こんばんは、ヴィスタリアです。
KAATで観劇した雪組「ほんものの魔法使」の役ごとの感想です。
いずれもヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちたもので作品の内容に触れています。
アダム/朝美絢
満を持しての東上初主演でBlu-ray発売も決まったあーさ、ふしぎな青年アダムを息づかせていました。
芝居も歌も安定感があって、フィナーレは男役スターのオーラ全開で劇場ごと落とす勢いです。
フィナーレで客席を見るときの視線に込められた熱さにくらくらしそうでした。
あーさの美貌でそんな熱っぽく見られたら失神ものです。
魔術師は二つ名を持つのがふつうなのに何もない――”ただの”アダム、と名乗るちょっと不思議な青年です。
彼は魔術の都マジェイアに魔術師名人組合に入るための試験を受けにくるのですが、
アダムの繰り出す魔術は「ありのままの魔法」で魔術師たちの魔術はいわゆる種と仕掛けのある手品です。
この相容れなさが自分がわからないもの、理解できないものを恐れ排除する人間の業を暴くことになるのですが
ファンタジーだからこそ描ける形になっていて、
アダムが最後に「これが一番いい形なんだ」と起こす魔法は切なくなります。
この皆の”ふつう”とアダムの”ふつう”が違うこと、アダムにとってあたりまえのことがわかってもらえないことに
あーさの類稀な美貌をつい重ねて見ている自分もいました。
本人には当たり前のこと、自然なことなのに周囲が騒いでいるのがマジェイアに立ち寄ったアダムに重なって見えたんです。
FNS歌謡祭で「黒髪の人」と話題になったり、宝塚を知らない方々の間でも美貌が褒められるあーさですが、
美しいだけではこれほどのスターにはなれません。
あーさが芸事を研鑽し努力し続けているからこそ舞台で輝き芝居で、歌で、踊りで心を動かしてくれることは言うまでもありません。
これまで舞台を観ていると力が入っているようで「もう少し肩の力を抜いて楽しんでいるところが見たいかも…」と(勝手に)感じることがありました。
今回真ん中に立ったあーさはそういう力みから自由になって楽しんでいるように見えましたし、
バウホールの初日映像よりもさらに自由に、KAATの舞台でのびのびと息づいていると感じました。
自分はあーさの「グランド・ホテル」のエリック・リトナウアーが大好きなんですが
エリックにしてもアダムにしても朝美絢という舞台人は関わる人、見る人に希望を灯してくれる力があると感じました。
ニニアン、ジェインの人生はアダムとかかわったことで変わりますし、
ジェインを勇気づける言葉は恋愛じゃないからこそ一層宝物のような、特別なものに響きました。
ジェイン/野々花ひまり
ジェインはちょっと子どもっぽいところのある16歳の女の子ですが、原作ではもっと幼い(11歳)のが舞台化にあたってこの年齢になっているからでしょう。
悲しくて悔しくて声を上げて泣いて、目元をこするように涙を拭う指に「お化粧もしていない女の子なんだなあ」と感じました。
そんな子どもらしさを残した少女を演じるひまりちゃんがとてもかわいくて自然と応援したくなります。
ヒロインでソロの歌もありましたが歌も進化されたのを感じましたし、
フィナーレのあーさとのデュエットダンスは夢の世界へと誘ってくれました。
ジェインはマジェイアの市長”偉大な”ロバートの娘で、兄ピーターにばかり期待をされていて家庭内ではあまり興味を持たれていないことが
舞台になると一層突きつけられて切なくなりました。
ジェインは魔術師になりたいのに兄の助手をさせられたり、兄妹喧嘩になると兄の言い分ばかり聞き入れられて監禁されたり食事抜きにされたり、
描かれている状況は虐待でしょう(原作でも舞台でもその悲惨さ、悲痛さは押し出してはいませんが)。
原作よりも年齢が上がったことでアダムとジェインの関係がほんのり恋愛要素が滲みましたが主眼はそこではなく、
アダムが大切なことを教えてくれてジェインが自身の可能性を信じ夢に向かって前進する力を自分の中に見つけるのは
大いに勇気づけられますし、素敵な関係です。
原作を読んだときにこのジェインの変化に感動したので「できる」「やるんだ」という台詞を
ひまりちゃんが丁寧に演じているのがうれしくなりました。
ひまりちゃんは幼さ残るジェインのおさげもポニーテールもかわいくて、
ちょっとミルクティー風味のある髪色もかわいくて、どのお衣装もかわいかったです。
この人生を変えるアダムとの出会いから3年が経った場面ではすっかり美しい女性へと変貌しているのも素敵でした。
モプシー/縣千
喋る犬――相棒のアダムにだけ人間の言葉が聞こえる犬モプシーをあがたくんがチャーミングに演じていました。
犬の鳴き声がうまくて、どうも最近タカラジェンヌの犬がやたらうまいのを聞いているなと星組「ロミオとジュリエット」を思い出して和みました。
モプシーは犬らしい仕草や犬が心を許している人間との親密さがかわいくてかわいくてたまりませんでした。
アダムが大好きで掌に頭を押し付けたり、ジェインが大好きで(衣装にはありませんが)しっぽを全力で振っているだろう様子、甘い物に目がなかくておなかいっぱいになって寝ちゃったり…そういったすべてがかわいかったです。
そしてただかわいいだけで終わらないのが宝塚の男役でありあがたくんです。
かわいいわんこからいきなり踊って跳んで回って、ダイナミックなダンスを見せ、娘役さんの真ん中で歌い、
正統派の美しいお顔で真顔になって男役らしくキメるのですからギャップがたまりません。
このギャップをふくめてモプシーがかわいいのかあがたくんがかわいいのか頭が混乱してきました。
幸せな混乱です。
アダムは白いもふもふの上着、白いデニムにコンバースという出で立ちですがこの靴でこの脚の長さってどうなっているの!?と目も混乱しました。
デニムの膝のところがさりげなく加工してあって、モプシーはかなりダイナミックに踊って跳んでをしていますから動きやすいようにしているのでしょう。
最後のご挨拶のお手振りでもあがたくんは手をわんこにしてふりふりしていて頬が緩みました。
隣のりーしゃさんにじゃれついているというかりーしゃさんがあやしているというか、いいものを見ました。
喋る犬というなかなかない役を好演したあがたくんが
新生雪組全員が揃う「CITY HUNTER」ではインパクト絶大な海坊主をどう演じるのか一層楽しみになりました。
振れ幅の大きさは縣千という男役の可能性の豊かさの証左ではないでしょうか。
ニニアン/華世京
”比類なき”という通り名を持ちながら自分に自信のないニニアンを演じるのは106期生のかせきょーくんです。
ついこの間月組「WELCOME TO TAKARAZUKA」で初舞台を踏んだばかりの106期生です。
花組の下級生の娘役スターの抜擢ぶりにも驚きますが雪組の御曹司の抜擢ぶりは上を行きます。
フィナーレの黒燕尾ではあーさを真ん中に上手にあがたくん、下手にかせきょーくんと並んで3人で踊るシーンもあり、
本編だけでなくここでもこのポジションなんだと驚きました。
スターシステムのある宝塚歌劇ですから抜擢はあるべくしてあるものでしょうし、かせきょーくんは見事に応えていました。
自分に自信がなくて子どもを喜ばせるために魔術をしているけれど大人やお偉方の前では委縮してしまって失敗ばかりというニニアンを等身大で演じていたと思います。
声よし、口跡よし、歌よし。
そして華があります。
赤い丸眼鏡に賑やかな柄物✕柄のソックス✕モカシンというちぐはぐなファッションで自分に自信がしょんぼりしていた少年が
アダムから大切なものを受け取ってある決意をするラストシーンはまるで別人のような輝き、見事なメタモルフォーゼでした。
研1で大器っぷりを見せたかせきょーくんですが
これから男役として芸と美学を磨いて成長されていくメタモルフォーゼに期待しています。
その他の役たち
一言ずつですが触れさせてください。
◆ワン・メイ/彩みちる
ジェインの親友で中国人風(ほんものの中国人ではない)ワン・メイ、とってもかわいかったです。
99期生同士のひまりちゃんとの2人シーンはかわいくて微笑ましくて、
また芝居に力のある者同士で見ごたえがありました。
◆アレキサンダー教授/透真かずき
いてくれると安心する上級生のお1人です。
魔法使いといえば…という出で立ちで、マジェイアに溶け込めないアダムも、そしてニニアンも見守るような役のあたたさが沁みました。
◆ロバート/久城あす
いてくれると安心する上級生のお1人です(2回目)。
芸達者で個性があって、滑舌のよさと存在感に今回も大いに楽しませていただきました。
ロバートがまさか長髪を束ねているとは思わなかったので新鮮でした。
フィナーレの黒燕尾の総踊りではちょうどあすくんが視線の先で見入ってしまいました。
芝居、歌もすばらしいですがダンスもです。
◆ワン・フー/天月翼
中国人風(ほんものの中国人ではない)の出で立ちもすっきりと美しかったですが、
ピクニックの牛さんがめちゃくちゃかっこよかったんです。
テンガロンハットにガウチョパンツのポケットに手を入れて視線を流しながら踊るのが決まっていました。
そして顔が小さすぎて!?となりました。
◆メフィスト/星加梨杏
まるでトート閣下のような長髪と紫色のお衣装がかりあんの美貌を際立たせていました。
もっと活躍の場があってほしい男役さんの1人です。
また娘役さんたちが役だけではなく蜂、鶏、蝶などで活躍していますがのんちゃん(千風カレン)、愛すみれちゃん、なーこちゃん(羽織夕夏)と実力のある方々がそろっていて楽しかったです。
下級生の娘役さんもみなかわいくて目から幸せでした。
以上、1回限りの観劇の感想でした。
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