おはようございます。ヴィスタリアです。
バウホール花組「舞姫」を観劇しました。
ヴィスタリアの独断と偏見と偏愛に満ちた感想で、作品の内容に触れています。
花組「舞姫」作品の感想
バウホール、文学作品のミュージカル化、植田景子先生とくれば「アンナ・カレーニナ」ですよね。
のっけからみなさまの同意を求めてしまいましたが、
映像で見たコムさん(朝海ひかる)のも大好きでしたし、
美弥るりかちゃんの最後の主演作で、観劇後に精根尽き果てるほど集中して観ていました。
円盤も繰り返し楽しんでいることもあって、「舞姫」のそこここに「アンナ・カレーニナ」を思い出して胸がきゅうっとせずにいられなかったです。
そして久しぶりに植田景子先生のワールドに浸れるのがとても心地よかったです。
セットは石壁に和扇や着物、棚引く金雲が描かれたパネルが自由自在にあらゆる場面を効果的に創り出し、
欧州と日本の象徴であり、行き来とその間で大いに揺れる豊太郎の心象風景にもぴったりでした。
甲斐正人先生の美しい音楽に物語世界へ深く誘われ、大津美希先生の衣装に目から幸せになりました。
たくさんの軍服に貴婦人のドレス。
白いドレスで儚く踊るヒロイン。
ベルリンの公園を行き交う人々の美しい衣装、よき装いの子どもたちの無邪気さ。
植田景子先生の美への拘りが随所に感じられますし、要所要所で使われる映像も効果的でした。
植田景子先生の脚本は森鴎外の「舞姫」にかなりのアレンジが加えられ、原作には登場しないキャラクターと場面によって
宝塚歌劇化することで叶うカタルシスと限りない美の追求がありました。
自分は初見の映像も未見で、国語の教科書で散々読んだ「舞姫」を題材として扱い、しかもいま再演するのを少しふしぎに感じていたのですが、
植田景子先生の手による宝塚歌劇化、ミュージカル化に深い意義を感じました。
現代の感覚で読むと「豊太郎は酷いしエリスがかわいそう」で終わってしまいかねない「舞姫」が宝塚歌劇と出逢うとこうなるんですね。
もしかしたら原作を知っている作品の宝塚歌劇化で一番驚き、一番宝塚歌劇が好きになった作品かもしれません。
近代化を目指しこれからの国家を担っていく超絶エリートに課せられたものと彼が目指すもの。
豊太郎に「祖国か愛か」と苦悩させ、祖国を選ばせた二人の男(相沢謙吉と馳芳次郎)とのかけがえのない友情。
エリスの「愛より生命より大切なものがあるの」という無垢な問いかけに対して豊太郎が、相沢が出した答え。
そして豊太郎が失ったものがエリスへの愛、二人の恋だけに留まらない、彼にとって二度と手にできないものであることが伝わってくる、前途洋々たる若者(青木英嗣)への餞別の言葉の、明るいからこその重み。
宝塚歌劇ってすごい芸術だし好きだなあと思える小劇場作品を観劇できてよかったです。
花組 聖乃あすか主演「舞姫」役ごとの感想
■太田豊太郎/聖乃あすか
植田景子先生はほのかちゃん(聖乃あすか)に膝をつかせたかったのだなあと、そこに美を見出しておられるのだなあ、そしてその美しい男役✕苦悩という美学はわかるなあと思いました。
白い軍服、黒い軍服✕白ズボン、フロックコート、あらゆるお衣装でほのかちゃんは膝をついていて、そしてそれが美しかったのです。
冒頭の登場シーンでは明治天皇陛下の勅命を膝と手をついて拝命していたエリート中のエリートの豊太郎が、
やがて祖国、果たすべき使命とエリスとの間の愛で苦悩し懊悩し、ときに許しを請うように大地に膝をつく。
このギャップがたまらない…!という時点で植田景子先生ワールドにやられてますね。
そしてほのかちゃんが美しいことは知っているつもりでしたが、やっぱり美しいですねえ。
華やかなお顔立ち、小さなお顔、艶々の舞台化粧、そしてスターたるオーラがまぶしくて二度目のバウ主演も納得です。
膨大な台詞も丁寧で、涙を流しながらの熱演は心打たれました。
また豊かに、まろやかに響く歌声の広がりもすばらしくて、こんなにも歌えることをあらためて知りました。
低い音域はこれからであるのかもしれませんし、滑舌はあともう一歩と思う台詞もあったのですが(そもそもものすこい台詞量ですが)、
成長著しいほのかちゃんですから男役10年を迎えて一層進化されていくことでしょう。
花組のスターとして頼もしくこれからが一層楽しみなのは、特に「冬霞の巴里」以降、どの舞台でも役への没入が見事で与えられたものに100%以上で応えていると、ほのかちゃんを観ていると感じるからです。
今回の「舞姫」もそんなほのかちゃんのすばらしい熱演ととどまることのない成長が頼もしく、そして輝いている舞台でした。
■エリス/美羽愛
NOW ON STAGEでも「私を大きく変えてくれた」といったようなことをお話されていたかと思いますが、
あわちゃん(美羽愛)、何か一つ大きなものを得たというか変わられたのではないでしょうか。
バウ・ワークショップ「殉情」の春琴、新人公演「うたかたの恋」を視聴・観劇して、
どちらも役を自分に近づけるタイプで、キュートでチャーミングな魅力がある娘役さんなのかなと感じたのです。
2つのタイプの役者があるというのは「柴田先生とコーヒーブレイク」で知ったことです↓
・役に自分が近づいていく役者
・役を自分に近づけていく役者
しかし今回あわちゃんは、役に自分が近づいていくエリスを体現したのではないかと感じました。
天使のような愛らしさと金髪のあわちゃん、正直まだ発声が苦しそうで語尾の聞き取れない台詞もなかったとは言い切れないのですが、
歌唱をふくめて格段の成長をされたのを目の当たりにしました。
母親のローザ・ワイゲルト/万里柚美は、これまで幾度となく母親役を演じてこられたユズ長(万里柚美)ですが、一番好きな母親役かもしれません。
娘のエリスにも豊太郎にもキツく当たりますが、それは娘を思ってこそ、愛あってこそなのが切々と伝わってきました。
それはつまり、ローザが酸いも甘いも噛み締めながら厳しい人生を生きてきたことが自然と感じられたということです。
■相沢謙吉/帆純まひろ
2番手の役どころは99期のホッティー(帆純まひろ)でした。
爽やかな美貌のホッティー、数々のおしゃれなフロックコートに学ラン!まで見られて眼福でした。
主演のほのかちゃんは100期ですから1個下ですが、音楽学校時代から分担で距離の近いお二人、
今回も役作りの一環で鷗外生誕の地津和野に行ったとNOW ON STAGEでお話されていました。
そんなせのほの(帆純まひろ・聖乃あすか)が幾星霜を経て(←大袈裟)ようやく別箱で共演。
しかも満を持して主演と親友、なんせ原作最後の一文が
嗚呼、相澤謙吉が如き良友は世にまた得がたかるべし。
されど我脳裏に一点の彼を憎むこゝろ今日までも残れりけり。
ですから配役が発表になったときから楽しみにしていました。
エリート同士、友人同士という呼吸のよさがお2人の間にあり、ときに緊張感でビリビリしました。
相沢だって東大出で次期総理大臣と目される天方伯爵の秘書なのですから相当なエリートです。
しかし同期で首席で卒業し、念願の欧州留学を果たす豊太郎には敵わないことを自覚し、
限りない羨望を抱いていることが1幕の少ない台詞からも的確に伝わってきました。
豊太郎からの手紙を読むシーン、自身の手紙を読むシーンから実際の場面への切り替えもメリハリが効いていて見事でした。
歌もかなり多いですし台詞混じりであったり、主演をつとめた「殉情」のときより複雑で難しいものだったと思うのですが、しっかり声が伸びて心に届きました。
ホッティーの演技はいつだって、どんなシーンでも、台詞の有無に関わらず適格で丁寧だからこそまっすぐ伝わってきて胸を打たれます。
そして2幕では豊太郎をなんとしても日本に帰国させ日本のために大いなる、為すべき事をさせ、そのためにエリスと別れさせようとします。
それが彼にとっての疑うことのない正義であり豊太郎を救うことになると信じているからです。
あるいはエリスとの恋に溺れて道を誤り、岩井/泉まいらに気の毒がられている豊太郎に怒りさえ覚えていたかもしれないと、相沢の表情を見ていると手にとるように伝わってきました。
ホッティーの刻々と変わる表情、伸びやかに広がるようになった歌声、口跡も鮮やかになった台詞から
豊太郎の才能と為すべきこと、そしてあるべき幸せを理解しているのは無二の友人である自分だという自負がありありと伝わってきました。
誰よりも豊太郎のことを信じているから、そして自身が敵わないこともわかっているからこそ、
彼は豊太郎を帰国させようと奔走しエリスに真正面から向き合うことになるのもまた、ホッティーの演技から伝わってきました。
そこに何の疑いもなかったからこそ、エリスに起きた悲劇に激しく動揺し、あるいは悔い、豊太郎に「俺を恨んでいるか」という台詞をぶつけたシーンは胸打たれました。
このせのほののやり取りを見たとき、植田景子先生は男の友情もまた限りなく美しく描いているのかなと感じました。
■馳芳次郎/侑輝大弥
「巡礼の年」でも絵描きドラクロワを演じていただいやくん(侑輝大弥)、今回の絵描きは絵描きだからこその志と大望と絶望のある、とてもいいお役でした。
植田景子先生のオリジナルのキャラクターであり、豊太郎にとって大切な友人であり、重要な役です。
異郷の地で出逢う同郷の友人は代えがたい存在でしょうから、方言や和食のエピソードはまいってしまいます。
いいお役をだいやくんが熱演でいいお役たらしめています。
まず自由人な画家らしいラフな、ちょっと長めの髪型がとてもお似合いで色気があります。
そして目のなんとギラついて、野心と野望、そして希望を秘めて光を放っていることか。
この最高にかっこいい芸術家が方言であけすけに豊太郎と語らい心を開き、
そしてミリィ/咲乃深音をなんだかんだ言って心から愛しているのですからたまりません。
プライドと大いなる望みがあるからこそ、2幕で漏らす無念さがずっしりと堪えましたし、芝居もとても巧かったです。
主演をつとめた「巡礼の年」新人公演が東京で中止となり観劇できなかったことらフル映像が残っていないことが無念でなりません。
カーテンコールのときもまだギラついて、虚無を奥底に宿した目をしていたのにはっとしました。
だいやくんのいろんなお役をもっと見てみたいです。
そしてみょんちゃん(咲乃深音)のミリィがまたいい女で沁みました。
歌うまだけあって台詞の声のなんと美しく明瞭なことか。
上級生娘役さんと下級生男役さんが組むのが好きなのですが、このミリィと芳次郎はどんなカップルだったのかな…と、仲睦まじくしながらも絵を描く現場の厳しさのギャップから一層想像力をかきたてられました。
■岩井直孝/泉まいら
小心者というキャラクターで笑いを誘っていたまいらくん。
でも志はあるからこそ、ヘタれなたけでなく、
豊太郎に「諦めちゃいかん」とかつて彼にかけられて勇気を得た言葉を真剣に返す場面に胸が熱くなりました。
■太田清/詩希すみれ
豊太郎の妹役ですが、かなり大きいお役でエリスと対で歌う場面もありました。
バウ・ワークショップ「殉情」(主演 帆純まひろ)で芸者お蘭役をすばらしく演じ歌っていましたが、今回の清は清廉で凛とした美しさがありました。
母親は太田倫/美風舞良で妹は清ですから、名前からして豊太郎がどのような家庭で育ったのかが伝わってきますが、名前の通り、太田家の者はかくあるべしという凛とした自負がすみれちゃんの演技から伝わってきました。
声の美しさ、耳に優しい聞き取りやすさ、歌の安定感は言わずもがな。
素敵な娘役さん、ますますの活躍を大いに期待しています。
■マチルダ・フォン・ヴィーゼ/二葉ゆゆ
ダンスの名手の二葉ゆゆちゃん、2幕の踊り子たちのシーンでセンターですばらしく踊っています。
そして1幕では令嬢マチルダとして豪華なドレスで豊太郎/聖乃あすかと美しく踊ってます。
そしてダンスのみならずみずみずしい芝居心と表現力を随所で発揮しています。
岩井/泉まいらとのやりとりのきらめきといったら。
ダンスに留まらずもっともっと色んなお役を見てみたい娘役さんです。
■フラウ・シュミット/琴美くらら
美しさも芝居のこなれた落とし込み具合もすばらしかったです。
「冬霞の巴里」の頃と比べたら「化けた」と言っていいくらいの進化に目を奪われました。
画廊を営むだけあってちょっと言葉がキツくて、でもよく観察していて本当のところは優しそうな女性であることが伝わってきました。
■ホットワイン売り、青木英嗣/美空真瑠
2幕冒頭のナンバーで105期のまるくん(美空真瑠)が歌い出した瞬間、思いました。うまい!と。
発声がとてもよくて歌いこなしも余裕綽々、安定感があります。
そして2幕幕切れでこれからベルリン留学に旅立つ前途洋々たる若者青木が一言発した瞬間、思いました。うまい!!と。
青木は原作ない役であり、原作ではあり得ないやり取りを豊太郎とします。
出番としては少ないものの、物語の締め、扇なら要といっていい役かと思います。
まるくん、とってもうまくて溌剌と輝いていました。
■カール/夏希真人
一際背の高い、カフェで働くカールは2幕冒頭のナンバーで元気よく歌っています。
まるくんと同じ105期同士の活躍をうれしく観ました。
あっしー(夏希真斗)は金髪に175cmの長身、花組だと一層目立ちますね。
他にもいろいろな場面でバイトをしていて、演じ分けも鮮やかで目を惹かれました。
長くなりましたが花組「舞姫」の感想でした。
配信は5月14日(日)千秋楽です。
多くの方に見ていただきたい作品です。
読んでいただきありがとうございました。
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