こんばんは、ヴィスタリアです。
KAATで月組「ELPIDIO」を観劇しました。
ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想で作品の内容に触れています。
月組「ELPIDIO」作品の感想
謝珠栄先生が脚本も手がけた作品を見るのは星組「眩耀の谷」以来です。
「眩耀の谷」は架空の土地、民族が題材になっていましたが
「ELPIDIO」は20世紀初頭のスペインが舞台で、現実にあった植民地支配や略奪、スペイン国内の地域差、格差や差別が頻繁に語られていてメッセージ性をより強く感じる作品でした。
そのメッセージを、謝先生の振付で踊る「黒衣の弱者」たちが場面転換をわかりやすいものにしながら一層鮮やかなものにしています。
幕開きからこれぞ!という謝先生の振付、靴が打ち鳴らされる音とリズム、「黒衣の弱者」たちのエネルギーの迸る踊り、表現に高まりました。
それに布の使い方にも。
またセット、照明に柱に映し出された映像と相俟ってスタイリッシュでワクワクしましたし、劇中の酒場のナンバーもとても楽しかったです。
史実をなぞり強いメッセージがありながらそれだけを打ち出すのではなく、
主演のちなつさん(鳳月杏)や専科のまゆぽん(輝月ゆうま)はじめ月組生の持ち味、芝居の巧さ、コミカルさが随所に散りばめられていました。
笑いながらも考えさせられる物語がたどり着いたところから宝塚歌劇らしいフィナーレへとなだれ込んでいく。
いまの月組の、このメンバーならではの作品を観られたと感じました。
また印象的だったのが女性たちの描かれ方です。
女性の権利を力強く訴えるナンバーがあったり、ヒロインのパトリシアは貴族の女性ですが確固たる信念としっかりとした人権意識を持っていたのです。
物語の中で恋愛の要素もありますけれどそれだけに留まらず、思想や信念、考え方でパトリシアが主役のロレンシオと共鳴していくのも血に足がついていて、ただ男性側にとって都合のよい存在に留まっていないことはとてもよかったです。
ただ、作品の本筋とは関係のない細かいことですが、謝先生の単語の選び方がときどき気になりました。
ロレンシオが目の前で紹介しながら
「俺の弟のような人物で」という台詞があり、この場合は「人物」ではなく「男」でいいんじゃないかしら…。
そしてパトリシアの善意の台詞で
「…学校や働く女性たちのための託児所、難民や避難民たちの収容所もつくらなくちゃ」
収容所という強い単語が引っかかりました。
長くなってはしまいますが「安心して過ごせる居場所」など別の言葉があったのでは…。
女性が権利を訴えていることが描かれているにも拘わらず「行かず後家」とからかうようにして言う台詞が明るく言われていたのも引っかかりました
あえてその言葉を使っていると感じる演出家の先生もいますが、
今回は演出・振付・音楽・照明・衣装といった全ての美意識が高く緊張感のある舞台だったこともあってこうした単語を自分は看過できず気になったのでした。
家族、子どもという単語が2幕でぽんと出てきたのも気になりました。
踏み込んだことをあえて書くならこうした言葉の選び方が作品のメッセージ性と矛盾を呼び起こすこともあるのではないかと、感じたのです。
月組「ELPIDIO」役ごとの感想
◆ロレンシオ、アルバレス侯爵/鳳月杏
幕開きに登場したちなつさんに脚長い〜〜〜!軍服が引き立つ〜〜〜!と思わず心のの中で悲鳴を上げてました。
また纏っている雰囲気にどこか漂泊しているような当てのなさがあって、どんな男でどうしてこんなことに…ドラマにと引き込まれました。
2役?3役?をその場で見事に演じ分ける表現力、抜群のコメディセンスに何度も笑わせられました。
役替りですからお衣装もたくさん、髪型もいろいろ見られて一度で何度でもうれしくなっちゃうのてすが、きっちりめの短髪にお髭が最高でした。
◆パトリシア/彩みちる
由緒ある家柄の貴族の出ですが、ただ男たちの言いなりに生きているような上流階級の女性てはありません。
自らの信念と具体的な目標、人権意識があって自身が持てる者だからこそてきることがあるという自覚もあります。
この凛とした雰囲気が彩みちるちゃんの持ち味とよく合っているように思いました。
「グレート・ギャツビー」のジョーダンもですがみちるちゃんが寄り添うだけで終わらない女性を演じるのがとても似合うと思うんです。
ちなちる(鳳月杏・彩みちる)の大人っぽい雰囲気とロレンシオ、パトリシアが共鳴しあって惹かれ合うのも素敵でしたし、
キスシーンがとてもロマンチックで素敵でした。
(あんまりときめいて語彙を失って素敵と繰り返しています)
最初にロレンシオにキスをするのはパトリシアなんです。
それがまたよくて、そこからの流れもとてもいいんです。
ロレンシオとパトリシアの、この恋になっていく経緯はぜひ舞台を、配信を見て楽しんでいただきたいてす。
加藤真美先生のお衣装はいずれもすばらしかったのですが、フィナーレの地なちるの、透ける模様が美しくて印象的で、
全編を通して装置や照明の印象と似た雰囲気があったのもすばらしかったです。
◆セシリオ/彩海せら
別箱のスチールは3枚までのことが多くて今回はあみちゃんのスチールはありませんでした。
が、観てみれば出番は多くて一人で舞台に立ち台詞を言ったり長いソロを歌ったり、重要な役どころでした。
この歌がまた難しそうなのを歌いこなしていてあみちゃんの歌の巧さをあらためて実感しました。
別箱は「ブエノスアイレスの風」に続いて苦難のある役でした。
今度はどんなあみちゃんに会えるのかも楽しみです。
◆アロンソ(アルバレス侯爵の執事)/蓮つかさ
スチールの眼鏡のれんこんくんを見たときから楽しみにしていました。
燕尾服、白手袋、眼鏡で最高にかっこよくて、
しかも芝居の巧さとコメディセンス、体を張った演技がこれでもか!と見られます。
途中かられんこんくんがいるとオペラで追いかけていました。
フィナーレの扇子を持ってのダンスもかっこよかったです。
月組に欠かせない男役スターさん、これからも楽しみにしています。
◆ゴメス(アルバレス侯爵の秘書官)/輝月ゆうま
巧いですねえ。
…なんて、まゆぽん(輝月ゆうま)が巧くてコメディが最高なんてわかりきったことですけれど言ってしまいます。
主人に仕えているという意味で花組「TOP HAT」を思い出しましたが、今回はキャラクターとしては真っ当な人物です。
(発想はすごいですが)
優しさ、器の大きいところも感じられますが、そうしたところがコミカルさのみならずまゆぽんにぴったりな役でした。
◆マルコス(酒場Caminoの主人)/千海華蘭
巧いですねぇ…その2。
こういう人いるいる、と思わせる巧さです。
こういう親父いるよね、こういう歩き方する人いるよね、というからんちゃん(千海華蘭)が体現するリアルさよ。
体の揺すり方や階段の降り方がこれまた巧い。
酒場Caminoは楽しいナンバーがありますが歌も頼もしくてたくさん楽しませていただきました。
やはり巧いですねぇ…の筆頭であるマグダレーナ/白雪さち花との掛け合いも楽しかったです。
◆ミゲル/佳城葵
巧いですねぇ…その3。
仲良くしているブルーノ/英かおとよりはちょっと年上かな?と思わせる、
少しやさぐれた雰囲気のある男性の感じが立ち方、ポケットに手を突っ込む感じからありありとわかるんです。
うーちゃんのブルーノが品のよさを纏っているので対比も鮮やかでした。
そしてやすくんの滑舌、声のすばらしさといったら。
こういう絶妙な年代の絶妙なかっよこさ、ことさら語らずとも居住まい、佇まいに来し方が滲むような表現ができるやすくん(佳城葵)が大好きです。
◆ベニータ(マルコスの娘)/きよら羽龍
ブロローグが終わっての第一声でした。
おはねちゃんはいつも声量がすごくて客席ではっとします。
そして迸るエネルギーがすごい!
その溌剌さが眩しいです。
ロレンシオに想いを寄せて隠すこともしない(というより多分できない)ベニータはそばかすにおさげという素朴さですが、
実はそんなに幼い娘さんではないですよね。
「グレート・ギャツビー」では幼さの残る少女を演じていましたがそれとは明確に違う、
報われないことなど思いもつかない片思いをしている、大人になりかけている少女なのが伝わってきました。
いつも一緒にいるエステル/蘭世惠翔が美しくて目を引かれました。
◆ヒナータの女/桃歌雪
命を燃やすようにして今そこにいて踊っている凄みがありました。
「LOVE AND ALL THAT JAZZ」もでは歌と芝居で魅了されましたが、今回はダンスから立ち上ってくる出生と生き様の説得力がすごかったです。
ギターを爪弾いているのは107期の天つ風朱李くん。
引き続き注目です。
以上、一回限りの観劇ですが自分なりの感想でした。
次はもう一つの月組公演である全国ツアー「ブラックジャック 危険な賭け/FULL SWING」を観劇する予定です。
どちらの公演も完走を心から願っています。
読んでいただきありがとうございました。
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