観劇の感想

「BADDY」旋風 語り尽くせないから中毒になる

先日「カンパニー」の観劇と映像を見た感想を書きましたので、今回は賛否両論を巻き起こした「BADDY」について書きます。
「BADDY」を劇場で観たときの衝撃といったらなかったです。
目の前ですごいことが起きている、これは一体なんなんだ、と思いながら夢中になり、ヴィスタリアが10数年を経てヅカファンに復帰するきっかけになりました。
 
ヴィスタリアの独断と偏見、偏愛に満ちた感想はこちらです。
1.型やぶりではなく、型にのっとって新しい風を吹きいれ、旋風を巻き起こした
2.バッディの設定と主要人物との関係性は型やぶりで、魅力的
3.「BADDY」を見て思い出したショーの佳作「ラ・ノーバ!」
4.語り尽くせないから、中毒になる。解明できないから、惹かれてやまない。
 
 
「BADDY」を”型やぶりなショー”と形容するのはふさわしくないとヴィスタリアは思ってます。
トップスターが銀橋に寝そべったり男性の恋人がいたり、パレードでサングラスをかけて大階段を下りてくるなど、キャストの設定は型やぶりですが、「BADDY」は宝塚のショーの決まり事、様式という型は守っているからです。
(開演アナウンスが開演から暫くしてから流れるのは型やぶりですが)
プロローグ、中詰、ラインダンス、フィナーレの男役総踊りにトップコンビのデュエットダンス、パレード、といった型のなかで「でもこういう見せ方だってできますよね」という最大限のひねりを効かせたショーなのではないでしょうか。
 
この上田久美子先生のひねり方、斬新な手腕は、見る側をこの作品をどう評するか迷わせ、物議をかもし賛否両論を呼び、「ぐるぐるぐちゃぐちゃ」のなかへ突き落しました。
これをBADDY旋風とヴィスタリアは勝手に呼んでいるのですが、宝塚のショーに型があるからこそこういったひねり、アレンジは効果というよりもはや威力を発揮できたのだと思います。
 
 

2.バッディの設定と主要人物との関係性は型やぶりで、魅力的

《バッディ》
トップスターらしからぬ役です。
大悪党=ダークヒーローと考えれば、2番手や別格スターがやる黒い役ではなくトップスターがやる正統派と言えるかもしれませんが、キャラクターの設定はトップスターの役としては型破りと言えるでしょう。
 
男の恋人(スイートハート)がいる、銀橋で寝そべる、歯牙にもかけない女たちを侍らせて時として雑に扱う、レインドロップ型のサングラスをかける、ものすごい変顔をしてみせる。
バッディのそういったキャラクターはもちろんですが、一番型やぶりなのはトップ娘役と関係、そして2番手との関係だと思います。
そしてその関係性がとても魅力的だとヴィスタリアは思うのです。
 
《バッディとグッディ》
バッディはトップ娘役のグッディを口説いていますが、たぶん最初は社交辞令的なものだったんじゃないでしょうか。
それがいつしか、グッディが自分に惹かれていると思っていたのに無視をされたことで本気になり、復讐を決意します。
 
バッディとグッディのデュエットダンスがきらきらしい、夢々しい愛を描いておらず、正義と悪というパワーのぶつかりあいなのは、「BADDY」が型の様式美を守りながらもたらしたもっとも新しいことだとヴィスタリアは思うのです。
なぜなら娘役がトップスターと惹かれ合いながらも対立することで、娘役が男役に寄り添う以外の方法で男役を魅力的に見せ、また娘役自身が輝く方法があることを明示したからです。
ちゃぴちゃん(愛希れいか)の存在感と力量があってこその、上田久美子先生の当て書きと新しいアイデアに喝采を送りたいです。
 
《バッディとスイートハート》
男役コンビは過去にも、ヤンミキ(安寿ミラ・真矢ミキ)、タモマミ(愛華みれ・真琴つばさ)、マミリカ(真琴つばさ・紫吹淳)、オサアサ(春野寿美礼・瀬奈じゅん)がいました。
しかしたまるりの、バッディとスイートハートの関係にはびっくりしました。
 
ヴィスタリアが一番知っている男役コンビはヤンミキで、ヤンさんはショーでトップ娘役のみはるちゃん(森奈みはる)よりもミキちゃんと組んでいるのではと思う場面もありましたし、ヤンミキのどちらが女装をしていることもありました。
そういった男役の女装とスイートハートは異なり、スイートハートは男性としてバッディの恋人という位置を占めていることが窺えます。
スイートハートという役名もすごいですし、バッディは「俺のスイートハート」と所有を宣言しますしキスもしてみせます。
 
そしてスイートハートを男性と書きましたが、見ているうちにスイートハートのジェンダーがよくわからなくなるというか、性別のラインを超えているとヴィスタリアは思いました。
ジゴロをして銃を振り回すのは男のようだし、ものすごく美しい女装は女性よりも女性のようだし、みやちゃん(美弥るりか)の魅力とあいまって性別を超えた「スイートハート」という存在になっていると思うのです。
 
バッディという宇宙一の大悪党でいい男にこういう恋人がいることで、バッディのワイルドで破天荒な魅力がより際立つとヴィスタリアは重追いました。
だってどう考えても、スイートハートは一筋縄ではいかない、ちょっとしたことでは恋に落ちたりなびいたりしない色恋沙汰の達人のような気配があって、その人がバッディに夢中なわけですから。
 
《グッディとスイートハート》
グッディとスイートハート2人が直接絡むことは少なく、バッディをめぐってスイートハートが嫉妬し牽制します。
またグッディに想いを寄せるポッキー巡査を讃えて看取る際もスイートハートはグッディを制しています。
 
トップスター・娘役トップ・2番手の3人は、娘役をめぐってトップスターと2番手
対立したり、トップ同士が組んで2番手は見守るといった設定が多く、トップスターを巡っての対立はとても珍しいです。
そしてこのグッディとスイートハートの対立によって、バッディの男としての魅力がより際立っているのではないでしょうか。
そこにはグッディとスイートハートがそれぞれが強烈な魅力を持っていることが欠かせないのは言うまでもありません。
 
 

3.「BADDY」を見て思い出したショーの佳作「ラ・ノーバ!」

「BADDY」は新しい風を吹き入れていますが、少し似ているショーをヴィスタリアは思い出しました。
「ラ・ノーバ!」(93年花組/安寿ミラ・森奈みはる)です。
 
「メランコリック・ジゴロ」初演の併演のショーで、人気の高い公演であることは100周年のときDVDが発売されたことで証明されているかと思います。
ヴィスタリアはこのショーが好きでビデオが擦り切れるまで見たのですが、ビデオデッキが壊れており最近は見られていないため、Wikipediaから引用しながら書き進めてまいります。
「ラ・ノーバ!」について語ると止まらないので、「BADDY」と似ていると感じたところのみを厳選して書きます。
 
「ラ・ノーバ!」は宇宙海賊レオン(安寿ミラ)がノーバという不思議な惑星の王冠を盗み、王女フィアナ(森奈みはる)とその恋人アルコン(真矢みき)がレオンを追うというストーリー仕立てのショーです。
 
3人の案内人が狂言回しのように、ショーの世界を説明したり銀橋・幕前で歌います。
(ヴィスタリアの記憶が定かであれば、衣裳や振付などに鳥の要素があったように思います。記憶違いかもしれません。)
 
「ラ・ノーバ!」は「BADDY」ほどストーリーが明確に打ち出されている印象はないのですが、レオン・フィアナ・アルコンの三角関係が激突する場面があります。
「リベル・タンゴ」の曲にのり、レオンとアルコンが争うなか、大魔王(磯野千尋)に唆されたフィアナがナイフを持って踊ります。
 
女神(華陽子)の力でナイフに倒れた者が蘇り、平和が取り戻され皆で歌い踊ります。
(「BADDY」はみな天国にいくという形で平和が獲得されますが。)
 
おそらく上田久美子先生は「ラ・ノーバ!」を、いえ、膨大な過去の宝塚の作品を見ているのでしょうし、ヴィスタリアが知らないだけでほかにも「BADDY」に見ている作品はあるのでしょう。
「ラ・ノーバ!」だって過去のなにかに似ている面があるはずです。
 
とはいえ「BADDY」を好きだと思われた方はスカステなどで放送があった際は「ラ・ノーバ!」を見ることをお勧めしたいです。
途中のヤンみはるのデュエットの淫靡さがすごいです。
振付られた羽山先生を拝みたいくらいです。
そしてカリブの男役の総踊りは、その後「CONGA」(2012年花組)でヤンさんがANJUとして振り付けています。
 
 

4.語りきれないから、中毒になる。解明できないから、惹かれてやまない。

長々と書いてまいりましたが、「BADDY」の魅力を漏らすことなく書くのは難しいと痛感しています。
上田先生がプログラムで「ようわからん」と仰せでしたが、どれだけ言葉を尽くしても説明しきれない、この解明されない謎こそが「BADDY」の世界の深さの証明であるように思います。
魅力の正体が謎のまま、解明しきれないから惹かれてやまないのでしょう。
 
説明はしきれない予感はいたしますが、次回それぞれのキャラクターや場面について書くことでできる限り補完したいと思います。
 
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