映像の感想

礼真琴くん「アルジェの男」を息づかせる3人の娘役たち【映像の感想】

こんばんは、ヴィスタリアです。

観劇は叶わなかったのですがスカイステージで星組全国ツアー「アルジェの男」を視聴しました。

例によってヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想です。

何度となく再演されている作品ということもあり作品の内容に触れている部分があります。

キャストごとに感想を書きましたが、柴田作品は娘役の比重が大きいのが一つの特徴だと思うのですが、
サビーヌ/音波みのり、アナ・ベル/小桜ほのか、エリザベート/桜庭舞という3人の女性の配役がはまっていて演技のレベルが高いことにこの公演の見ごたえがあると思いました。

ジュリアン・クレール/礼真琴

名前からしてジュリアン・ソレルーースタンダールの「赤と黒」がモチーフになっているのでしょう。

どちらが先の舞台化だったのかを調べてみたら「アルジェの男」が1974年初演、翌年に「赤と黒」が初演されています。

ストーリーにもそれは見てとれますし、特に高慢な令嬢エリザベートを手に入れようとするエピソードは「赤と黒」を下敷きにしているのがよくわかります。

スタンダール「赤と黒」のジュリアンは恋愛慣れしていない青年として登場しますが、こちらのジュリアンは女のなにもかもを知っていて女性を道具のように扱える冷たささえ持っています。

ことちゃん(礼真琴)、なんて悪くて冷たい目で女たちを見るんでしょう。

冒頭のサビーヌ/音波みのりを口説くときから言葉は甘いのに眼は鋭く遠くを見やり、
エリザベート/桜庭舞と踊りながら「もし私が今誇らしげに見えるとしたら、指先に感じるもののせいでしょう」と囁く目は冷ややかで、
アナ・ベル/小桜ほのかに情熱的に迫りながらも冷え冷えとしています。

そしてこの冷やかな目元のなんと色気のあることか

やはり映像でしか知らないのですが「スカーレット・ピンパーネル」のショー・ブランを演じたときよりも人物の裏側、腹の内、男性の色気の表現がずっと深くなり自由自在に演じていると思いました。

ジュリアン/礼真琴は言葉と目が乖離しているように、発している言葉と込めた思いの乖離の表現が巧くて、
「おやすみなさい、アナ・ベル」と名前で呼びかける優しさに滲ませた色悪さ、
「やあアンドレ」と何気なく声をかけている裏に込めた勝ち誇った侮蔑が見事です。

そりゃあアンドレ/極美慎が耐えかねて暴走するのも無理はないというものです。

歌は幕開きの低音を効かせた「泥にまみれた…」という歌いだしからすばらしく踊りも見事で、
ことちゃんがなんでもできるスーパースターであることをあらためて感じました。

サビーヌ/音波みのり

配役発表ではるこさんがヒロインに決まったとき本当にうれしかったのを覚えています。

はるこさんことちゃんより上級生ですが、母親役(「ロックオペラモーツァルト」)から女役(「ベルリン、わが愛」「ANOTHER WORLD」)までできるのはもちろんのこと、
ヒロインに何の不足もないことは「霧深きエルベのほとり」のアンゼリカの淑やかさを見ればわかります。

先日放送されたタカラヅカニュース「じぇんぬ史」で「ロックオペラモーツァルト」のセシリアは自分の引き出しにない役で苦労したと話していましたが、
苦労を感じさせない思い切りのよいキャラクターが息づいていました。

(話がそれますが、各組の上級生の娘役さんにこうした活躍の場があることを望みますし、5組あるのですから1組ぐらいは新人公演を卒業しキャリアを積んだトップ娘役さんに幅広い芸と技術を見せてほしいと思っています。)

そしてはるこさんのサビーヌはどんな境遇でも辛い目に遭わされても失うことのない気品とジュリアンへの愛がありました。

アルジェからパリへ行けることになったジュリアン/礼真琴に「自分のことを忘れないで」とはサビーヌは言いません。

どんなに忙しくても、どんなに偉くなっても、心のどこかに愛の住む場所だけは空けておいてね。

今の私の言葉だけは忘れないで。

直接言わずとも彼女の心はジュリアン/礼真琴への愛でいっぱいで、だからこそ思い切った行動を取るのでしょう。
悲しいヒロインです。

幕開きの真っ赤なノースリーブ、ショッキングピンク✕黒のドレスにうんと華奢な黒のサンダルの合わせ方、長い髪をばっさりと切ったパリでの踊り子の衣裳にドレス、いずれもはるこさん娘役力ともいうべき着こなし、髪型やアクセサリーのセンスが光っていました。

そして「テンプテーション」でおなかを出して踊る衣裳はすごかったですし、腕の華奢な筋肉は特に目を瞠りました。

サビーヌのダンサーという設定もまたダンスの名手であるばるこさんにぴったりの役でした。

ジャック/愛月ひかる

ガラが悪くて人でなし、ろくでなしのチンピラ野郎のジャックなのですが、愛ちゃんの演技の巧さが光っています。

パリで再会するときの第一声「よう、ジュリアン」の不穏さはまるで凶器のような一撃です。

ジュリアン/礼真琴をゆすり、サビーヌ/音波みのりにたかり、狡さと抜け目のなさが染みついているのが伝わってきました。

またミシリュー内相/大輝真琴に見透かされたときの苛つき具合に小物感が滲んでいるのも巧いなあと思いました。

この全国ツアーは愛ちゃんは専科生としての出演でしたが、短い専科生期間を経て星組子となりました。

まだ新生星組が全員揃っての本公演を見ていないのですが、こうして映像で見ても愛ちゃんのどこかノスタルジックな雰囲気と濃さ、骨太さは星組と相性がいいような気がします。

本公演を観劇するのが楽しみです。

アナ・ベル/小桜ほのか

登場したシーンの第一声「どなた?」の発し方、ジュリアンの返答に自身も名乗るときの目の動きだけで目が見えていないことがわかります。

仕草、目の動きなど非常に細かく緻密に作り上げているのが伝わってきます。

スカイステージの番組でも「目の見えない方のところへ勉強に行った」と語っていたのを思い出しました。

何も知らない無垢さ、清純さがあいちゃん(小桜ほのか)の愛らしさ、おさげによく似合っていて、
これが半年後に「ロックオペラモーツァルト」で蠱惑的で艶やかな歌姫アロイジアに変貌するのですから表現の幅広さ、確かさがわかるというものです。

固い蕾が開花し美しく咲いたところで酷い嵐に遭い、咲いたまま地面に落ちてしまったようなアナ・ベルの変化が表現されていました。

その”嵐”に遭ってしまった後の「何かがいま、体の中から抜け出るのがわかるようだわ」という伏せた目、
そして「私はもう決してピアノはひかないわ」という言葉の痛切さが迫ってきました。

この後の透明感のあるソロ歌唱もすばらしかったです。

ボランジュ一家/朝水りょう・白妙なつ・桜庭舞

ボランジュ総督/朝水りょう、めちゃくちゃかっこいいです。

以前も書いたかもしれませんが、面長で頬骨が美しくて頬の削げた男役さんを好きになりがちなのですが、KABUちゃんのお顔立ちは最高だと思っています。

そのKABUちゃんが金髪にお髭、かつ黒燕尾で最高にかっこいいです。

正装の黒燕尾はもちろん、上着を脱いでタイをほどいて書類を見るのも様になっていましあ。 

「宝塚おとめ」の好きだった役に挙げておられますが、捉えどころがないと思わせるくらい器が大きくて、裏も表も知り尽くし、一筋縄ではいかないホランジュ総督として大きな存在感を発揮しています。

お前の目には野望が渦巻いている。大いに結構。だがその手段は正当でなければならない。
いいか、体を痛めそれを掴み取るのが本当の男だ。男の栄光に近道などありはしない。己と戦って一段ずつ登っていくんだ。

このセリフから彼がどのようにしてアルジェ一の権力を持つにまで登りつめたのかが窺えます。かっこいい!

妻のルイーズ・ボランジュ/白妙なつはどこかずれていてすっとぼけた”不思議ちゃん”かと思いきや、ボランジュ総督の連れ合いである説得力があります。

というのも前述のホランジュ総督の言葉に込められたものを察知するや否や、”不思議ちゃん”の雰囲気は一掃され、婉然と笑を浮かべているのですから。

この変貌ぶりが見事でした。

娘のエリザベート/桜庭舞「赤と黒」の令嬢マチルドを思い出します。

何もかもを持っていて高慢な令嬢がジュリアンが自分を愛していない、他の女性がいると知って彼の愛を求めて縋るのも同じです。

エリザベートが最初に登場したときはまだ幼さがあり、高慢で嫌味なまでのツンツン具合をまめちゃん(桜庭舞)がとても上手に出していました。

そしてだんだんジュリアン/礼真琴ーー自分を愛していない男に惹かれていく動揺、とうとうジュリアンに自分の心のうちを告げて縋る変化も。

アナ・ベルもジュリアンと出会ったことで変化しますが、
エリザベートはアルジェ時代があるので少女から大人の女性への変化が見え、また力関係の変化もあります。

まめちゃんのその変化の見せ方がうまくて、ジュリアンとの出会いの高慢さと迎えた結末の落差が悲しいくらいでした。

教会での赤×ライトグレーのモダンな衣裳ベレー帽、手袋の合わせ方が素敵でした。

その他のキャスト

一言ずつですが触れさせてください。

◆ミッシェル/紫藤りゅう
品のよさ、影のない明るさがあり、彼自身は明るい道を歩んできたものの、光があれば影があることを知っているのを感じさせます。

パリの下町でジュリアンが突然帰ってしまった後、気がかりを覚えているのを消えているライトの中で表情で表しているのが上手です。

心のある芝居ができて歌もうまくて、端正でオーラもあって、素敵なスターさんだと思います。

もっともっと活躍の場があってほしいです。
新天地宙組で大いに活躍されることを楽しみにしています。

◆マリア・シャルドンヌ/万里柚美
母親役になることが多いユズ長ですが、これぞユズ長でなくてはというパリ社交界に君臨する女性です。

若い青年を侍らせるのがなんと似合うことか。

私はしたいようにして人生を送ってきました。悔いは何もありません。

野心の漲る殿方の冷たい瞳ほど素敵なものはありませんわ

ミシリュー内相/大輝真琴に20年も言い寄せられてのらりくらりと交わせる技と自由と財力を持ち合わせ

◆アンドレ/極美慎
しんくんの整った華やかな美貌が目をひきます。

屋敷を訪ねてきたジュリアン/礼真琴に「やあ、アンドレ」と上から声をかけられただけで察してしまうものがあるのですね。

彼の衝動に繋がるものがだんだんと降り積もり溢れて堤防が決壊してしまうわけです。

いずれのキャストもぴたりとハマったと感じた星組全国ツアーでした。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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