こんばんは、ヴィスタリアです。
荻田浩一氏のTabloid Revue「rumor~オルレアンの噂~」を観ました。
ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想で、内容に触れている上に盛大にネタバレしています。
ダイジェスト版DVDも発売になるようなので知りたくない方はご注意ください。
荻田ワールド全開のレビュー 小劇場の贅沢を味わう「rumor〜オルレアンの噂〜」
荻田浩一氏のTabloid Revue「rumor~オルレアンの噂~」を観ました。
荻田ワールドにハマりハイレベルな歌とダンスに心をわしづかみにされ、リピートしてしまいました。
完全に予算オーバーなのですがどーーーしても見たい衝動を抑えられませんでした。
どこか淫靡で猥雑でありながら品と香気があふれるレビューで、歌もダンスもすばらしかった!
オリジナルの音楽もいいし懐かしい曲もちりばめられたセットリストも楽しかったです。
劇場の音響がそれほどいいものではなかったように聞こえて、出演者の方の歌がすばらしいだけにもしもこれがホールの音響だったら…とちらりと思う一方、
赤坂見附の雑然と賑やかな通りを歩いて地下に潜って観るのにふさわしい演目でした。
また試着室のセットが秀逸でした。
どんな雰囲気の舞台なのかメディアにお写真が出ているのでリンクを貼っておきますね。
ステージナタリーさん↓
演劇キックさん↓
下手よりに深紅のカーテンのかかった半円形の試着室があり、内側には白地の薄手のカーテンがかかっています。
このカーテンの開け方、閉め方が一つの表現になっている上に、キャストの入替りなどが大変スムースで違和感がないのです。
内側から閉めるのか、誰かが試着室にいるのに外側から深紅の分厚いカーテンで覆ってしまうのか。
小劇場でセットの転換もほとんど無い中、試着室が見事な仕掛けになっていました。
ところでタブロイドレビューとはなにか、プログラムに荻田先生の言葉がありましたので一部ご紹介させてください。
レビューとは(中略)夢と現実の狭間の存在や世界を、様式であったり風情であったりで魅せていく……と、そんなものかな、と。
「Tabloid Revue」という言葉はまったくの造語でして。
大劇場や大人数で行われるレビューに対して、小劇場で少人数によるコッテリとしてひねくれたレビューを……作りたいと思い、
ゴシップや奇抜な報道で知られる大衆紙がタブロイドと呼ばれる小さ目の判型を使用しているところから、名乗ってみたわけです。
(中略)
少し猥雑でトリッキー、そして優美で洒落た「なんでもあり」のレビューの楽しさを味わってくだされば幸いです。
まさにちょっと「ひねくれた」「なんでもあり」のレビューのお楽しみが凝縮されていました。
宇月颯さん、彩乃かなみさん、月影瞳さん 印象にのこったこと
プログラムのざっくりとしたセットリストを元に、印象に残ったことを書いてみます。
そもそも「オルレアンの噂」(Wikipedia)という都市伝説があることを今回初めて知りました。
1969年、フランスのオルレアンのブティック。
みほこさん(彩乃かなみ)の経営する店で試着をしていた客のとしさん(宇月颯)が姿を消してしまうーーというところから始まります。
試着室から忽然と消えた客は誘拐されマルセイユあたりで船に乗せられ奴隷として売られるという噂が囁かれていました。
ここからつながりがあるような無いような、様々なレビューの場面が展開していきます。
タンゴ、ジャズ、タップに昭和歌謡にコメディ、なんでもござれ。
この脈絡がありそうでなさそうで、でも無条件に楽しめて一瞬たとりも醒めないのがこのレビューのすごいところです。
5人のメインキャストと2人のゲストの実力、魅せる力があってこそでしょう。
みほこさんは上品でふんわりと色気の滲んだ女主人の歌声から、
妖しげな奴隷、ドスの効いた歌声まで変幻自在に歌いこなしていました。
みほこさんの色気の濃淡、振れ幅がすごかったです。
奴隷のときの、男性たちのストールが首輪となり手錠となり足鎖となるところ、ちょっといけないものを見ているような気さえしました。
みほこさんの歌う多くの曲のなかで特に、原語と日本語で歌うコーヒールンバの哀切さが沁みました。
としさんの歌もすごくよくて、現役時代とは違ういまのキーで澄んだ歌声を聞かせてくれました。
特にとしさんの歌う2曲目のソロが美しいメロディで大好きでした。
しかもショーシーンのなかでとしさんのご卒業の公演「BADDY」のデュエットダンスの曲「罪」を歌われたのです。
イントロで気づいて泣きそうになってしまいました。
またこの歌のときだけ衣裳が違っていて、エレガントな美しい衣裳で特別なものを感じました。
公演CDを聞くとハードなショーの最後の方だからかブレスが度々入っているのが聞こえるのですが、
今回はブレスが一切聞こえない歌い方に進化されていました。
そしてここの振付が大変よかったです。
切なさと冷たさを滲ませて歌うとしさんに中川賢さんが何度も触れようと手を伸ばすのに、どうしても触れることができない…。
触れようとするとはっとして手を引かざるを得ないのです。
としさんの纏っている空気、雰囲気に冷たい星が爆発をしているようだと感じました。
またコミカルな要素のある場面では乗馬鞭を持っていたのですが、これがもうね、すごく似合うんです。
としさんに乗馬鞭を持たせることを思いついた方は天才ですよ。
さらに超美しい透明感のあるソプラノを聞かせてくれるセーラー服と機関銃の歌唱もすばらしかったです。
(そしてここでもいろいろな物を持っておられるのですが、思いついた方は天才です。似合いすぎます。)
としさんは歌だけでなくダンスもキレキレ、踊りまくりでした。
ゲストの三井聡さんとタンゴのデュエットをしたり、アクロバティックなリフトがあったり…あのときレギンスに包まれたとしさんの脚は一体どう動いていたんでしょう。
目にも止まらぬ技でした。
この日のもう1人のゲストはぐんちゃん(月影瞳)でした。
みほこさんが女王だとするならぐんちゃんは女帝でした。
(もちろんいい意味で)
ゴージャスなドレスにうーーーんと高く結い上げた夜会巻きがすごいインパクトでした。
お写真だと伝わらないのが残念です。
この登場で歌われた妖艶で婀娜っぽくて、そしてキュートなナンバーに撃ち抜かれました。
(たぶん有名な曲だと思うのでご紹介したいのですが曲名がわからなくて検索しても見つけられません。)
ショーシーンでは振付もされている大野幸人さんのダンスソロが圧巻でした。
バレエダンサーのそれで大興奮しました。
ソロのみならず大野さんが踊っていると背中、腕の使い方がすごくてついつい目で追っていることが多かったです。
2回目の観劇のときは大野さんのソロのところで「きたきたきた!」とテンション上がりました。
都市伝説「オルレアンの噂」を生んだものは
ショー的なシーンが終わると、再び冒頭の1969年のオルレアンのブティックに戻ります。
全編通して歌にダンスに大活躍の石川新太さんがこの場面ではギターなど楽器演奏をされて多才ぶりを発揮しています。
ストーリーテラーあるいは支配者のような存在で中川賢さんが踊るのですが、この場面の振付もされています。
みほこさんの経営する店に客のとしさんが恋人の大野幸人さんと試着に訪れます。
何度かカップルで訪れるうちに恋人と女店主の間に特別なものが生まれ、としさんが試着室に入って内側から白い薄手のカーテンを閉めて上着を羽織っていると、
恋人が外から深紅のカーテンを閉めて遮断するーーこれには背筋がぞわりとしました。
恋人の心変わりを知って表情を無くしたとしさんに蛇のようにまとわりつく中川賢さんの振付が非常によかったです。
囁かれ広まっていくオルレアンの噂、それは本当なのか、真実なのか。
表情を失くしたとしさんが放つこの舞台唯一の肉声「だってあの店の経営者はユダヤ人なんだもの」によって時は1969年から1920〜30年代に一気に遡り、
粋に歌われていた軽やかな主題歌がまるで別の意味を持つのです。
全部が嘘なんだろう……
どうせ真実なんか興味ないんだろう……
噂が囁かれ広まる背景になにがあるのかを突きつけられました。
噂と人種が結びついたときに起きた悲劇が胸に浮かび、1969年のことが、1920〜30年代のことが、分断と格差が進む2020年を生きる自分に強く迫ってきたのです。
リラックスして見られる質の高いレビューであり、最後にスパイスのように効かされたメッセージに完全にノックアウトされました。
すばらしい作品でした。
これからもこういう作品を自由に楽しめる世界であることを祈ります。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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