観劇の感想

宙組「アナスタシア」充実のキャストたちの感想

こんばんは、ヴィスタリアです。

宙組「アナスタシア」キャストごとの感想です。

いずれもヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想で作品の内容に触れています。

ディミトリ/真風涼帆

ディミトリも「オーシャンズ11」ダニー・オーシャンも同じ詐欺師ではありますが
色男で高級スーツを着こなすダニーのようなわかりやすいかっこよさは皆無といっていい役どころではないでしょうか。

引いて言えばディミトリはトップスターが演じるわかりやすいかっこよさのない役だと感じました。

詐欺師になったのはおそらく生い立ちや社会情勢も関係していて、そうするしか生き抜いてこられなかったのでしょうが
心情を寄せたくなるほどのエピソードは語られません。

身なりもふつうで他の女性たちからモテたり美貌、色男っぷりにため息をつかれる…なんてよくある設定もなく、
生き抜くために必死で知恵を巡らせてきた一青年です。

(パリにたどり着いてからのスーツにハット、正装の燕尾服をさらりと着こなすあたりは只者ではない美青年であることを伝えてくれていますが)

また最初はアーニャをからかうような、ちょっと意地の悪いおちょくりのような台詞があるのもかなり人間味があって、
これもまたトップスターには珍しい台詞ではないでしょうか。

(そしてゆりかちゃんのこのからかう中にも優しさが底にある言い方が好きです)

しかも「アナスタシア」のストーリーにおいてはアーニャ/星風まどかの身に起こることのほうがドラマティックで
ストーリーの主旋律はタイトルロールの彼女にあります。

それでも宝塚歌劇版としてディミトリが主役として成立しているのはゆりかちゃん男役としての成熟した、今ぞ盛りとばかりのかっこよさと、
特に2幕からの鮮やかになうディミトリの高潔さとアーニャと、マリア皇太后と対峙するまっすぐさにあると思いました。

寝室でアーニャに「私がアナスタシアだと思う?」と問われて答える台詞は直球ではありませんが
彼女への信頼と深い愛を感じさせます。

愛していると言っていないのにゆりかちゃんが心からの愛を伝えていると感じて深く心を動かされました。

だからこそマリア皇太后/寿つかさにあれほど強く訴えかけ、またすっかり心を閉ざした彼女も動かされたのでしょう。

ディミトリの選択と真っ直ぐな言葉は本当にかっこいい…とときめかせてくれました。

アーニャ/星風まどか

アーニャがまどかちゃんに出会うタイミングをずっと待っていたのではないかというくらいはまっていました。

プリンセスと記憶を失って大変な苦労をして生きてきた少女という両極端とも言えるキャラクターが混然としながら
どちらも彼女自身なのだという説得力がありました。

誰からがパリで待っている、行かなくてはならない――衝き動かされるような強い思いは豊かな歌からも痛いくらい伝わってきて大感動でした。

メイクをいつもと変えているのか目元のあたりが本当に外国の女の子に見えます。

また掃除婦として懸命に働いて走り回っているときの髪の振り乱しよう、バタバタとした走り方、
ディミトリのかつての悪友たちを追い払うときのぐっと力をいれて大地を踏みしめているような身のこなしなど
あえてそうしてるのがうまいなあと思いました。

しかしどこか気品もあって、それがディミトリとヴラドのレッスンを受けるうちに失った記憶が蘇るのか、パリオペラ座では優美で堂々たるドレス姿を披露し物怖じすることがありません。

かと思えばディミトリに「いつ褒めてくれるんだろうと思っていた」と心細そうな、子どもが本能的に愛を求めるようなことを漏らすのが愛らしくて胸がきゅっとしました。

マリア皇太后/寿つかさとの対面は自分がアナスタシアだという確信を得たことよりも
その確信がたとえおぼろげでもあなたの家族だと認めてほしいという切実さがあって、
アーニャが抱えている孤独や家族の愛を求めて手を必死で伸ばしている思いに心を動かされました。

ゆりかちゃんがダニー・オーションとまったく違う詐欺師を見せたように、
まどかちゃんは前作「FLYING SAPA」とはまったく違う記憶を失った為政者の娘を見せてくれました。

まどかちゃんはそうした芝居はもちろん、ダンス、歌と実力が揃っていて経験をつんで大人っぽい役も少女も説得力をもって演じ、
ヒロインとしてのオーラ、魅力もあってとてもすばらしいトップ娘役さんだなあとあらためて思いました。

グレブ・ヴァガノフ/芹香斗亜

グレブが登場したときの肩で風を切る威圧感、大股で周囲を制圧するように歩く姿が軍人そのもので
ぞわりと怖くなるほどでした。

2幕の軍人の質実さを纏いつつすっきりとしたスーツ姿も美しく眼福ですが、
1幕の軍服姿の方が好きなのはこの登場しただけで震え上がるような当時の軍人の冷酷さが表現されていたからです。

そんな冷酷さとのギャップがアーニャ/星風まどかと出会った瞬間の不器用すぎてわかりにくいほどの恋にあるのもグレブが魅力的な所以だと思います。

しかも父親の犯した罪(というより所業)を背負い深く悩み苦しんでいる様はのもたまりません。

役として魅力的というだけに留まらず男役として滴るような色気もあります(苦悩する男役さんっていいですよね)。

それらが豊かな声と表現力の歌唱に込められたThe Neva Flowsもすばらしかったです。

劇場いっぱいに響き渡る歌声は圧巻でした。

出番の多さでいえばもしかしたらヴラド/桜木みなとの方が多いのかもしれませんが
キキちゃんは複雑な役を魅力的に、印象強く見せてくれてさすがの2番手スターさんでした。

ヴラド・ポポフ/桜木みなと

ほとんどディミトリ、アーニャと一緒にいるので出番が多く目立つ役です。

最初にずんちゃんのヴラドのヴィジュアルを拝見したのは宝塚大劇場の初日映像でしたが、
本当にずんちゃん!?と驚きました。

そのくらいもじゃもじゃヘアーにダサめの眼鏡の軽妙で楽しいおじさんに成り切っていたからです。

観劇でもそうで「本当にずんちゃんなんだよね」と驚きながら見ていました。

それだけ芝居も歌もコミカルさもずば抜けて巧いのだと思います。

厳格なマリア皇太后には毛嫌いされていますが、こんな人が隣にいたら楽しいだろうな…と頬が緩みますし
天性の明るさはスター性、オーラがきらめいていて眩しかったです。

1幕のディミトリ、アーニャとのナンバーも楽しく、
2幕のリリー/和希そらとの恋が再燃するナンバーも見応えがあってたっぷり楽しませてくれました。

リリー/和希そら

今作で初めて宝塚歌劇をご覧になった方に「リリー役の生徒さんはふだんは男役なんだよ」と言っても信じてもらえないかもしれない、
と思うほど自然な女性の役でした。

有能で品がありつつも正直で生きることをどう楽しめばいいのかわかっている魅力的な女性を
そらくんが輝かせて息づかせていました。

「アクアヴィーテ!!」中詰めのタコ足ドレスのゴージャスな美女姿に美しい歌声も忘れがたいですが
リリーもなんと魅力的なことか。

さぞかしモテたでしょうし恋を楽しんでいそうで、結婚していながら夫はロシアに帰ってにもかかわらず
自分はパリに留まって仕事も日々の愉しみも持っている女性のハツラツさがありました。

そしてうまい…うますぎるほどうまいですね。
そらくんが女役もダンスも歌もうますぎて、ネヴァクラブのナンバーはセンターから劇場中を支配する存在感に圧倒され目が釘付けでした。

小気味がよくてパンチが効いていてエネルギッシュで弾けていて、うますぎて(←2回目)、大興奮!でした。

観ながらにして「いますぐもう1回観たい」と思わせてくれます。

そらくんのうまさは宝塚歌劇のみならず外部の舞台でも存分に活躍できるものだと思いますが、
もっともっと宝塚の男役のそらくんを見ていたいです。

次はバウ主演作「夢千鳥」が待っていてこれまでとは違う一面を拝見できるのではと大いに期待しています。

オフステージのトークなどいつも明るくて楽しませてくれますが、男役として苦悩していたり陰を感じさせるキャラクターがもっと見てみたいと「壮麗帝」イブラヒム役の好演以来思っているのです。

マリア皇太后/寿つかさ

この御方も「ふだんは男役さんなんだよ」と言ったら驚かれるのではないかというくらい自然な女性の役でした。

結い上げた白髪やドレスもお似合いで、気品があってときに持って生まれた者の自負は気高くさえありました。

すっしぃさんは「神々の土地」でもマリア皇太后を演じていますが、
そこから時代は下り、失ったものの大きさと埋めようのない空洞を抱え、彼女の心は冷え切って閉ざされています。

その悲痛さが痛いほど伝わってきました。

ディミトリ/真風涼帆の言葉に動かされてアーニャ/星風まどかに会うことを決め、
言葉をかわしながら凍り付いた心が溶けていくのが手にとるように伝わってきて涙を誘われました。

本来は男役であるすっしぃさんですがいままで観た役のなかでもっとも好きかもしれません。

「神々の土地」上演時は宝塚歌劇から遠ざかっていたのですっしぃさんのマリア皇太后にこういう形で出会えてよかったとしみじみ感動しました。

その他のキャストたち

一言ずつですが触れさせてください。

◆アレクセイ/遥羽らら
配役発表にときは少年役に驚いたのですが、ららちゃんのかわいらしいお顔立ちと幼いアレクセイがぴたりとはまっていて唸りました。

血友病という名前は出てきませんでしたが病ゆえの脚元のおぼつかなさ、転ぶシーンにはハッとさせられました。

それはアーニャの夢の場面での真実をつくような一言にもありました。

この一言がいかにも子ども、少年らしさがあって強く印象に残りました。

◆少女時代のアナスタシア/天彩峰里
ニコライ二世/瑠風輝の一家の女性たちが白の豪奢なドレス姿の中で
普段着のようなドレス(矛盾していますがそうとしか形容できません)におろした髪の毛が幼さと愛らしさが際立ちます。

冒頭のマリア皇太后/寿つかさとのオルゴールを介しての場面は
完璧な絵本か思い出のように美しくて涙を誘われました。

◆ロットバルト/優希しおん
先日まで月組「ピガール狂騒曲」でありちゃん(暁千星)のものすごいピルエットとカンカンに観劇のたびに大興奮だったのですが、
ありちゃんと両壁を成すすばらしいダンサーでした。ブラボー!!

もう1回と言わず何度でも観たいですしロットバルトから目が離せませんでした。

次はまどかちゃんのミュージックサロンにご出演とのことで配信で見られるのを楽しみにしています。

◆タチアナ/水音志保
美しい娘役さんでライブ配信のときから楽しみにしていました。

目を惹く美しさとかわいさがあって、皇帝一家のドレスも美しいですが
1幕最後の列車の乗客の水色のドレスも素敵でした。

◆マリア、オデット/潤花
プログラムのスチールがいままでと雰囲気が変わったように思いました。

組のお化粧の違いか役柄によるものかわかりませんが、かのちゃんは華のある娘役さんで笑顔の印象が強く、
表現の幅が広がると一層魅力的になられるだろうなあと思っていたのでその一端を見た思いです。

得意のダンスも劇中のオデット、ロケットガールで違う魅力を見せてくれました。

これから様々な役、場面を経験されるでしょうからどんな新しいかのちゃんに会えるのか期待しています。

以上、初回観劇の感想でした。
いまの宙組を目と心に刻みたくてあと何回か観劇する予定なので(そしてまだまだ見切れていないし書ききれていないので)
また書けたらいいなと思っています。

読んでいただきありがとうございました。
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