観劇の感想

ロシアの大地を犬ぞりで駆ける~「黒い瞳」あるいは「月光露針路日本」

こんばんは、ヴィスタリアです。

今日は(ほぼほぼ)宝塚歌劇の話でなくてすみません。

が、観劇の話ということで見たら書きたい性分なので書きます。

宝塚歌劇のお話も(ちょこっとですが)ありますのでご容赦ください。

「三谷かぶき 月光露針路日本 風雲児たち」が描いた人間と宗教と犬そり

先日ラジオで聞いた伊集院光氏の話に触発されて観に行った「京人形」がとてもおもしろかったんです。

初観劇のお誘い〜宝塚歌劇の場合、歌舞伎の場合おはようございます。ヴィスタリアです。 今日は(主に)宝塚歌劇の話じゃなくてすみません。 初めての一人歌舞伎座で...

という話をしたらお友だちが「いま東劇で三谷かぶきを上映していてとてもよい」とおすすめしてくれて、ふらりと行ってきました。

2019年6月に歌舞伎座で上演された「三谷かぶき 月光露針路日本(つきあかりめざすふるさと) 風雲児たち」がシネマ歌舞伎として上映されているんです。

シネマ歌舞伎は歌舞伎のライブビューイングならぬディレイビューイングといったところでしょうか。

これがとってもとってもよかったんです。

笑って泣いて、泣いて泣いて泣いて……最後は嗚咽し頭が痛くなるまで泣きました。

東劇が1席明けの販売で助かりました。
もしも両隣で見ている方がいらっしゃったらさぞかし迷惑な客だったことでしょう。

公演当時のあらすじがわかりやすいので抜粋してご紹介させてください↓

鎖国によって外国との交流が厳しく制限される江戸時代後期。
大黒屋の息子光太夫/松本幸四郎は、商船神昌丸の船頭(ふながしら)として伊勢を出帆しますが、
江戸に向かう途中で激しい嵐に見舞われて大海原を漂流することになるのでした。

海をさまよう神昌丸には17人の乗組員たち。
船頭の光太夫、経験豊富な船親司(ふなおやじ)三五郎/松本白鴎、最年長の乗組員九右衛門/坂東彌十郎
喧嘩ばかりの水主(かこ)庄蔵/市川猿之助新蔵/片岡愛之助
どこか抜けている小市/市川男女蔵、三五郎の息子の青年磯吉/市川染五郎…。

光太夫は乗組員を必死で奮い立たせ、再び伊勢へ戻るため方角もわからない海の上で陸地を探し求めます。

漂流を始めて8カ月─。神昌丸がようやく発見した上陸したのはロシア領のアリューシャン列島アムチトカ島でした。

異国の言葉と文化に戸惑い、厳しい暮らしの中で次々と仲間を失いならがも光太夫らは力を合わせ、日本への帰国の許しを得るため、ロシアの大地を奥へ奥へと進みます。

アムチトカ島からカムチャッカへ、オホーツクへ、ヤクーツクへ、イルクーツクへ…。
船と犬橇で旅は続きます。

親日家のキリル・ラックスマン/八嶋智人をはじめ行く先々でさまざまな人の助けを得て、
ようやく光太夫はサンクトペテルブルグで女帝エカテリーナ/市川猿之助に謁見することが叶い…。

『月光露針路日本 風雲児たち』は、みなもと太郎の歴史漫画「風雲児たち」を原作とする、三谷幸喜の作・演出による新作歌舞伎です。

抜粋引用元:六月大歌舞伎

予告編を貼っておきます。

三谷幸喜さんの手によるもので一流の歌舞伎役者がそろっていておもしろくないはずはありません。

ポチョムキンの松本白鴎さんも声といい立ち姿といい圧倒的な存在感がありました。

市川染五郎さんと幸四郎さんの親子ネタも盛り込まれていたり、
客席は大うけだったのがシネマ歌舞伎でもよくわかります(もちろん自分も笑いました)。

自分の恥を晒すようですがテレビと邦画をほとんど見ないでここまで来たので、
出演されている方の演技をじっくり見るのはこれが初めてのことだったのですが
どんな言葉でも表現することのできない芸のすごさに触れたように思いました。

特にもっとも笑わされて泣かされたのが庄蔵/市川猿之助でした。

まず1幕で先の見えない放浪に絶望しきった仲間に「笑える話をしてくれよ」とせがまれて、
話し尽くした持ちネタをしぶしぶ話す一人語りのシーンが圧巻でした。

話し始めはちゃんとおもしろくなくて、いつの間にか盛り上がって客席でおなかが捩れるくらい笑い、
そこから行きついた笑いの向こうの深い悲しみと慟哭。

なんて演技、技術なんだろう……圧巻でした。

さらに三幕の光太夫/松本幸四郎との場面の叫びの凄絶さには役の命が迸っていてました。

この辺りから涙が止まらなくなり、最後に向けてそれは高まっていって脚本にも演技にも散々泣かされました。

人間と人間のドラマであり宗教の話でもあり、見終わってからもロシアの大地に自分の一部が残されたままのような気がします。

東劇では11月19日で上演が終わってしまうのですが
自分自身リピートしたいくらいですし、何の基礎知識もないまま見て楽しめたので歌舞伎に初めて触れる方にもおすすめです。

エカテリーナ2世と宝塚歌劇と麻乃佳世のこと

泣きすぎて魂の抜けたままエンドロールの文字をぼんやりと追っていると「所作 あづみれいか 麻乃佳世」という文字が飛び込んできました。

元月組トップ娘役のよしこちゃん(麻乃佳世)がエカテリーナ2世を戴くロシアの宮廷貴族たちの所作指導をされているそうです。

貴族のご夫人方の輪っかのドレスやひらめく扇を「馴染みがあるというかよく知っているやつだなあ…」と見ていたので
本当に元タカラジェンヌの所作指導が入っていることに納得しました。

また予告編の中に犬橇のシーンがありますが、このインタビューからはよしこちゃんが振付にも携わっていることがうかがえます。

ダイナミックかつ演劇的で、シネマ歌舞伎ではカメラワークも凝っていて、この作品のハイライトの1つと言っていい場面でした。

ところで宝塚歌劇でエカテリーナ2世の治世に漂流する日本人の話と言えば宙組「望郷は海を越えて」があります。

これはたしか第一次ヅカファン時代に観劇して客席で「???」となったっけ…と思い出しました。

折しも本日新人公演がスカイステージで放映されていました。

そしてエカテリーナ2世と言えば「黒い瞳」でプガチョフ率いるコサックたち反乱をねじ伏せ、
大尉の娘マーシャに慈悲を見せたあの美しい女帝です。

プガチョフの乱が1773年、大黒屋光太夫と謁見したのが1791年のことです。

どういうご縁でよしこちゃんが三谷かぶきに関わることになったのかはわかりませんが、
「黒い瞳」初演は月組ですし(よしこちゃんはすでにご卒業されていますが)ヅカファンとしてうれしくなったOGさんのお仕事でした。

その「黒い瞳」では
マーシャが愛するニコライを助けるために雪原を急ぎに急ぐ場面があります。

原作のプーシキン「大尉の娘」を未読のままこれを書いていますが、この急ぐ場面を宝塚歌劇では
躍動感と美しさに満ちたダンスシーンとして表現されていました。

ふと、マーシャの移動手段の一つにあるいは犬橇があったのでは?と「月光露針路日本」を見て思いました。

原作の漫画「風雲児たち」によるとヤクーツクからイルクーツクへの旅となった犬橇はものすごいスピードが出る(馬より速い)そうです。

凍てつく寒さ中を猛スピードで進むということは風によって苛烈に冷えるわけで、光太夫一行は凍傷と戦いながらの旅だったようです。

歌舞伎座「蜘蛛の絲宿直噺」この世の憂さを払う

猿之助さんの芸にすっかりやられて、これはぜひ生の舞台で見ないわけにはいかないーーと思ったら
ちょうど11月の歌舞伎座「蜘蛛の絲宿直噺(くものいとおよづめばなし)」に出演されているではないですか。

ヴィスタリアをロシアの沼に沈めたお友だちが「猿之助さんご贔屓筋によると初心者でも楽しめる舞踊劇らしい」と
チケットを取ってくれて観に行ってきました。

公式サイト(歌舞伎美人)と筋書き(プログラム。1,300円)を参考にあらすじを書いてみます↓

源頼光/中村隼人の館では病に伏せる頼光を守護するため、家臣の坂田金時/市川猿弥碓井貞光/中村福之助、その女房たち(市川笑三郎、市川笑也が宿直をしています。

異様な眠気に襲われる金時と貞光に女童熨斗美(のしみ)が濃茶を持って現れたかと思えば
小姓澤瀉(おもだか)が頼光に薬を渡したいと現れ、阻まれると蜘蛛の糸を打ちかけて姿を消す。

ーーと思えば番頭新造の八重里が頼光の馴染みである傾城浮雲(うすぐも)の文を渡してくれと現れるがこもれまた土蜘蛛の化身である。

金時と貞光が寝所へ詰める間、女房たちが案じていると太鼓持彦平が現れ、女房たちに所望されるままに渡辺綱が羅生門で鬼退治の様子を語ってみせるが、これも物の怪の仕業である。

とうとう頼光のもとに傾城薄雲太夫が訪れ、久しぶりの逢瀬を楽しむ二人でしたが…。

猿之助さんが早変わりを含めてこの5役を演じ分けるのですが、この演じ分けがすさまじかったです。

いずれの役も表情、纏う雰囲気から別人で、言われても同じ人とは思えないほどです。

また舞台の思わぬところから飛び出したり引っ込んだり、アクロバティックな技もあって
身体能力と歌舞伎の舞台の仕組みに驚きました。

猿之助さんの最終形態は傾城浮雲からの正体を表した土蜘蛛で、あっちからこっちから白い幾筋もの蜘蛛の糸がこれでもか!と出てくるんです。

(このうきぐもつちぐもの韻を踏んだ言葉遊びに興奮せずにいられませんし
宝塚で蜘蛛といえば「月雲の皇子」だな…と思い出しました。)

いずれも衣装も美しいのですが、傾城浮雲から土蜘蛛に变化しての白銀の着物や千条の白い蜘蛛の糸と
紅葉の朱の対比が特にすばらしかったです。

幕切れに向かって盛り上がながら、舞台が白い蜘蛛の糸で埋め尽くされるのではないかというくらい次々と繰り出される
派手さと迫力にに客席で大興奮でした。

楽しい!おもしろい!美しい!という快楽のツボのど真ん中をこれでもかと刺激された歌舞伎座でした。

また新型の感染症の時事ネタが盛り込まれていて客席は大いに沸き
舞台とはこの世の憂さを払い忘れさせてくれるひと時であることも感じました。

晩秋のいま見るのにふさわしく11月26日まで上演中です。

最後まで読んでいただきありがとうございました。
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