こんばんは。ヴィスタリアです。
昨日に続いて「タイタニック」観劇の感想、今回はキャストごとについてです。
全員がすばらしかったのですが、ヴィスタリアが特に印象に残った覚えている限り、書ける限りの感想になります。
全員に触れられなくてごめんなさい。
目次
「タイタニック」再演は若者の物語にシフトしている
2015年の「タイタニック」初演から続投しているキャストもいますが、今回の再演から入ったキャストもいます。
そしてその人たちが初演より若くなったのはなにか意図がありそうです。
具体的に若返ったことが舞台世界に影響しているのではないかと思ったのはこの方たちです。
◆アリス・ビーン
◆3人のケイト
◆キャロライン・ネビルとチャールズ・クラークのカップル
若返ったことで、前途洋々、あるいは洋々かどうかはわからないけれど未来ある人々の命が失われたことに焦点が当たるようになったのではないでしょうか。
また続投のキャストは3年の月日を経た分、若者との対比がより際立っているように思いました。
アイダ・ストラウス/安寿ミラ 貴婦人は宝石の輝き
主役からではなくてごめんなさい。
まずはヴィスタリアの永遠の贔屓ヤンさん(安寿ミラ)から書かせてください。
一等客は若かったり成り上がり者もいるなかでアイダとイシドールのストラウス夫妻は人生の晩年にいて、気品と美しさ、富める者の優雅さがあります。
まとっている空気に一等客のなかでもこの2人は別格だと感じました。
アイダ・ストラウスは一等客の女性のなかでただ一人、救命ボートに乗らずタイタニック号に残った人物です。
乗客の数に対して半数の席しかない救命ボートは女性と子どもが優先されましたが、アイダは自らボートに乗ることを拒否しました。
夫イシドールに諭されても拒否し「あなたのいらっしゃるところに私もまいります!」と声を荒げるのですが、おそらくアイダにとって40年間つれそった夫に初めて逆らった瞬間だったのでしょう。
ここからがアイダとイシドールのストラウス夫妻のハイライトで、ヴィスタリアはほとんど泣きっぱなしでした。
船に残った老夫妻は身なりを整え、イシドールがアイダに指輪をはめ、ネックレスをつけてあげるのです。
言葉はなくとも見つめ合い寄り添う2人の姿から深い愛、慈愛が伝わってきました。
船が沈み冷たい海と死が迫りくるなかでこんなこと、できるものでしょうか。
救命ボートに乗る若者たちに自分たちの指輪や札入れを渡し、メイドたちに救命胴衣をつけて紐を結んでやるアイダ。
自分は救命胴衣はつけておらず、覚悟が伝わってきました。
ヤンさんのアイダは2015年初演に続いて続投ですが、今回の方が断然よかったとヴィスタリアは思いました。
(初演ももちろんすばらしかったですが)
初演よりも白髪をぐっと増やし、老いてなお美しい貴婦人であることがビジュアルから押し出されています。
この老いをやや強く出したことが他の若いキャスト、救命ボートに乗った若者たちとのコントラストが際立ち、また夫イシドールとの深く確かな愛を輝かせたように思います。
アイダも夫イシドールも前半はほとんど喋りません。
セリフらしいセリフはないのに、佇まいとちょっとした動き、仕草、アンサンブルの歌い方などから気品と美しさ――容貌、身なり、心の美しさが伝わってきます。
セリフがなく「タイタニック」の風景に溶け込むようにしていながら、アイダのまとっているオーラは美しい宝石、それも抑制の効いたカットが施された品のよい宝石か真珠のようにひそやかに、しかし確かに輝いていて、ヴィスタリアは目が離せませんでした。
このアイダ役を気品、美しさ、存在感で表現できる人がヤンさんをおいて他にいるでしょうか。
そしていつものことながらヤンさんの衣裳の着こなしもすばらしく、特にポスターにもなっている黒い旅装束のドレスの美しさたるや…うっとりです。
ポイントは黒の革手袋とそのうえから嵌められた見事な宝石の指輪だとヴィスタリアは思いました。
プログラムもその衣裳なのですがこのヤンさんがまたお綺麗で、このアイダのスチール売っていないのかしらと、ついつい宝塚と同じように考えてしまいました。
アリス・ビーン/霧矢大夢 本当に大切なものはすぐ傍にあった
久しぶりにきりやん(霧矢大夢)の舞台姿を見られるのを楽しみにしていました。
歌も芝居も100点満点!さすがきりやんと言いたくなりました。
アリス・ビーンの役どころが初演よりも大きくなっているような気がしたのですが、これはヴィスタリアの記憶違いかもしれません。
ただアリス役のきりやんの存在感が大きく、目立っていたのは間違いないと思います。
華やかさと明るさがあってさすがのオーラで、アリスが舞台にいるとつい目が引き寄せられる瞬間が何度もありました。
アリスは二等客としてタイタニックに乗船しますが、そのことに満足していません。
一等客の仲間に入りたい、もっともっとお金がほしい、富がほしい、あの人たちが手にしているものは私にだって手にする権利がある、と分相応ということがわからない女性です。
アリスは下手をするとただガツガツとした、下品な女性になってしまうと思うのですが、きりやんのアリスは高望みと不満と、ミーハーな軽さとを表現しながらも品がありました。
衣裳は二等客のこざっぱりとした、ワンピースといってもいいくらいのドレス姿なのですが、着こなしも綺麗で品を感じさせました。
宝塚の外の舞台を観るといかに娘役さんのドレスの着こなしがすばらしいものであるかを実感するのですが、元男役で舞台で活躍されている皆さんのドレスの着こなしも本当にすばらしいと思います。
1幕終わり近くで夫エドガー・ビーンとのキスシーンが何度かあるのですが、この日ヴィスタリアが観ていたちょうど真正面でそれが展開されるもので、かなりドキドキしちゃいました。
だって情熱的なキスは一度だけじゃなかったですし、宝塚の舞台ではキスシーンは見えないようにしますし、これは宝塚の舞台じゃないんですけれど、わかっていてもドキドキしてしまいました。
このシーンがあったからこそ、エドガーとの別れが泣けてたまらなかったです。
もし「タイタニック」の再々演があるのならぜひアリス役はきりやんに続投してもらいたいです。
イスメイ/石川禅 傲慢な男の贖罪のはじまり
タイタニックの船主イスメイ、初演は鈴木綜馬さんでした。
イスメイが石川禅さんに変わったことが初演と再演の違いに大きく関わっていたようにヴィスタリアは感じました。
石川イスメイはものすごく傲慢で、傲岸不遜で、差別的意識を持ったものすごく嫌な男です。
その嫌な男っぷりがうまいのです。
そしてその嫌なのはずの男が、目に涙をいっぱいに溜めている(ように見えた)ところがありました。
幕開きの事故後の場面、そしてカーテンコールです。
後者は見間違いかもしれませんが、前者は涙で目が光っていたのは間違いないと思います。
そのときのイスメイの佇まいがまた、いまにも泣きそうにも感じられました。
プログラムを見たら石川さんは「”タイタニック”はイスメイの贖罪への序章。彼の償いの日々を想像できるように演じたい」と書いておいでです。
あの涙にはこういう思いがこめられていたのですね。
イスメイが出ていて息をのむほど圧倒された場面があります。
イスメイがタイタニック処女航海の話題づくりのために船の速度を上げるようゴリ押しをし、かなり差別的な言葉を口にします。
周りにいた船長以下、航海士たちが無言で身動き一つしないのですが、イスメイへの怒りを全身から立ち上らせて強い圧力をかけるのです。
この圧がすごくて、言葉はないのですがビリビリと痺れそうでした。
「ここは俺たちの神聖な職場だ。お前は出ていけ」という船長や航海士たちの声なき怒りは空気で表現されていると思いました。
演技にも歌にも存在感がありました。
この「タイタニック」号の出航に欠かせないキャスティングだっと思います。
エッチス/戸井勝海 皺の寄った給仕服の矜持
一等客室係のエッチス、 戸井勝海さんは初演からの続投です。
戸井さんはサザーランド演出「グランドホテル」GREEN版ではプライジング社長を好演していました。
プライジング社長にしても今回のエッチスにしても、戸井さんはノーブルに近いところにいるようでやや品のない人物がうまいです。
(戸井さんが品がないと言っているのではありません。念のため)
今回のエッチスの給仕服、形は凝っているのに皺だらけなのです。
この皺の具合にエッチスという人間の魅力、演じている戸井さんの魅力があるように感じました。
そして1幕最後に柱に体をもたれさせ、投げやりな、でも堂に入った仕草で煙草を吸うところがあります。
すごくかっこいい仕草、煙草の持ち方なのですが、でもやっぱり少し品がなくて、それが人間味があっていいのです。
アリスの暴走に手を焼く夫エドガーに「心中お察し申し上げます」と言うセリフもよくて、エッチスはあらゆる船であらゆるものを見てきたのだろうなと思いました。
彼は最後の最後まで、タイタニックの1等客室係として乗客たちにサービスを提供しました。
バレット/藤岡正明 ピュアな歌声に心洗われる
続投がうれしかったキャストのお一人です。
なんといっても高い声の歌がすばらしいです。
「グランドホテル」のエリックの歌があまりにもすばらしかったので、また劇場で聞けるのを楽しみにしていました。
ボイラ―室での重労働、通信士ブライドのやりとり、恋人への思いをこめた歌は聞き惚れました。
救命ボートのシーンもバレットなりのプライドがあって、それもまた涙を誘いました。
ほかにも書くべきキャストがいるのですがまず思いついたままに書きました。
また思い出せたら書きたいと思います。
最後まで読んでいただきありがとうございました。
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