ヴィスタリアです。
先日予告しました2020年の観劇を振り返ってヅカバナのヅカデミー賞を書きました。
いずれも独断と偏見と偏愛に満ちたもので、受賞理由のなかで一部作品の内容に触れています。
目次
2020年の宝塚歌劇を振り返るヅカデミー賞
エントリー作品はこちらです↓
・星 龍の宮物語
・宙 El Japon/アクアヴィーテ
・花 DANCE OLYMPIA
・花 マスカレード・ホテル
・雪 ONCE UPON A TIME IN AMERICA
・月 出島小宇宙戦争
・花 はいからさんが通る
・星 眩耀の谷/Ray
・宙 FLYING SAPA
・宙 壮麗帝
・雪 炎のボレロ/Music Revoluiton!-New Sprit-
・雪 真彩希帆 La Voile
・雪 NOW!ZOOM ME!!
・雪 彩凪翔 Sho-W
・雪 パッション・ダムール
・月 WELCOME TO TAKARAZUKA/ピガール狂騒曲
・星 エル・アルコン/Ray
・星 シラノ・ド・ベルジュラック
いざ選ぼうと振り返ってみると「あれもよかった」「この作品も好きだった」
「あの役の○○さんは最高だった」という
幸せな観劇の思い出が蘇り、選ぶのが非常に難しかったです。
ヅカファンとしてうれしい悩みにうんうん唸りながら選びました。
それではまいります!
作品賞(芝居)新人か大御所か
指田珠子先生のバウホールデビュー作星組「龍の宮物語」だけが劇場でもライブ配信でもなく後日映像で観劇しました。
本来であればエントリーから除外すべきかもしれませんが、あまりにもすばらしい作品で外しがたく…と考えたときには
作品賞の行方は決まっていた気がします。
ディレイの録画映像でも深く物語世界へと誘われ、戻ることができないくらいどっぷりと浸りました。
途中からほとんど泣いていました。
見たときにちょうど雨がしっとりと降り続いていて、その雨に閉じ込められたような、
雨の持つイメージさえ変わるような観劇(映像ですが)体験となりました。
「悲しい」「切ない」「寂しい」という一言で表現することのできない感情を
ストーリーで丁寧に描き美しい舞台で見せてくれました。
この作品に関してはこちらで暑苦しいくらい語っています↓
いま見直したらもっと書けることもあると思うのですが
エネルギーを消耗する作品なのでちょっと再生ボタンを押せません。
次点は小池修一郎先生の「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」です。
原作の映画が大好きなのですが、ときに暴力的な描写のある、長大で謎が残されたままのこの作品を
よく整理しロマンチックでドラマチックな宝塚歌劇のミュージカルに昇華させたことが理由です。
小池先生の整理の仕方を見て初めて理解できたこともありました。
ロマンチックさはたとえば王冠と赤い薔薇のモチーフに見ることができます。
とりわけ1幕終わりのヌードルス/望海風斗が真っ赤な薔薇を散らすシーンは宝塚歌劇史上に残る名場面でしょう。
(原作では大変に残酷なシーンなので尚のことです。)
幼少期~青年~中年と1人の人物の長い時間を見事に演じただいきほ(望海風斗・真彩希帆)、
さきちゃん(彩風咲奈)はじめ雪組生の充実も
この作品の舞台化が実現した大きな理由だと思います。
同じ映画作品の舞台化でも「オーシャンズ11」のように再演を重ね、あるいは待望される作品とは違うかもしれませんが
小池先生の長年の待望が実現したことを祝したい気持ちもあります。
小池先生が「ポーの一族」上演を20年以上あたためておられたのは有名な話ですが
マフィアもの映画の最高傑作の上演も同じくらい考えておられたのではと思っています。
作品賞(ショー)劇団史上に残る傑作
ショーは迷うことなく月組「WELCOME TO TAKARAZUKA-雪と月と花と-」です。
2020年どころか劇団史上に残る和物ショーの最高傑作の1つだと思っています。
監修の坂東玉三郎様が具体的にどのように関わってくださったのかは明かされていませんが
大きなお力添えであることはこれ以上ないほど美しい場面たちを見ればわかります。
この公演でご卒業されるミエコ先生(松本悠里)の哀しくも美しい雪の巻、
月組生が舞台の端から端までを使ってダイナミックに見せる幽玄な月の巻、
女性が男役になる瞬間を鏡を使って表現した花の巻。
オーケストラの洋楽で日本舞踊を踊るのが宝塚歌劇ですが選曲が
・ヴィヴァルディ「四季」
・ベートーヴェン「月光」
・チャイコフスキー「花のワルツ」
という超王道クラシックなのも秀逸です。
特に「花のワルツ」はもとはバレエ音楽なのですから。
この世の極楽のようなプロローグとフィナーレ、れいこちゃん(月城かなと)の疫病退散の祈りを込めた「越天楽」も心が洗われるようでした。
2階席を中心にリピートしましたが何度観ても飽きることなく感動しましたし
多くの方に観ていただきたい名作です。
次点は岡田敬二先生の雪組「パッション・ダムール」です。
ロマンチック・レビューの名場面の数々を堪能し、
王道はどんなに初演から時間がたっても古びれることなく鮮やかな魅力で魅了してくれると客席で実感しました。
「Bad Power」「Paradiso」はあまりにもかっこよくて美学があって、何度見てもまた見たくなるものでした。
新作主義の劇団ですが継いでいくべき名作の再演はこれからもあってほしいですし
かつてファンだった生徒さんが憧れの作品、場面をやるのを見るのもうれしいものです。
2021年には「ル・ポァゾン」が雪組全国ツアーで再演されることが発表になり狂喜していますが
「絶対出たい!」と思っている生徒さんもいらっしゃることでしょう。
また受賞には至りませんでしたが藤井先生の宙組「アクアヴィーテ!!」も品とまとまりがあって
印象に残りました。
特にプロローグ(振付:羽山先生)、白に正装にケーンの中詰は新作の興奮と宝塚歌劇のノスタルジックな伝統を楽しむことができました。
上級生を中心に退団者が多かったですがはなむけの場面がきちんとあり、ショーとしても楽しかったのも好印象でした。
主演男役賞は2年連続
2年連続なのですが、やはりのぞ様に贈りたいと思います。
「ONCE UPON A TIME IN AMERICA」のヌードルスが
男役のみならず舞台人としてすばらしかったのがその理由です。
1人の男の半生をたどり、しかもそれがただかっこいいだけでないという難しい作品であり難しい役だと思うのですが
のぞ様をおいて他に誰もできないと思わせてくれる舞台でした。
青年期のマフィアとしてうんとお洒落なスーツに革手袋、ハットをかぶって
マシンガンを撃ち放つプロローグはかっこよすぎてどうしようかと思いまいた。
1幕最後の真っ赤な薔薇のシーンもです。
そういった男役として絵になる青年期のヌードルスがかっこいいだけでなく
少年時代も壮年になってからも巧すぎてなんと言葉にすればいいのかわかりません。
幼いヌードルスは貧しくてデボラ/真彩希帆に恋心も執着(とはまだ自覚していないかもしれませんが)何も隠すこともできません。
バレエのレッスン着のデボラに王冠をかぶせようとして耐え切れずに口づけてしまうのも
美しい宝塚でありながらそれだけでないのも表現されていたと感じました。
この隠せていないのがちゃんとわかる繊細な表現に唸りました。
また逃亡と人生に疲れきって多くのものを失った壮年時代も
隠遁先でどのような生活を送っているのかも声に、佇まいに、滲ませて伝えてくれました。
男役のかっこよさは青年時代にあるのかもしれませんが年を重ねて多くのものを失ってからの
ヌードルスにも惹かれるものが大いにありました。
ご自身の退団を発表された後の東京公演が中止を余儀なくされ
なんとか迎えた大千秋楽のカーテンコールで見せた笑顔と涙も忘れられません。
主演として背負っているものの大きさの計り知れなさを知ったような気がしました。
また特に印象に残ったのは宙組「壮麗帝」のスレイマン/桜木みなとです。
加速度的な進化と増していく存在感がスパークしていたと思います。
「アナスタシア」では新境地をひらいて大活躍しているようなのでとても楽しみにしています。
また雪組「炎のボレロ」のアルベルト・カザルス/彩風咲奈も強く印象に残りました。
何気ないシーンで「ああ…うん」と答える一言があって、そのたった一言がものすごくかっこよくて
理屈も言葉もいらないスターのオーラと存在感を感じさせてくれました。
主演娘役賞 新しい娘役のあり方
最終候補のお2人は
「はいからさんが通る」の花村紅緒/華優希、
「龍の宮物語」の玉姫/有沙瞳
で悩みましたが、みほちゃん(有沙瞳)を選びました。
ヴィスタリアはみほちゃんが大好きなので贔屓目と思われるかもしれませんが
贔屓の引き倒しでないことは、この作品をご覧になった方ならわかっていただけると信じています。
この作品に、この役に出会うために今ここにいるのではーーと運命的なものを感じるくらい
みほちゃんは玉姫という役にはまっていました。
目も声も表情も玉姫が憑依しているのではと思うほどです。
温度と柔らかさを消した冷たい声、
人外感を出すためのカラーコンタクトに跳ね上げたアイライン、そして効かせた目の強さ。
人と人ならざるものの間を行き来し
これ以上ない悲しみと深い愛を見せてくれました。
……こうして書いて思い出しているとまた泣いてしまいそうです。
またストーリーが玉姫を中心に動いており、宝塚歌劇の新しい娘役の形、存在感を発揮されたことも
すばらしかったと思います。
外部で上演されても違和感のないフラットさのある完成度の高い作品で
宝塚の娘役の美しさ、気品を失うことなく新しい娘役の可能性を見せてくれました。
最後まで悩みましたが
原作の漫画から出てきたように紅緒さんを生きていたはなちゃん(華優希)も大好きでした。
「はいからさんが通る」は2020年の最多観劇でしたが
紅緒さんは毎回同じということも、そして見ていて飽きることもなかったです。
特に笑いをとるようなシーンはパターン化しそうなのにダルさや弛みもなかったのは役を生きていたからだと思います。
また「シラノ・ド・ベルジュラック」のロクサアヌ/小桜ほのかも
芝居心があって強く印象に残りました。
助演男役賞 役得を役得たらしめるもの
現在公演中でアツいということもあるのですが
月組「ピガール狂騒曲」のシャルル・ジドレーヌ/月城かなとがとてもよかったです。
この作品自体がシャルルの物語と言えるくらいですが、
生い立ちと思い出、ムーラン・ルージュの支配人としてのプロ意識、
夢追人が抱く憧れやときにハチャメチャな彼自身とあまりにも人間味がある人物をとても魅力的に見せてくれました。
れいこちゃん(月城かなと)が端正な美貌のスターさんで
芝居・歌・ダンスとしっかりとした実力の持ち主であることは知っていました。
しかしそういったプロフィールに書かれるようなことだけでなく
男役として一層魅力的に開花したターニングポイントになる役がこのシャルルではないでしょうか。
圧巻のロングトーンに毎回のアドリブも自由自在に楽しんでおられるようで
「エリザベート」ルキーニ役のアドリブでは真面目さゆえの硬さを感じなくもなったのが遠い昔のようです。
またシャルルがジャック/珠城りょうの正体を知ったときの選択が自然と納得できるものに映るよう
限られた場面のなかで緻密に表現をしていることも見逃せません。
おいしい役をおいしくするのは生徒さんの芸なのだと思いました。
また「龍の宮物語」の山彦と「エル・アルコン」のエドウィン・グレイムの
ぴーすけ(天華えま)も忘れがたいです。
「エル・アルコン」のエドウィンは生徒さんが化ける瞬間に立ち会ったと思いました(ライブ配信ですが)。
ティリアン/礼真琴との生い立ちの対比、酔っ払い具合、
そして物語が動いてからは復讐を誓い軍人として立ち上がるという見事な物語を見せてくれました。
歌唱が各段に進化したのも強く印象に残りました。
助演娘役賞 劇団史上に残る怪演
助演娘役賞はすぐに満場一致で決まりました。
花組「マスカレード・ホテル」の音くり寿です。
劇場中の空気ががらりと変わるような存在感と演技で、劇団史上に残る怪演だったと思います。
ホテルの客としてチェックアウトする際にヒロインの山岸尚美/朝月希和に
「心の底からお詫びするわ」と言うのですが
こめられた感情の深さ、恐ろしさに背筋がゾワゾワしたのを覚えています。
この何気ない一言がちゃんと引っかかるのは巧みに潜ませた悪意がごくわずかに立ち上るからで
その匙加減が絶妙でした。
ある事情で変装をしているのですが、変装を解いていくときの声の変化、隠していた感情を剥き出しにする変貌ぶりにも背筋が凍りつきました。
歌もセリフもものすごい迫力で劇場中の空気の色が変わったのをはっきりと覚えています。
一方でフィナーレのデュエットダンスのカゲソロはすばらしい美声でうっとり…「はいからさんが通る」のエトワールもまた然りです。
演技、歌、宝塚の娘役さんらしいかわいらしさと美しさを兼ね備えた得がたい娘役スターだと思います。
ラズベリー賞(演出家)
ヴィスタリアは齋藤先生がイエローカード3枚なので厳しい見方になってしまうのですが(お好きな方には申し訳ないのですが)
今年も受賞の候補になってしまいました。
「NOW!ZOOM ME!!」コントにおいて人種で笑いを取るようなセリフは看過できなかったからなのですが、
東京公演では修正されていたので2年連続の受賞には至りませんでした。
しかし指摘されるまで問題ないと思える人権意識の鈍さはよくよく考えてほしいと
願わずにいられません。
今年の受賞は月組「ピガール狂騒曲」の原田先生です。
なぜこの作品が「十二夜」なのかという疑問は観劇の感想で書きました。
本来の公演スケジュールであれば東京オリンピックの時期の上演でしたから
広く知られているシェイクスピアの喜劇に歌劇の流れをくむムーラン・ルージュを組み合わせて
初めて宝塚歌劇を観る外国からの観光客にも受け入れやすいものをーーという意図があったのかもしれません。
しかしそれは別として、観劇回数を重ねるうちに言葉の選び方の粗さがひっかかりました。
ムーラン・ルージュの踊り子たちをミューズとするロートレックが「女」と言ったり
貴族のヴィクトールが「別嬪」と言ったり、
本当にそんな言葉を発するかしら?と首を捻る言葉がいくつかあるのです。
(終幕でマルセルたちがヴィクトールの体を平気で触り、またヴィクトールが触られるのに任せているのもひっかかります。)
終幕のジャック(ジャンヌ)が言い放つ「それでいいのさ!」に周囲がぎょっとして
「それでいいのよ!」と慌てて言い直すセリフも
果たして必要だったのか疑問を感じます。
ガブリエルに「どちらでもいいじゃない」と言わせるわりに
女性とはかくあるべしという固定概念を連想させ矛盾しているようにも思います。
原田先生の視線に女性ひいては娘役を軽んじているのでは?という疑惑を拭うことができませんでした。
トップ娘役が演じるガブリエルでさえ書込みが物足りなく、他の娘役も出番が少なかったり踊り子のうちの1人として描かれていたからです。
そんな脚本、セリフに疑問を感じながらも作品が楽しめたのは
役を深く掘り下げ緻密に芝居を作り上げている月組生と
松井るみ先生の装置、玉麻尚一先生の音楽による力あってこそだと思っています。
座付き演出家として生徒さんに頼るのではなく生徒さんの魅力を引き出す作品づくりを考えてほしいです。
最後に。
ショー作品だとどうしても芝居作品、役の持つ力に押されて主演賞を贈るのが難しいので
無観客ライブ配信ですばらしいライブを見せてくれた
きぃちゃん(真彩希帆)と凪様(彩凪翔)に特別賞を贈ります。
いろいろなことがあった2020年でした。
2021年はどんな宝塚歌劇と出会いどのように心を動かされるのか楽しみにしています。
読んでいただきありがとうございました。
応援していただたらうれしいです。
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